420:モッモ無双
ぎゃあぁ~!?
火がぁああっ!??
「うぉら~っ!!!」
勇ましい雄叫びを上げながら、シーディアは崩れ落ちた国門の間を駆け抜ける。
アイビーの爆破魔法によって粉々になった国門の残骸は、真っ赤な炎に包まれて、轟々と激しく燃えていた。
しかし、それを物ともせず、まるでサーカス団の火の輪くぐりの如く、シーディアは全速力でフラスコの国へと突入した。
「あちちっ!? ……えっ!??」
降り掛かる火の粉を払いながら俺は、目の前に広がる光景に驚き、高速で瞬きをした。
想像していたのと全く違う風景が、そこに広がっていたからだ。
巨大なガラス容器のような物体の中に存在する、ホムンクルスの巣食うフラスコの国。
その内部は、まるでどこぞの立派な王国の様に、綺麗に整備された美しい街並みが広がっていた。
国門を抜けたすぐ先にあったのは、噴水のある小さな広場だ。
ただし、そこから流れ出る水は普通のものではないらしく、不気味な濃い青色をしていた。
広場からは通りが幾本も伸びていて、茶色い煉瓦造りの小さな家々が所狭しと立ち並んでいる。
道も煉瓦で綺麗に舗装されていて、これまで旅してきたピタラス諸島のどの場所よりも、文明としては高度だろうと思われた。
なんだっていったい、こんな綺麗な場所に、あんな化け物が住んでるんだ……?
俺は、周りにひしめいている、この素敵な街の風景に全くそぐわ無い彼らを、ビクビクしながら見渡した。
造出生命体、またの名をホムンクルス。
彼らの外見は様々ながらも、酷く醜かった。
国の中の者はローブを身に纏っておらず、その全身が顕著に見て取れる。
姿形は、ハイエルフに似ている者から、人間やその他の獣人など……、果てはケンタウロス型のホムンクルスまでいるようだ。
しかし、そっくりではあるものの、やはり彼らは異質だった。
体の一部、もしくは全身が黒く変色し、腐敗しかかっているのだ。
酷い者だと、目元より上の頭部以外が真っ黒になり、既に皮膚がジュクジュクと膿んでいる者もいる。
あれはもう……、生命体と言うよりは、歩き回る腐乱死体に近い。
カービィの言葉を思い出しながら俺は、あまりに醜い彼らの姿に、恐怖を通り越して呆然としていた。
「敵襲! 敵襲っ!!」
「国門が破られたぞぉっ!?」
「戦える者は武器を取れぇっ!!!」
口々に叫ぶホムンクルス達の声が、辺りに響き渡る。
逃げ惑う者、驚いて腰を抜かし動けなくなる者、武器を手にこちらに向かってくる者……
ざっと見ただけでも、数十……、いや、百を超えるホムンクルスがこの場にいるようだ。
「うわぁ~!?!?」
叫び声をあげながら、こちらに突進してきたのはハイエルフ型のホムンクルスだ。
その手には槍を持ち、シーディアの体を側面から突き刺そうとした。
「さぁ~っ!!!」
聞き覚えがある様な無い様な、勇ましい声を上げながら、シーディアは剣を一振りする。
ビュンッ!という、刃が空を切る音が聞こえたかと思うと、槍を持ったホムンクルスは、その腹部を切り裂かれ、赤黒い血飛沫を上げながら、後ろへと吹っ飛んだ。
なんという威力!?
だてに次期族長を名乗っているだけあるな、シーディアすげぇっ!!?
しかし、相手はホムンクルスである。
すぐさま起き上がり、また槍を手に向かってくるではない。
その腹部から、見てはいけない内臓を飛び出させたままの格好で……
あぁあぁぁっ!?
グロテッスクぅうぅぅっ!!?
あんな状態でも普通に立って走ってくるぅうぅぅ!?!?
そしてすぐさま、シーディアは周りを囲まれてしまう。
前も横も後ろも全部、腐敗しかかった体躯のホムンクルス達で埋め尽くされた。
ぎゃあぁああぁぁっ!?
バイオハザードぉおおぉぉっ!??
「守護!!」
魔導書を開き、呪文を唱え、杖を振るうアイビー。
杖の先から放たれた光は薄い膜となって、俺たちもろともシーディアの体をすっぽりと覆った。
これはおそらく、守護結界の簡易バージョン!?
けれどもホムンクルス達は、そんな守護結界など御構い無し、なりふり構わずシーディアに襲いかかる。
結界に触れたホムンクルスは、触れた部分の体がドロリと溶けて、ぼたぼたと地面に落ちた。
しかしそれをも無視して、ホムンクルス達はなおも攻撃を仕掛け続ける。
シーディアは、敵の攻撃をうまく交わしつつ、次々と奴らの体を斬り上げた。
そのどれもが急所狙いで、相手がホムンクルスでなければ一撃で仕留めているだろう。
でも、何度も言うように、相手は不死のホムンクルスなのだ。
手足がもがれようとも、皮膚がめくれて肉が裂け、骨が剥き出しになろうとも、ホムンクルス達は血反吐を吐きながらこちらに向かってくる。
これではキリがないっ!?
そしてエグいっ!!?
ななな、何とかしなくちゃっ!?!?
「モッモ君! 石化魔法をっ!!」
背後のアイビーが叫び、俺は我に帰る。
「はっ!? はいぃ~っ!!!」
そうだよっ!
俺がやらなきゃならんのだよっ!!
右手に持った万呪の枝を、ギュッと握り締める俺。
大丈夫、出来るさ。
前だって出来たんだから。
やってやる……、やってやるぞっ!!!
「う~……、え~~~いっ!!!!!」
俺は、とっても格好悪い声を上げながら、万呪の枝をホムンクルスへと向けた。
本当は、カービィの魔法みたいに、何か呪文でも唱えようかと思ったのだけれど……
必要ないし、思い付かないしでやめておいた。
「グァッ!? なんだっ!?? ああぁっ!?!?」
たまたま枝を向けた先にいたケンタウロス型のホムンクルスが、呻き声を上げながら動きを止めた。
武器を掲げたままの格好で固まり、その目は光を失って見る見るうちに白く変色した。
「おぉ!? 効いてるっ!?? よ~し……、えいっ! えいっ!! えぇ~いっ!!!」
これまたなんとなく……、たまたま視線を向けた先にいるホムンクルスに向かって、俺は万呪の枝を振るった。
すると……
「うぐっ!? 体が、動かなっ……!??」
「ががっ!? 何がどうなって……、るっ!?? がぁあぁぁっ!?!?」
ホムンクルス達は、悲痛な呻き声を上げながら、次々と動きを止めていき、その瞳を真っ白に染めていった。
「まさか……、石化魔法っ!?」
ハイエルフ型のホムンクルスの一人が、目を見開き驚いて、そう口にした。
すると、その言葉を聞いたホムンクルス達は、明らかに動揺し始める。
そして……
「爆破!」
最初に石化したケンタウロス型のホムンクルスに向かって、アイビーが小さな光の玉を飛ばした。
光は、ケンタウロス型ホムンクルスの胴体部分に着弾し、ドォーーーン! という爆発音を上げながら、ケンタウロス型ホムンクルスの体を粉々に砕いた。
飛び散った体の破片は肉片ではなく、まるで石のように鋭利な形をしている。
「ま……、まずい……。石化魔法だぁっ!?」
「にっ!? 逃げろぉ~!!!」
悲鳴を上げながら、逃げ出すホムンクルス達。
「馬鹿者っ!? 戦えぇっ!!? 残って戦うのだぁあっ!!!!」
ホムンクルスの中でも、司令役っぽいハイエルフ型のローブを着た奴が、逃げ出すホムンクルス達を制止する。
その結果、ホムンクルス達は半狂乱に陥って……
「わぁああ~!?」
「あぁあぁぁ~!!!」
奇声をあげながら、なおも攻撃を仕掛けてきた。
しかし、奴らの武器がシーディアに届く事はない。
何故なら……、俺がいるからだっ!
「え~~~いぃっ!!!」
万呪の枝を、思いっきり振り回す俺。
頭の中で、石になれ! 石になれ!! 石になれ!!! と連呼しながら。
「うぉらぁあ~っ!!!!」
シーディアが剣を振るい、石化したホムンクルスの体を粉々に砕く。
戦況は、一気に逆転した!
「いいぞモッモ君! もっとだっ!!」
「はいぃっ!!!」
アイビーに鼓舞されて、俺は舞い上がる。
俺ってば……、戦えちゃってるじゃないっ!?
めちゃくちゃ役に立ててるじゃないっ!??
ひゃっほぉ~いっ!!!
ホムンクルス共め、来るなら来いっ!
このモッモ様が全員、石に変えてやろうぞっ!!
モッモ無双じゃあぁっ!!!
ふはははははっ!!!!
次々に、ホムンクルス達を石化していく俺。
寝不足によるナチュラルハイも手伝って、感じる快感が半端ない!
アドレナリンが出まくってるぅっ!!
ヒーーーハーーー!!!
そうして戦う事数分。
残りのケンタウロスと騎士団のみんな、カービィ、グレコ、ギンロにメラーニアが、フラスコの国の内部へと突入してきた時にはもう、その場にいるホムンクルスの半数が、俺の万呪の枝によって石化され、動かなくなっていた。




