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40:生死の境目

あったかいなぁ~、いい気持ちぃ~。


ふわふわふわ、ゆらゆらゆら


ずぅっとこのまま、ここにいたいなぁ~。


だけど……、あれれ? なんだろう??


「……モッモ、……モッモ!」


どこかで、誰かが、俺の名前を呼んでいる。


この声、誰だっけ?


どこか懐かしい気持ちになる、優しい声。


「……母、ちゃん?」


「モッモ!? 気がついた!?? 寝ちゃ駄目っ! 目を開けててっ!! モッモ!! モッモ!!!!」


あれぇ? 母ちゃんじゃない……??

 じゃあ、誰だ???


目を開けなくちゃ。

目を開けて、確かめないと……








「んぅ~???」


「モッモ!? あぁ……、あぁ〜良かった。もう、死んじゃったかと……。わかる? 私の事分かる!? 私! グレコ!!」


 視界いっぱいに広がる、グレコの美しいお顔。


 ん~? あぁ、グレコかぁ~。


「ん、わかるぅ~」


 寝惚けた声で返事をする俺。


「そう……、良かったぁ〜」


 グレコは、大きな大きな息を吐き、安堵の表情で笑った。


 ん〜っとぉ……、ん? 

 ここはいったい、どこだろう??

 俺は、どうしたんだ???


 周りには、何やらエルフが沢山いる。

 みんな女性で、とっても美人だ。

 グレコと似たような服を着ていて、何やら忙しそうに動いている。

 水の張られた木桶を持っていたり、床に落ちている血だらけの手拭をいくつも拾い集めていたり、綺麗な色の瓶を大量に運んでいたり……

 それになんだかこの部屋、とっても血生臭いな。


「グレコ……? 何がどうなったの?? 僕……、どうしたの???」


 俺の質問に、グレコが少し渋そうな顔になる。


 ん? なんだろう??

 それに……、あれ???

 グレコの髪って、こんなに茶色だったっけ????


 真っ黒だったはずのグレコの髪が少し、色が抜けたように茶色くなっているのだ。


「モッモ、落ち着いて聞いてね。あなた……、さっき、砂浜で」


 砂浜……、はっ!?


「あっ! そうだっ!!」


 思い出したぞっ!!!

 なんか、グレコそっくりの女エルフと出会って、それで、それで……


「僕! 噛まれたっ!?」


 そうだっ! 俺、あいつに首元噛まれて!? 

 そんでもって……、どうなったんだっ!??


「落ち着いて! モッモ、落ち着いてちょうだいっ!! 噛まれたのはもう大丈夫、ちゃんと消毒したし、吸われた血も清血ポーションで補ったから安心して!!!」


「せいけつポーションっ!?」


 何それっ!?

 ポーションってのは確か、前世の記憶によると、冒険RPGとかでHPとかMPとかを回復する為のアイテムではっ!??

 せいけつって……、綺麗になる(清潔)薬ってこと!?!?


「あ~、えと~……。生きた動物や魔獣から取り出した血なんだけど、え~と、その~……、エルフ特有の魔術で不純物を取り除いて……、簡単に言ったら綺麗な血のこと! 魔術がかかっているから、普通の血よりも少し回復が早いのよ」


 血っ!?!??


「そっ!? そんなの使って大丈夫なのっ!??」


 要は、輸血という事だろう。

 俺の今の血液型が何型なのかは分からないが……

 そんな、知らない血を体に入れて大丈夫なのか!?

 しかも、どこぞの動物や魔獣から取っていて、更には魔術がかけられている血液だとぉ~!??


「大丈夫! 大丈夫だから!! 清血ポーションは、穢れをしっかり落としたものだから、安全安心!!! 私たちブラッドエルフが毎日飲んでいる物だから、安心して!!!! そこは問題無いからっ!!!!! ふぅ〜……。とにかく興奮しちゃ駄目よ、落ち着いて〜、落ち着いて〜、……ね?」


 起き上がろうとす俺をの肩を、ポンポンと優しく叩きながら宥めるグレコ。


 大丈夫、なのか……?

 めっちゃ不安なんだけど……


 ……ん? てか今、グレコのやつ、「そこは問題無い」って言った??

 そこはって事は……、そこ以外に、何か問題でも???


「じゃあ……、何か、他に問題が……?」


「うっ!?!?」


 俺の質問に、分かり易く固まるグレコ。

 気まずそうな顔をして、俺から目を逸らす。

 

 なんだよぉっ!?

 目を逸らさないでよぉおっ!??

 俺、どうなっちまったんだよぉっ!?!?


「モッモ、落ち着いて聞いてね。あなた、とっても沢山血を吸われてね……。本当に、死にかけていたの」


 ……


 ……


 ……オーマイガー。


 あのふわふわした、ゆらゆらした気持ちいい感覚は、生死の境目だったのですね。

 けれど、俺は死んでも生き返るはずだし……

 あ、でも、死んだら三分前に戻るとか言っていたっけ、神様……

 三分前に戻った感覚はないし、死んだような記憶もないから、きっと死んでないんでしょう、うん。


……………で?


「それで、なんとか一命を取り留めたんだけど……。あなたを蘇生する為に私、使っちゃいけない力を使ってしまって……」


 お……、おぉ、それで……?


「その……、私の中にあるエルフの力が少し、あなたに移ってしまったみたいで……」


 ……ん? え?? うん、……うん???


「ピグモルの寿命がどのくらいあるのか、私は知らないのだけど……。もしかすると、あなたは……」


 俺は……????


「エルフと同じ、不老の力を持ってしまったかも知れないの」


 グレコは、もの凄~く気まずそうに、手を胸の前でもじもじしながらそう言った。


 ふろうの、ちから……?

 えっとぉ……、なんだ??

 結局どうなんだ???


「それっていったい、どういう……?」


「モッモ、あなたはもう十五歳よね? つまり、立派な大人のピグモルなのよね?? それで……、おそらくなんだけど、あなたは今後、一切年をとらない。あなたの肉体は全て、時が止まったかのように、何にも変化する事がなくなっちゃったかも知れない……、って事なのよ」


 ほう、年をとらないとな……?

 で……、身長も体重も変わらないと……??


 しばし沈黙し、グレコの言葉を理解せんと思考を巡らせる俺。

 だけど、理解はしたけど、この現実をどう受け止めればいいのか、俺には全く分からない。


 えっとぉ~、それは~、その~……

 どういうリアクションが正解なのかしら?

 喜べばいいのかな??

 それとも、悲しめばいいのかな???


 困惑する俺に対し、グレコは申し訳無さそうに眉根を垂らして、苦笑いしていた。


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