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422:救出作戦

「う~ん……、むにゃむにゃ……、ん? んんん?? ……はっ!? ここはっ!??」


寝心地の良いベッドの上で、枕をギュッと抱きしめた格好で、俺は目覚めた。


「あ、起きたわね~? も~いきなり眠り出すんだから、びっくりしたわよ」


すぐそばには、椅子に腰掛けて本を読むグレコの姿があった。


「ぐっ!? あれ!?? ここは……、んんん? あれ??」


状況が全く掴めずに、キョロキョロする俺。

この部屋には見覚えがある。

白薔薇の騎士団の、野営テントの一室だ。

何度も寝泊まりしていたから間違いない。

けど……、何故ここに?


「はっ!? ホムンクルスはっ!?? みんなはっ!???」


「……何言ってるのよ? 寝惚けてるの??」


顔をしかめるグレコ。


嘘だろ……、まさか!? 全部夢っ!??


窓の外に広がっている風景は、あのタウラウの森の終わりにあった三子岩と、草原だ。

ずっと先に見えるフラスコの国の国門は、まだ白い煙を上げながら燃え続けている。

東の空にあったはずの太陽は、既に沈みかけているようで、世界はオレンジ色に染まっていた。


「今、下で会議が開かれているわ。これからどうするか……」


「これからって……、え? 何が、どう??」


混乱する俺に、グレコがこれまでの経緯を説明してくれた。


カービィや白薔薇の騎士団の残留メンバーが、防護魔法である土の塊の中からノリリア達を助け出しているその最中、俺は突然倒れた。

どうやら、戦いにおけるアドレナリン分泌が収まって、緊張感が解けたことから眠気に襲われ、不覚にも意識を失ってしまったらしい。

まぁ……、俺にしては頑張ったよ、うんうん。


それから、ケンタウロス達と騎士団のみんなは一度、フラスコの国から出た。

やっぱりあの国には、何かよくない空気が満ちていたらしい。

それが何なのかを今、チリアンとパロット学士、ロビンズが調査しているそうだ。


救出された騎士団のメンバーは全部で六名。

ノリリアと、通信班リーダーのインディゴ、衛生班のサンと、虎人間のライラック、そしてパロット学士と、新米召喚師のミルクだ。

その六名のうち、ライラックは右肩に大怪我を負っていたようだが、サンの応急処置によって命に別状はないらしい。

そして……


「ポピーとメイクイは……、みんなを助ける為に囮になって、ホムンクルス達に捕まった」


神妙な面持ちで、グレコが言った。


「三日前……、ノリリア達が国に入った途端、ハイエルフに扮したホムンクルス達の態度が一変して、みんなを捕らえようとしてきたらしいの。それで、ノリリア達はなんとか国から出ようとしたんだけど、相手がホムンクルスだったからどうにもならなくて……。最初にメイクイが囮になって、次にポピーが……。それでもどうにもならなくて、ライラックが重傷を負ってしまった。だからノリリアは、最後の手段であるあの防護魔法を行使したの。それから三日間、みんなはあの守護壁(アミナ・トイコス)の中で、私達が助けに来るのをジッと待っていたのよ。きっと不安だったでしょうね……。ノリリアが泣いているところ、初めて見たわ……」


そんな……、じゃあ、メイクイとポピーはどこに……?


すると、タンタンタンと軽快な足音を立てながら、誰かが階段を上って二階にやって来た。


「お!? 起きたかモッモ!??」


開けっ放しだった部屋の扉から、カービィがピョコっと顔を出す。

例によって、いつものヘラヘラ顔だ。


仲間が二人行方不明だってのに……、なんでヘラヘラしてんだこいつはっ!?


「カービィ!? それで……、どうなったの? どうするって??」


「うん、それを説明しようと思ってな……。ギンロはどこだ?」


「ギンロは、隣のテントでライラックの看病をしているはずよ。あの二人、仲が良かったから、さぞ心配でしょうね……」


そうか、ギンロはライラックの所にいるのか……

まぁ別にいいけどさ、俺の心配もしてよギンロ~。


「そっか。まぁ、ギンロは今回の作戦には関係ねぇからな、問題ねぇや」


ニヤニヤと笑うカービィ。


だからっ!?

なんで笑ってんのさっ!??

不謹慎だぞぉっ!?!?


「作戦って……、メイクイとポピーを探しに行くの?」


「さすがグレコさん、御名答! ケンタウロス達と騎士団でフラスコの国の全ての建物をくまなく探したんだが、二人は見つからなかった。それに、あの建物はほとんどハリボテだったんだ」


「ハリボテって……、どういう事?」


「つまり、奴らはあの建物で生活してなかったって事さ。建物の中にはホムンクルスはおろか、家具もな~んも無かったんだ。つまりは、奴らの住処はあの城だけであって、外の町は飾りだ」


「そうだったの!? でも……、それならどうして、あんなに立派な町を??」


「それはおいらにも分からねぇな。まぁ……、考えられるとすれば……、いや、今はそれよりも、これからの救出作戦の事だ! モッモ、おまいも来いっ!!」


グレコとカービィの会話を、寝惚け眼でボンヤリと聞いていた俺は、唐突に名前を呼ばれてハッ! とする。


「ふぁっ!? ぼっ、僕っ!??」


「そうだ。小さいのはおいらとおまいとカサチョくらいだからな!」


ちっ!? 小さいけどさぁっ!??

確かに小さいけど、それが理由なのっ!???


「カービィ、分かるように説明してちょうだい。いったい何をしようとしてるの?」


グレコの問い掛けに、カービィはニヤリと笑う。

とってもとっても悪い顔で、ニヤリと……

これまでの経験上、こういう顔をする時のカービィは、ろくな事を考えていない。

俺は、背筋に悪寒が走るのを感じた。


「ここに、図面があります」


そう言ってカービィは、見覚えのある紙を俺たちに見せる。

それは間違いなく、ニベルーの子孫であり、未来が見えたというアルテニースが残した、フラスコの国の詳細地図だ。


「それがどうかしたの?」


「はい。これにはフラスコの国の、あの城の内部の詳細な図面が描かれているんですね。あの城は、国の中から入ろうと思うと、あの鉄の扉しか出入口がないのです。だけど見ての通り、あの鉄の扉はかなり頑丈で、おそらく魔法も弾かれてしまう仕様でしょう。そこで、おいら様は考えました! 別の入り口を探そうとっ!!」


勿体ぶった言い方をするカービィに対し、グレコは少々イラついた様子だ。

俺はというと……、何故だか、カービィの立てた作戦が分かってしまって……


「やだよっ! 水路からなんて絶対やだっ!!」


思わずそう叫んだ。

俺の言葉に首を傾げるグレコ。

そしてカービィは、再度ニヤリと、いやらしい笑みを浮かべた。


「さすがモッモ、御名答! というわけで……、体が小さいおいらとおまいとカサチョで、城の裏側にあるはずの水路から、ホムンクルスの城へと乗り込むぞっ!!」


ぎゃあぁああぁぁ~っ!?!?

やっぱりぃいいぃ~~~!?!!?


目玉が飛び出しそうなほど驚く俺を、グレコは深刻な表情で見つめ、カービィは満足そうに腕組みをしたポーズで何度も深く頷いていた。


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