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356:虚偽申請

「わははははっ! いくらなんでも、他種族の雄に手を出したりやしやせんて!! 自分は同族しか眼中にありやせん!!!」


ライラックが、まんま虎の口を大きく開け、鋭い牙をギラギラと光らせながら笑ってそう言った。


……お、お口を、お閉じになってくださいまし?

間違って食べられたら困りますわっ!


ガクブルガクブル


「右に同じだ。他種族の女ならまだしも、さすがに男は無理だな。契りを結ぶなら、同族の女がいい。他種族はこう……、何もかもが柔らかすぎる」


腕組みをして、うんうんと一人頷きながら、ブリックは言った。


同族の女って事は、岩女って事か?

つまり、お互いに全身カッチカチなわけだよな??

何をどうしたらこう……、いや、考えるのはよそう、気分が悪くなりそうだ。


「わざわざ見舞いに来てくれたのでな、二人に悪魔ハンニから受けた傷を見せていたのだ。カービィの治癒魔法は真に良く効いたが、傷跡は残ったのでな」


何故か誇らしげな顔でそう言って、ギンロは上着を羽織った。


ギンロは、フェンリルと他種族のパントゥーだから、顔と首と肩の一部、それと手と腕以外の上半身の肌は、人のそれとほぼ同じなのだ。

真っ白なすべすべお肌のギンロのお腹には、悪魔ハンニにやられた傷跡が痛々しく残っていた。


「なっはっはっ! おいらはてっきり、おまい達の頭がおかしくなってしまったのかと思ったよ!!」


遠慮なくディスるカービィ。


……まぁ、死にかけた傷の跡を誰かに見せようと思う時点で、ギンロはなかなかにおかしいけどね!

それを見ようと思った二人も、かなりおかしいけどね!!


「またまたぁっ! カービィさんだって、他種族の雄など嫌でしょうが!? たとえ雌でも、自分は受け付けてやせんわ」


「そうなのか!? ……おいらは女なら何の種族でも大丈夫だけどな!!」


黙れ! ライラックにカービィ!!

このぉ~、破廉恥めぇっ!!!


「二人ともその辺にしておきなさい。ほら、レディーもいらっしゃるのだから……。ねぇ? グレコさん」


思いの外、空気が読めて紳士的なブリック。

平気で下ネタを話すカービィとライラックを諌めたではないか。


だがしかし、空気を読めなかったのはグレコの方で……


「私は……、他種族でも、素敵な方ならオッケーよ♪」


ニコリと笑ってそう言った。


何がぁあっ!?

何がオッケーなのぉおっ!??


「うっひょぉ~!? ならおいらにもチャンスがっ!??」


目がハートチカチカのカービィ。


「カービィ、あなたは絶対に嫌よ」


一蹴するグレコ。


「ズガァアアアァ~ンッ!!!!!」


ショックのあまり、床に全力で倒れるカービィ。


……何なのさ、このコントは?

こんな事している場合なの??






「ふむ、承知した。そのケンタロウとやらの縄張りだが、我の鼻であれば、嗅ぎ分ける事が出来るだろう」


「……ケンタロウじゃなくて、ケンタウロスね」


俺たちは、ニベルー島に到着した後の予定をギンロに伝えた。

ケンタウロスの縄張りについては……、まぁ、ギンロの鼻より自分の鼻を頼りにしようと思う。

犬みたいな外見のくせに、なかなかに鼻が鈍いからな、ギンロは。


「自分たちもおそらく、港町ニヴァから真っ直ぐに、西の森へ向かう予定です。ルートは現地調査員のカサチョが考えているはずだと、ノリリア副団長は言っていやしたね」


ふむ、ならばやはり、同じ方角に進む事になりそうだな。

そうなった場合、それでもなお、プロジェクトには同行していないと言えるのだろうか?

う~む……??


「え? カサチョって……、かさか??」


カービィがライラックに尋ねる。


「ん? カービィさん、カサチョをご存知で??」


「知ってるも何も、おいらの可愛い後輩だよ! 在学中は二年間、同じ寮で過ごしたんだ!! 何だよあいつ、おいらに相談も無しに……、いつの間に騎士団に入ったんだぁ!??」


パァ~っと笑顔になるカービィ。

どうやら、現地調査員のカサチョという人は、カービィと親しいらしい。


「そうだったんですか。……あれ? でも、カービィさんって確か……。虚偽申請で女子寮に入っていたんじゃなかったですっけ?? まさか……、カサチョも!??」


ブリックが首を傾げる。

虚偽申請て……、正解だけど、そういう言葉を使うと途端に犯罪みたいな感じになるな。

いや、もはや犯罪と同じだな、カービィの場合は確信犯だし。


「いやいや、あいつはなぁ、本当に間違えて入って来たんだ。そもそも異国の片田舎の出身だから、最初は全く文字が読めなかったらしい。後で聞いたら、申請書に何が書いてあるのかさっぱり理解出来なかったから、それっぽく適当に書いたって言ってたぞ。で、気が付いたら女子寮に振り分けられてたんだと。……ぶふっ、なははっ! 馬鹿な奴だろっ!?」


……虚偽申請したあなたより馬鹿な奴なんて、そうそう居ませんよっ!


「そんな駄目な人でも騎士団に入れるのね」


……グレコ、見ず知らずの人をそんな風に言うのはどうかと思うよ?


「まぁ、さすがに今は読み書きも普通に出来てやすよ。カサチョは……、性格こそあれですが、実力は相当なもんですわ。それこそ、ギルドで一二を争うほどの魔力の持ち主で、ビーシェント魔法学校を卒業すると同時に、団長自らがスカウトしたらしいです」


ライラックの言葉に、グレコは「へ~」っと、大して興味がなさそうな声を出した。


「あ~、なんか楽しみになってきたなぁ~! ニベルー島!!」


カービィは一人、楽しげに妙なステップを踏み始めた。


……うん、まぁ、楽しみが何も無いよりかは全然いいよね。

けど、そのカサチョって人、聞く限りではかなりの適当ボーイっぽいな。

魔力があったって、そんなんじゃ騎士団の一員として務まらないのでは?

ましてや、一人で現地調査なんて……、ちゃんと出来たのだろうか??


見ず知らずの人に対して、そのような疑問を抱くあたり、俺もグレコと大差ない失礼具合だとは思うが……

後にこの疑問は、まさに現実となるのであった。


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