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248:時の揺り籠

ヒュ~~~ン……、ドスンッ! ドスンッ!!


「あ……、あ……、あぁ……」


「いってぇ……。なんじゃこりゃ~? ん~?? おっ、大丈夫かモッモ???」


だぁ……、大丈夫じゃないれす……、ぐへっ。


俺とカービィは、真っ暗な穴の中を滑るようにして転がり、気付けば固い地面に落下していた。

グルグルと目が回って気分が悪く、更には落下による衝撃で身体中が痛い。


いったい、何が、どうなったのん……?


辺りはほんのりと明るくて、壁も天井も、なんだか見飽きた風合いのものがそこにはあった。


「ん~? 落とし穴だったんだな~」


何事も無かったかのように起き上がり、頭上を見上げるカービィ。

結構、丈夫な体だよね、カービィ君。

その目線の先には、天井にポッカリと空いた四角い穴が……


「キャアァ~!!!」


……へ? きゃあ??


ヒュ~~ン


「げっ!?」

「グレコさんっ!??」


ドッスーン!!!!!


「ぐはぁっ!?」

「ほげぇっ!?」


「いたたた……、あっ!? モッモ!?? カービィ!??? だ、大丈夫っ!????」


だぁ……、大丈夫じゃないれす……、うぐっ。


天井の四角い穴から、なんとグレコが飛び出してきて、俺とカービィの上に落ちてきたのだ。

俺の上にはグレコの背中が、カービィの上にはグレコのお尻が……、あ、カービィが嬉しそう。


「ごめんなさいっ!」


急いで起き上がるグレコ。

本当に瀕死の俺と、ある意味瀕死のカービィ。


「大丈夫ですノコ?」


グレコの長い髪の毛の間から、ぴょこんとキノタンが姿を現した。

どうやらキノタン、次はグレコのペットになったらしい。


「ふぅ~……。いやぁ~、天国天国……」


頬を赤らめ、うっとりした顔で立ち上がるカービィ。

……その言葉、自分の何倍も大きな相手の下敷きになった者のセリフとは思えないな。


「モッモ、立てる?」


差し出されたグレコの手に、ぷるぷると小刻みに震えながら掴まる俺。

どっか、背骨とか肋骨が折れてるんじゃ? と思ったけれど、身体中に脂肪のコートを羽織っているから大丈夫だったみたい。

感じる痛みに反して、結構スクッと立てました。


「はぁ……、酷い目に遭った……」


「本当にね。ていうか、何してこうなったのよ? 私が振り返った時にはもう、二人とも姿が消えていたんだけど……」


う……、カービィが机の端にあった穴に手を入れて、落とし穴のスイッチを押しちゃったみたい……、とは言えまい。

そんな事言っちゃえば、グレコの怒りの雷撃が、カービィ目掛けてドカーン! と落ちるに違いない。


「ほら、ロープを上から引っ張ってきたから、これで登りましょう。みんな心配しているわ」


そう言ってグレコは、手に持ったロープの端を差し出す。

さすがグレコ! ただ落ちてきたわけではなかったのですね!?


「なぁ、あれなんだぁ?」


俺とグレコの話なんて完全無視して、カービィが何かを指差している。

そこにあるのは……、ん? なんだあれ??


「あれは……、(まゆ)?」


グレコが呟く。


その言葉通り、そこにあるのは、銀色に輝く繭だ。

細くて柔らかそうな糸が、何重にも絡まって、大きな丸い繭を形成している。

ポワーン、ポワーンと、まるで鼓動するかのように、それは淡い光を放っていた。

そして、その繭の下には、祭壇のような台座があるではないか。


「ここが、もしかして……?」


「うん。ここがきっと、モゴ族達が調停者を導く先……。イゲンザの祭壇だろうな」


カービィの言葉に、俺もグレコもキノタンも、ごくりと生唾を飲んだ。






「ん~、この繭が邪魔でわかんねぇなぁ~?」


テクテクと歩いて祭壇の近くまで行き、何か珍しいものはないかと探すカービィ。


「ねぇ……、あんまり近付かない方がいいんじゃな~い?」


繭の周りでワサワサするカービィを制する俺。

しかし、そんな俺の言葉なんて全く気にせず、ワサワサワサワサ……


「とにかく一度戻りましょうよ。みんな心配しているはずよ」


「そうだね、一度戻って……、って~、カービィ~???」


閉じたパラソルの先っちょで、ツンツンと、繭を突くカービィ。


お前なぁ~、よくそんな何かもわからない物を突けるよなぁ~?

やめろぉっ! もし爆発でもしたらどうすんだよぅっ!?


「もしかしてあれは……」


そう呟いて、グレコの肩からピョンと地面に飛び降りるキノタン。

トコトコと歩いて、繭へと近づいて行く。


お~い……、二人とも~……


「どうしたのキノタン?」


キノタンの後について行くグレコ。


お~い……、グレコまで~……


「これは……。時の揺り籠、ノコ?」


「何っ!? 時の揺り籠だとぉ~!?? ……そんなもん、神話級の伝説の魔導具じゃねぇか」


時の……、揺り籠?


「何なのそれ?」


「……時間魔法は、魔導師の永遠のテーマである。時を止めること、時を渡ること、時を繋ぐこと。全ての時は、何者にも操る事は出来ない。しかし、それに抗おうとする魔導師は、どの時代にも少なからず存在する。時の揺り籠っていうのは、ずっと昔の魔導師達が、時を渡る為に作り出した魔導具の一つだ。だけど、それは未完成に終わった。時を渡るなんて所業、一魔導師には到底不可能な事なのであ~る」


ふむ、つまり……、結局何なんだそれは?


「つまり……、今目の前にあるこれは、その魔導具の未完成品? ってことなのかしら??」


「どうなんだキノタン?」


グレコとカービィの言葉に、キノタンは光りを放つ銀色の繭を見つめ続けている。


「モゴ族に伝わる言い伝えには、こういう節がありますノコ。『黄金の剣を授かりし者は、時の神が使わせし調停者と共に、聖なる神殿の祭壇を目指すべし。そこに眠る、時の揺り籠を、黄金の剣で解放せよ』と……」


ほう? つまり、キノタンのその黄金の剣で……


「この繭を、その剣で……、斬るって事? でも、どこを??」


え~、いやいやいや、やめようよ。

中に何が入ってるかわかんないじゃないか。

妙な物が出て来たらどうするのさ?


「よ~っし! 一思いに真ん中を切っちまえキノタン!!」


おいっ!? カービィ!??


「やっ!? やめようよぉっ!?? 何か出て来たらどうするのっ!???」


繭って言えば、大概は中に虫の幼虫がいるものだ。

しかしこの大きさ……

もしこの中に潜んでいるとすれば、相当大きな幼虫が……、ひぃいぃぃ~!? 気持ち悪いぃっ!!?


ウネウネ、クネクネと動く、巨大な幼虫の姿を想像して、俺は身震いする。


「では……、解放しますノコ!」


巨大な光る繭に向かって、黄金の剣を構えるキノタン。


俺の話聞いてましたかぁっ!??


「とうっ!!」


キノコとは思えないほどの跳躍力で宙を飛び、黄金の剣を振るったキノタンは、ザクゥッ!! と、光る銀色の繭に亀裂を入れた。

すると、その亀裂から、眩いばかりの銀色の光が溢れ出してきた。


「なんだぁっ!?」


「きゃっ! 眩しいっ!?」


「孵化するぞぉっ!??」


何がさぁっ!???


カカカカカ! と、銀色の光が幾筋も伸びて、そして、ボトッ! という音と共に、中から何かが落ち出てきた。


ぎゃあぁああっ!? 巨大幼虫っ!??


光を放ち続ける銀色の繭のせいで、逆光となってしまい、出てきたものの姿が見えない俺は、サササっとグレコの後ろに隠れた。

光は収まる様子がなく、そこに落ちたものは影となって真っ黒な塊にしか見えない。

すると、地面に落ちたその何かが、モゾモゾと動き出したではないか。


「ひぃいっ!??」


思わず悲鳴を上げる俺。

光に手をかざし、目を細めて、その正体を見極めようとするグレコ。

カービィは……


吸引(ヘルケイン)!」


いつのまにか杖を取り出していて、何かの呪文を唱えた。

すると、銀色の繭が放つ光は、スーッとカービィの杖へと吸い込まれていって……


「……うっ!? ……何あれ???」


地面に落ちたものの姿をようやく目に捉えた俺は、眉間に皺を寄せてそれを睨む。


「あれは……。鳥? かしら??」


グレコの言葉通り、そこに横たわっているのは、銀色の糸に絡まれた、鳥らしき物体。

ただ、その大きさと体つきから、ただの鳥ではなく、鳥型の獣人である事は確かなようだ。

茶色に白い班目模様が入った大きな翼に、丸い形のお顔と、比較的短めの嘴。

強いて言えばそれは……、(ふくろう)、だな。


「おいおいおい……、マジかよ……」


隣でカービィが小さく呟く。

珍しく、その表情には余裕がなく、額には冷や汗をかいているではないか。


「カービィ……。知り合いなの?」


……グレコ、その質問、変じゃない?


「知り合いも何も……。おいらの記憶が正しければ、確か、イゲンザ・ホーリーは、獣人ウルラ族であったはず……」


「ウルラ族って……、何?」


「そこに倒れているのが、ウルラ族さ。なんてこった、まさかとは思ったけど……」


え、何? どういう事??


「じゃあ、そこに倒れているのはもしかして……」


「あぁ。この神殿を作った本人……。大魔導師アーレイク・ピタラスの一番弟子、イゲンザ・ホーリーかも知れねぇ……」


え、えぇ……、えぇえぇえぇぇっ!???


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