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291:早く私の背に!!

時刻は既に夕暮れ時を過ぎていた。

西の空は夕焼け色に染まり、東の空は夜の闇に飲み込まれ始めている。


俺は、身に付けていたローブを裏返しにして羽織り、頭にはすっぽりとフードを被った。

神様から貰った魔法アイテムの一つ、隠れ身のローブ。

周りの風景と同化して、姿を消してくれる優れものである。

……ただ、少々丈が長い為に、裾を踏んづけて転び姿が露わになってしまう、という失態を、俺はこれまで何度も経験してきた。

だが、今回ばかりは、そのようなおっちょこちょいは避けなければ。

鬼族の戦闘団に見つかったら最後、火炙りにされてしまうのだ。

そんな結末はごめんだぁ~いっ!


「凄いっ! モッモさん、何処っ!?」


「ここここ、ここにいる」


キョロキョロとしている砂里の服の裾をつんつんと引っ張るも、その視線は合わない。

どうやら今回も、ローブは正常に機能している模様。

だがしかし……


「……二人とも見えないのは困るなぁ」


そうなのである。

共に行動するに当たって、お互い透明になっちゃったら、不便極まりない。


「え? あ……、それは大丈夫。私は、その……。自分の姿を消すんじゃなくて、相手の意識から私の存在を消すから」


……は? 今なんと??


「相手の意識から……、存在を消す???」


何それ? どういう事!?


「あ、うん。なんて言うか……。えと……。あ、それに、モッモさんの足だと遅いから、私が背負って走るね」


……うん、軽くスルーされたよね、俺の質問。


「いや、砂里にそんな事させるわけにはいかないよ。僕は自分で走るっ!」


砂里は、体の大きさはグレコ程あるものの、間違いなく少女なのである。

可愛らしい女の子におぶってもらうなんて……、男の名が廃るぜっ!


「それじゃ時間がかかっちゃうよ。東の老齢会の毒郎様は、それはもう厄介なの。火炙りだなんて……。早くしないと、みんなの命が危ないわ!」


うっ……、そんな風に言われてしまうと……


「さぁ、早く私の背に!!」


スッと屈む砂里。

俺が背に乗りやすいようにと、両手を後ろ向けに広げてくれているが……

残念、俺は君の顔の真ん前にいます。


年端もいかない女の子におぶってもらうなんて、とてもじゃないけれど恥ずかしくって……

でも、砂里の言う通り、事は一刻を争うのである。

俺の小ちゃなプライドのせいで、みんなを死なせるわけにはいかないのであるっ!


俺は、砂里の背中側へと回り込み、そして……


「よろしくお願いしまっす!」


礼儀正しく一礼した後、その細いわりに筋肉質な逞しい背中に飛び乗った。


「行きましょうっ!」


砂里は立ち上がり、ダダッ! と駆け出したかと思うと……


「えっ!? そっちっ!?? って、うわぁあっ!?!?」


炊事場の勝手口から続くこの狭い庭の、四方八方をぐるりと囲んでいる巨大骸骨の骨の壁を、なんと手を使わずに足だけで駆け上がった。

それはまるで、忍者……、いや、くノ一のような、忍法壁登りの術! 的な感じで、真っ直ぐ垂直に駆け上がったのだ。

そして、壁のてっぺんに着くと、俺たちはその眼下に広がる景色をぐるりと見渡した。


「うひゃあ……。うじゃうじゃいる……」


そこから見える光景に、俺は思わず冷や汗を流す。

勉坐の家を取り巻くように、あの巨大な白い鉈を持った鬼達がわらわらと集まっているのだ。

所々に立てられた松明の灯りが、物々しい彼らの姿を露わにしている。

そして、少し離れた場所に……


「あっ!? あれはカービィじゃっ!??」


勉坐の家の前に広がる道の真ん中に、大きな木製の檻があって、そこに見覚えのあるピンクの毛玉が……、何故かヘラヘラと笑っている。

檻の中には騎士団のみんなとギンロ、袮笛と勉坐もいて……

あれ? グレコがいないぞ??


「みんな、火の山の様子を見に行った喜勇様達の帰りを待っているのね。勉坐様の右腕である喜勇様は、東の村の戦闘団の団長だから……。喜勇様がどちらに付くかで、状況が変わるかも知れない……」


「え……、それはどういう事?」


「戦闘団の者たちはみんな、本当は、反乱なんて馬鹿げているって考えているわ。だけど、勉坐様の事が苦手な者が沢山いて……。だから老齢会の反発に加担して、反乱を起こした。全ては喜勇様を首長にする為にね」


ほぉ? あの喜勇にそこまで人望があるとは……

人は見かけによらぬものですな。


「つまり……。みんな勉坐が嫌いだから、毒郎の反乱に便乗しちゃったってわけ?」


「そうみたい」


あちゃ~、こりゃ俺たちは、とんだとばっちりだな。

勉坐、みんなから嫌われてたのかぁ……

まぁ無理もないね、誰に対してもあの般若の様な態度なんだもの。

そりゃ怖がられるし嫌われるよ。


「でも……。あそこに捕まっているモッモさんのお仲間は、心配いらなさそうよ。皆さん、わざと捕まっているわ」


「え? わざと??」


「うん。いざとなったら、皆さんでめちゃくちゃにマリョクを放出するって。……マリョクって何の事かしら?」


うわぁ……、めちゃくちゃに魔力を放出するとか、かなりクレイジーだな。

見たいような見たくないような……


ていうかさ、砂里、さっきから変じゃない?


「ねぇ砂里、どうしてそんな事わかるの? まるで……、みんなの心を読んでいるみたい」


そうなのだ。

先程からずっと砂里は、みんなの思いや考えを、推測とは思えないほど、かなり確定的な言い方で俺に伝えているのだ。


「えっ!? えと……、それは……」


かなり動揺しているのが丸バレである。

あからさまに慌てる砂里。


「とにかく! 姫巫女様のお住まいに向かいましょう!! 喜勇様が勉坐様を裏切るとは思えないけど……。喜勇様たちが帰るより早く、皆さんを助けないとっ!!!」


あっ!? また俺の質問をスルーしたなっ!??


俺の質問に答える事なく、砂里はそう言って……


「ひっ!? 嘘ぉおっ!??」


高い骨の壁のてっぺんから地面に向かって、ピョーンと飛び降りた。


ぎゃあぁぁっ!?!?


突然の急降下に、俺は心の中で悲鳴を上げる。

スタッと地面に着地した砂里は、そのまま全速力で走り始めた。

屈強な戦闘団の鬼達の間をすり抜けて、通りを風のように走っていく。


ひぃいっ!? 速いぃいっ!??


吹き付ける向かい風に飛ばされないようにと、俺は必死に砂里の背中にしがみ付くのだった。








「はぁ、はぁ、はぁ……。着いた……」


全速力で村を駆け抜けて、ものの数分の後、俺をおぶった砂里は姫巫女様のお住まいに辿り着いた。


村を駆け抜けた砂里の、あまりに速いそのスピードに、その背におぶってもらっていた俺の顔面の毛は、後ろへ後ろへと流れたまま固まってしまっていた。

そして、被っていたはずのローブのフードも、いつの間にか脱げてしまっていた。

それでも誰にも気付かれずにここまで来られたのは、砂里の奇妙な能力故か、それとも走る速度が速すぎて誰の目にも留まらなかった為か……


それにしても、なんちゅう高速なんだ。

これまで俺が体感して来た中でも、一番のスピードではないだろうか?

まさか砂里が、こんなに速く走れるとは……、思いもよらなかった。

海岸から西の村へ向かう時も、西の村から東の村へ向かう時も、砂里は走っていたが……、あの時は全速力ではなかったんだな。

恐るべし、鬼族の潜在能力よ……


砂里の背から降りた俺は、お顔の毛並みを整えながら、目の前にそびえ立つ姫巫女様のお住まいの扉を見やる。

お住まいであるお屋敷をぐるりと取り囲む外塀の、その一部に作られた大きな扉である。

しかしながら、近くにインターホンがあるわけでもないし、見張りの者が立っているわけでもない。

それなら……、勝手に入っていいのかな?


少々戸惑いながらも、俺はその扉をそっと押してみた。

すると、鍵も何もかかっていなかったらしい扉は、ギギ~という鈍い音を立てながら、静かに開いたのだ。

扉の先に広がるのは、苔生した砂利と岩の庭。

あの白いアンテロープは、今はいない様だ。


「母屋の灯りが消えてる? 誰も居ないのかしら??」


前方を見つめて呟く砂里。

つい数時間前に通った建物の玄関口には、一つの灯りもなく、更には建物の全体が夜の闇に覆われているのだ。

さすがに、昼間あれだけの人……、もとい、鬼族達がいたんだもの。

誰もいないなんて事はないだろうけれど……


「とりあえず、玄関まで行こうよ」


「うん、そうね。行きましょう」


俺と砂里は、姫巫女様のお住まいのお庭に、静かに足を踏み入れた。


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