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315:火傷

「ワーーープッ!!!」


いつもの掛け声と共に、導きの腕輪と石碑を使って、俺たちは紫族の東の村へと戻った。

テレポートした先は、勉坐の家の勝手口から繋がる、いろんな植物が植わっているあの小さな庭だ。


実は昨日……、毒郎の起こした反乱、及び混乱に乗じて、サクッと石碑を建てておいたのです!

もしかすると役にたつかも知れない、なんて……、俺の中の野生的勘が珍しく働いたのである!!

我ながら、なかなか機転が効いていたなと褒めてあげたい!!!


「ここは……、ベンザさんの家ね? さすがモッモ!」


グレコに褒められて、俺はちょっぴり照れる。


「凄い、本当に一瞬で……?」


信じられないといった表情で、目をパチクリさせる砂里。


「ほんじゃまぁ、騎士団のみんなと合流して、シガキって爺さんとも会わないとな!」


そう言って、勝手口に向かって歩き出すカービィ。

すると、ガチャリと音がして、扉がひとりでに開いたかと思うと……


「ぬ? おぉ、カービィ。それに、グレコにモッモまで……。ここで何をしておる?」


何故だか頭に三角巾のような布を巻き、白い割烹着のような服を着て、手には木製のザルを抱えたギンロが、家の中より現れた。


 なんでギンロがここに?

……てか、何その格好??

 メイドにでもなったわけ???


「ぶはっ!? ギンロおまいっ!?? なんだその格好!??? だはははははっ!!!!!」


堪らず笑い出すカービィ。

グレコも、あまりに衝撃的なギンロの姿に、プッと小さく吹き出した。


「むむ? 何故笑うのだ?? 今、中で皆を介抱している故、これが最適解の格好であるぞ???」


若干顔をしかめつつも、笑うカービィとグレコを無視して、ギンロは庭を横切り、何やら植えられている葉を丁寧にむしり始めた。


「え……、千切っていいのそれ?」


勉坐に怒られるんじゃ……??


「この薬草は火傷に効くのだと、ベンザ殿に教わったのだ。キユウ殿が苦しんでいる故、追加せねば……」


ふむ、勉坐が教えたのか……、ならいいか。


「喜勇様が? ……そんな、まさか!?」


慌てた様子で砂里は、開かれたままの勝手口の扉から、家の中へと駆けて行った。


「火傷っておまい……。ギンロ、何があった?」


カービィの言葉に、ギンロは葉をむしる手を休めずにこう言った。


「ベンザ殿の命令で火山へと向かったキユウ殿たち三人は、何者かに襲われたのだろう……、頂上付近で倒れておったのだ。皆、全身に火傷を負い、重症だ。なんとか我とベンザ殿で村へと連れ帰ったのだが……。エクリュ殿の白魔法をもってしても、あの怪我では長くは持たぬやも知れぬ」


えっ!? 火傷!??

長くは持たぬって……、死んじゃうってこと!?!?


「なるほど、そういう事か……。よしっ! おいらがちょっくら見てやろうっ!!」


腕まくりをして、ニンマリと笑うカービィ。


「……頼むぞカービィ。ベンザ殿が涙する姿を、我はもう見たくない」


いつにも増して声が小さいギンロにそう言われ、力強く頷いたカービィは、ズンズンと家の中へと入って行った。


「モッモ、私たちも行きましょう」


グレコに促され、一心不乱に葉をむしるギンロをその場に残して、俺も家の中へと入った。








勉坐の家の中は、以前は感じなかったはずの血の臭いと、生き物が焼け焦げたような臭いで溢れかえっている。

あまりの異臭に、俺は顔をしかめつつ、グレコに続いて家の中を歩き……

玄関扉からすぐの大部屋に、彼等はいた。


「そん、な……、酷い……」


その光景を見て、グレコも俺も言葉を失う。


巨大な木の囲炉裏を囲うようにして、不規則に置かれた即席の簡易ベッドの上には、勉坐の部下である喜勇とその他二名が横たわっているのだが……

三人共、顔も体も全てを包帯でグルグル巻きにされ、荒い呼吸をしながら呻き声を上げている。

体に巻かれた包帯は、元々茶色いものなのか、それとも血が滲んで茶色くなったのか……

辺りを漂う血と焦げた臭いは、間違いなくこの三人から発せられているものだ。

彼等の傍には、必死の形相で薬草をすり潰すエクリュと、三人を看病するインディゴとメイクイの姿があった。


「喜勇様……、どうしてこんな事に?」


喜勇のいるベッドの隣に立ち尽くし、呆然とその変わり果てた姿を見つめる砂里。


「うしっ! エクリュ、手伝うぞっ!!」


「え……、あっ!? カービィさんっ!?? あぁっ、良かった! 僕一人じゃもう、どうすればいいのかとっ!!」


カービィの登場に、緊張の糸がほどけたのか、エクリュは半泣きになり、インディゴとメイクイはホッとした表情になった。


「情けねぇ声を出すんじゃねぇようっ! そんな顔見られたら、ノリリアに首にされっぞ!? 白魔導師たるもの、いついかなる時も冷静であれっ!!! ほれ、ちゃっちゃと治すぞ~♪」


そう言うとカービィは、ローブの内側から杖と魔導書を取り出し、目を閉じて……


ギストス セラピア


静かに呪文を唱えると、白い光を放つ巨大な魔法陣が、黒い岩の天井いっぱいに現れた。

 それはまるで、時計の歯車のようにゆっくりと、一定の速さで回り始める。

そして、そこから白い光の糸が幾本も垂れ下がり、苦しむ三人の体を優しく包み始めた。


「これは……、凄い魔力ね」


グレコがポツリと零す。

魔力皆無の俺にはよくわからんが、とっても強力な魔法である事はなんとなく理解出来るな。

白い光の糸に体を包まれた喜勇たち三人は、呼吸を落ち着かせて、呻き声も止んだのだ。


カービィの発動した魔法陣を目にしたエクリュは、垂れ流していた鼻水をズズッとすすり、キッと表情を引き締めて、また薬草を擦り潰し始めた。


「サリさん、ここを代わってくださるかしら?」


「え!? あっ……、はいっ!!」


水で濡らした手拭いを、横たわる喜勇の体に当てていたインディゴが、砂里を呼んだ。

戸惑いながらも砂里は、見様見真似でインディゴと交代し、看病を始めた。


「グレコさん。無事で何よりです」


手が空いたインディゴが、グレコに話し掛ける。


「インディゴさん……、いったい、何があったの?」


「何があったのかは、私も存じ上げませんわ。雨乞いの祭壇にて、反乱を起こした者達の回復を待っていた所に、ギンロさんが慌ててやってきて……。身体中が血に濡れてましたから、何事かと思いましたが……。祭壇はアイビーとマシコットに任せ、私たちがベンザ様の家に着いた時にはもう、皆さん、ここでこうして横たわっていらっしゃったのです。それからずっと、夜通し看病をしておりましたの」


徹夜でっ!?

俺たちがフカフカ毛布で爆睡している間に、なんて大変な事に……


「エクリュさんの魔法では治らなかったの? 彼だって……、騎士団の白魔導師なんでしょう??」


……グレコ、それは言わないであげて。

必死であくせくしているエクリュが可哀想だよ。


「エクリュはどちらかというと、薬草学に長けておりますの。だから、回復魔法や治癒魔法自体は少々苦手で……。加えて、あのお三方の火傷は、普通の火傷ではないようですの。おそらく、何者かの呪いを浴びたのではないかと」


のっ、呪いっ!?


「呪いってそんな……。彼等は火山の山頂に行っていたはずなのに、誰がそんな呪いだなんて……、!? まさか!!? 悪魔ハンニが!?!?」


グレコの言葉に、インディゴの表情が一瞬にして強張った。


「ハンニ……、今、ハンニと仰いましたか!?」


インディゴの叫ぶような問い掛けに、グレコは驚きつつも頷く。

その声に気付いたメイクイとエクリュも、ハッとした顔でこちらを見ている。


「えっと……。まだその、私たち自身もよくわかってないんだけど……。この島のどこかに、悪魔ハンニという者が巣食っているらしいの。それも、ずっとずっと昔から……、コトコさんが生きてこの島にいた、およそ五百年前から。その悪魔ハンニが、これまで幾度となく、紫族に多大なる危害を加えているって……」


そうなのよね? といった感じで俺の方を見るグレコに対し、俺は小さく頷いた。


グレコは昨日、コトコの伝玉を聞いた時、あの場にいなかったから……

今朝、俺が起きる前に、野草や桃子からその話を聞いたのだろう。


「悪魔ハンニが、生きている……。こうしてはいられませんわ。私、ノリリア様にその事をお知らせして参ります! メイクイ、ここを頼みますわよ!!」


インディゴはローブの中から杖を取り出して、足早に外へと出て行った。


えと……、じゃあ……、俺たちは何をすれば……?

砂里と一緒に、喜勇達の看病をすればいいかな??

それよりも、志垣を探しに行こうか???

いやいや、この状況を放っておいて、そんな事をするわけにはいかないか。


何をすればいいのかと、キョロキョロとする俺とグレコに対し……


「モッモさん、グレコさん、ちょっと……」


話し掛けてきたのはメイクイだ。


「ベンザさんの様子を見てきてくれないかな? 随分前に地下室に入ってから、一度も出てきてないんだよ。相当参っているみたいで……。昨日知り合った僕よりも、きっと君達の方がいいだろう??」


そう言って笑みを浮かべ、地下室へと続く扉を指差した。

 メイクイは、見た目はどっちかっていうとチャラい感じなんだけど、いつもなかなかに気が効くし、優しいんだよな。


地下室へと繋がる扉についている鍵は、どうやら開けられたままのようだ。


「分かったわ。モッモ、行きましょ」


「うん」


この場をカービィ達に任せ、グレコと俺は、地下室にいるという勉坐の元へと向かった。


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