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3:自由の剣

「明日! 我が村に授かりし神の子モッモは!! 北の山々の聖地を目指し旅立つ!!! 皆の者、今宵はその門出を盛大に祝うのじゃっ!!!!」


「うおおぉぉぉっ!!!!!」


 日が暮れて、テトーンの樹の村では宴が始まった。

 畑とは別の場所にある広場では、キャンプファイアーのような組み木が用意され、赤々とした炎が燃え上がっている。

 料理や酒が山ほど出され、村中が笑い声に満ち溢れる。

 ピグモルたちは、楽器を演奏したり、歌を歌ったり、ダンスを踊ったりしているのだが……その可愛さったらもうない。

 想像してみて欲しい、愛らしい小動物が集団でお祭りさわぎをしている場面を。

 ……まるでシルバニアファミリーのようだ。


 普段はみんな大人しくて、祝い事があってもそこまで盛り上がる事もないのだが、今回ばかりは違うようだ。

 出された酒をグイグイと飲み、広場には次々と酔っぱらいピグモルが出来上がっていく。

 まぁ、その酒っていうのも、俺がシチャの実から絞り出した果汁を上手く発酵させて作り出したものなんですけどね、はい。


 ピグモルは、十二歳になると大人と同じように酒を飲む事を許される。

 成人(成獣?)と見なされるのは十五歳だが、十二歳の頃には大人と変わらない体格にほぼみんながなっているからだ。

 よって、今夜の主役である俺も酒を飲んでいいわけだが……

 さすがに、そんな気分にはなれそうにない。


 夕方……、村一番のでかいテトーンの樹に住む長老の家にて、北の山々の聖地に旅立てとか命令されて、小川でひとしきり凹んだ後に家に帰ると、母ちゃんが泣いてたんだ。

 先に帰ったコッコとトットに話を聞いたのだろう。

 しかも、ただ泣いてたんじゃなくて、悲しいのを必死に隠そうと、声に出さないように、物置部屋に一人で隠れて泣いてた。

 その姿を見ると、なんかもう辛くて辛くて、堪らなくて……


 幼い頃から、母ちゃんが常々、俺に言っていた事。


「モッモ、普通でいいんだよ。母ちゃんはね、モッモが元気で、この村で幸せに暮らしてくれる事が一番の願いなんだ。だからね、モッモ……。普通でいいんだよ」


 これまで俺が、前世の知恵や知識で何かを思いついて行動に移し、それに対して大人たちが過剰に反応する度に、母ちゃんはそう言っていた気がする。

 まるで今日、こうなる事を予知していたかのようにだ……


 父ちゃんはと言うと。


「我が息子モッモは、神に選ばれし者だ! モッモに栄光あれぇっ!!」


 どこの宗教家だよ!? と、突っ込みたくなるほど、上機嫌に酒を煽って、みんなに向かって叫び続けている。

 その声に呼応するように、


「モッモに栄光あれっ!」


「偉大なる神の子モッモ!!」


 などなど、絶えず声があちらこちらから上がっている。


 まぁまぁみんな、いつもは鳴き声一つ上げないというのに、元気な事で……

 酔っ払ってるからね、今夜ばかりは仕方ないよね。


 俺はなんだか居たたまれなくなって、そっと宴を抜け出そうとしたのだが、


「ここで! モッモに武器を授けようぞっ!!」


「おおおおっ!!!」


 長老が立ち上がり、何やら大きな葉にくるまれた長いものを持ってきた。


 武器ってそんな……、そんなもの、この村に存在したのか?

 戦いの「た」の字にも興味が無さそうな、このピグモル達の村に??

 いやぁ……、なんだか嫌な予感しかしない……


「皆の者、とくと見よっ! これが、我らピグモル族に代々伝わる、【自由の剣】じゃあっ!!」


 勢いよく、大きな葉を剥ぎ取る長老。

 その中から現れた物は……


「おおおおおおおっ!!!」


 うげっ!?

 はぁ~、出たよ出たよ……

 RPGで一番いらない初期武器、宝箱から入手しても嬉しくないものナンバーワンのあいつ。

 何がおお~だよ、ただの木の棒じゃねぇかよおいこらっ!!!


 長老が誇らしげに高々と掲げているのは、そう……、ただの木の棒だ。

 少しばかりこう、年季が入っているだけの、茶色い木の棒。


「これは、我らピグモル族の自由の象徴! まだ奴隷であったわしらを、自由へと導いてくださったかの高名な魔法使い様から賜りし自由の剣じゃ!! これを持って、神のおわす聖地へ向かうのじゃ!!! モッモよぉおおおぉ!!!!」


「うおおおおおおおぉっ!!!!!」


 酒が入っていると言えど、興奮しすぎな周りの大人たちを、俺はかなり引いた目で見ている。

 しかし、ここは穏便にだな……、長老を立てる為にも、有難く受け取っておくしかなさそうだ。


「有り難く頂戴いたします! 僕、モッモは、この自由の剣を手に、聖地を目指しますっ!!」


 何でもない茶色い木の棒を掲げ、俺は声高らかに宣言した。


「うぉおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!!」


 広場の熱気はピークに達し、大人たちは聞いた事のないような雄叫びを上げる。

 そんな周りとは裏腹に、俺の心はたいそう冷め切っていたが、それを知る者はこの中にはいない。


 さ~て……、明日からどうしたもんかねぇ……


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