219:ヴォンヴォンヴォンヴォン!!!
[ノリリアグループ]
探索班:ノリリア、チリアン、ブリック、ポピー
衛生班:ロビンズ
通信班:レイズン
その他:モーブ、パロット、モッモ、グレコ、ギンロ、カービィ、オーラス
合計、十三名。
[アイビーグループ]
探索班:アイビー、マシコット、メイクイ、ライラック
衛生班:エクリュ
通信班:インディゴ
その他:ヤーリュ、ミルク
合計、八名。
[待機グループ]
衛生班:サン
通信班:カナリー
合計、二名。
「それじゃあ出発するポ! みんな、くれぐれも無理はしないでポ、安全第一!! 二日後に神殿で会おうポよ!!!」
「おぉ~!!!!」
トガの月、六日。
午後の一時ちょっと過ぎに、待機グループを除いた白薔薇の騎士団、プラスモッモ様御一行、計二十一名は、緑の町、港町イシュを旅立った。
ノリリアの号令で、白薔薇の騎士団達は一斉に空へと飛び立つ。
ある者はミュエル鳥の背に乗り、ある者は自らの翼で、またある者は魔法で自分の背中に羽を生やして……
二つのグループに分かれて、アイビーグループは北、ノリリアグループは南へと、それぞれのルートで一路、イゲンザの神殿を目指す。
港町イシュから一歩外に出ると、そこにはもう深い森が広がっていた。
有毒植物生物がはびこる、マンチニールの森である。
その恐ろしい森には勿論入らずに、ノリリア御一行は海岸沿いの白い砂浜を南へ向かう。
そんな中、俺はというと……
「ひゃっほ~いっ!!!」
念願叶って、モーブと共に、ミュエル鳥の背に乗せて貰っております!
やったぁ!!
「モッモ! 絶対に手綱を放しちゃ駄目よ!!」
背後から、同じくブリックと共にミュエル鳥の背に乗ったグレコが叫ぶ。
ミュエル鳥は、思っていたよりも低空を飛んだ。
高度を上げる事も可能らしいが、今はその必要が無く、体力を温存する為にも低空飛行状態をわざわざ保っているのだという。
四枚の巨大な翼を広げて、颯爽と滑空する姿はまさに鳥の王者。
そんなミュエル鳥の背に、今、俺は乗っています!
いやっふぅうぅ~!!!
スピードは、テトーンの樹の村の守護神ガディスの背に初めて乗った時の事を思い出すくらい、かなりの高速である。
ただ、飛空であるからして、上下の振動はほとんど無く、風の抵抗はあるものの、ガディスの時のように気分が悪くなるなんて事はなさそうだ。
少し前の方には、花人であるチリアンと共にミュエル鳥の背に乗るギンロの姿がある。
どうやら、空を飛ぶ事には慣れてないらしく、怖いのだろうか、珍しく尻尾が丸まっていた。
オーラスは、背にある自分の翼でバサバサと飛ぶ。
フラワーエルフのポピーと、ムーンエルフのロビンズは、その背に透明な魔法の羽を生成し、虫のような細かな羽ばたきで飛んで行く。
レイズンは、さすが影の精霊とのパントゥーだな、翼もないくせに魔法も使わず、スーッと上空を移動している。
カービィはと言うと……
ヴォンヴォンヴォンヴォン!!!
けたたましい空気音を発しながら、妙な箒に跨って、ノリリアよりも前を飛んで行く。
魔法使いの箒って、こう、木製のどこにでもあるような箒をイメージしていたんだけど……
カービィのは、かな~り違っている。
何しろ、奴が跨っている箒は金属製なのである。
しかも、箒の毛束部分は完全に、飛行機のエンジンなんかと同じ形の、小型のジェットエンジンだ。
そこから七色の光と、先ほどのエンジン音を鳴らしながら飛ぶその姿は……、まるで新手の暴走族のようだ。
「カービィちゃん! 道分かってるポかぁっ!?」
パロット学士と共にミュエル鳥に乗っているノリリアが、前を行くカービィに声を掛ける。
がしかし、妙な箒の爆音の為か、カービィは気付かない。
そして、どんどんとスピードを上げていって……
ヴォンヴォンヴォンヴォン、ヴォオォォン!!!
最終的には、姿が見えなくなってしまった。
「はぁ……、あの馬鹿……。迷子確定ね」
後ろからグレコの声がして、俺はふっと苦笑いした。
「違法魔導具の使用は認められないポ!」
「違法じゃねぇっ! 最新鋭の技術を使って作られた、超未来型飛行箒だぞっ!?」
「それが違法だって言ってるポよ! それの使用は、まだフーガの学会では認められていないポ!!」
「それは学会が遅れてるんだよっ! おいらはなぁ、全財産叩いてこれを買ったんだ!! 絶対にこれに乗って行くぞぉっ!!!」
「駄目ポ! もし途中で事故でも起きたらどうするポねっ!?」
「事故なんか起きないさっ! 現に、隣国では使用が認められて、事故なんか一つも起きてないぞっ!?」
「出鱈目言うんじゃないポ! 事故なら毎日のように新聞に載ってたポよ!?」
「なっ!? ばっ、それはっ!! 運転してる奴等が下手だったんだよっ!!!」
「だとしても! 今回は普通の箒か、ミュエル鳥に乗ればいいポよ!? 箒なら予備を持ってきたポし、カービィちゃんは軽いから、モッモちゃんとモーブと三人でミュエル鳥に乗ればいいポ!!!」
「うっ……、いっ、嫌だっ! おいらはこのハイパワーベッセンに乗るんだいっ!!」
「なっ!? どこまで強情なのポっ!??」
「絶対の絶対に、乗るんだぁ~いっ!!!」
出発準備はかなり早く整っていたのに、午後一時過ぎまで出発が遅れたのは、このカービィとノリリアの攻防のせいだった。
結局、カービィは意見を変えず、ノリリアが渋々折れて、何とかその場は収まったのだが……
「全く……。いったいどこまで行ったポか!?」
憤慨するノリリア。
午後三時頃、休憩を取る事にした俺たちは、海岸沿いの砂浜に降り立った。
だがしかし、カービィはもっと先へ行ってしまったらしい、影も形も見えない。
「ごめんなさいね、ノリリア。カービィが迷惑かけて」
謝罪するグレコ。
「グレコちゃんが謝る事ないポね。あの馬鹿の馬鹿は今日に始まった事じゃないポよ。はぁ~」
大きな溜息をつくノリリア。
……まぁ、元々、頭のおかしい奴だな~って思っていたから、正直なところ然程驚いてはいない。
ただ、本当に迷子になっているのならば、傍迷惑にも程があるってもんだ。
こりゃもう罰として、バラされたくないカービィの過去を、みんなの前でノリリアに暴露してもらう他ないな、うんうん。
「はい、……はい、了解。ノリリア副団長、アイビーグループも現在休憩を取っている模様。ここまで特に問題はなく、日暮れまでには第一の村に到着する予定だと」
通信班のレイズンが、何やら魔法でも行使しているらしい。
片手に魔導書を開けて持ち、もう片方の手に持った杖を頭上に掲げたままのポーズでそう言った。
「わかったポ。こっちも特に問題ないって伝えてポ。引き続き安全第一で移動するように、ポね」
「了解。こちらレイズン、こちらレイズン。インディゴ、応答願う」
ふむ、どうやらアイビーグループのインディゴとやり取りしてるらしいな。
即ちレイズンの行使しているそれは、通信魔法と呼ばれる魔法だ。
やっぱりこう……、どんな魔法でも、行使する時には魔導書と杖が必要になるんだな、普通は。
これは、航海の途中、ノリリアに教えて貰った事の一つなのだが……
魔導師、魔法使い、魔術師、住んでいる国や地域によって呼び名はそれぞれあるが、魔法を行使できる者は皆、それ専用の魔導書と杖を持っている。
魔導書も杖も、大まかに言うと魔導具の一つであって、魔導具にはそれ自体に魔力が宿っている。
自分の中にある魔力と、魔導具の持つ魔力、更には世界に流れる魔力を使って力を行使するのが、それ即ち魔法と呼ばれるらしい。
行使するのが強大な魔法になると、声に出しての呪文の詠唱や、空間や地面に描く魔法陣が必要になったりするのだが、使い慣れたものであれば魔法陣は必要ないし、詠唱は頭の中で済ませても大丈夫との事だ。
ただ稀に、ライラのように、魔導具なしに呪文の詠唱や魔法陣を用いた魔法を使う者もいるにはいるが、その大半が魔法学校に通った事がなく、魔導師の資格を持っていない、いわば素人だという事だった。
だから、今目の前で、魔導書と杖を持っているレイズンは、正しいやり方で魔法を行使しているわけなのだが……
問題は、うちのカービィである。
カービィは、簡単な魔法を使う時には、魔導書も杖も持たないし、勿論詠唱もしない。
戦闘時は流石に両方持ち出して居たはずだけど、日常的にはそれらは、ローブの内側に大事にしまわれているようだ。
確かカービィは、魔法学校を首席で卒業した、プロの魔導師の筈なんだけど……
「カービィちゃんの魔法は、ハッキリ言って邪道ポね。魔導書は、複雑な呪文を唱え間違えないようにと記録した書物ポ。詠唱に失敗すれば、魔法がそのまま自分に跳ね返ってくる可能性があるポね。杖は、魔法を行使する方向、対象をしっかりと定める為に使う物ポ。杖を持たずに魔法を行使すれば、魔法が対象から逸れて、思わず広範囲に広がってしまった、なんて事にもなり兼ねないポ。だから、魔法王国フーガでは、魔導師の魔導書と杖の携帯、及び魔法行使における双方の装備は、国の法律で義務付けられているポ。カービィちゃんは……、あまりに法律を軽視しすぎポね。まぁ、百歩譲って、ここがフーガではないにしてもポ、あの魔法の使い方は危険極まりないポよ」
……そんな事を、ノリリアは言っていた。
そして、こう付け足した。
「あとあれポ、新しい物好きな所もちょっと心配ポね。安全性が確認できてない、国の学会で許可の降りていない魔導具を平気で使うのは考え物ポよ。革新的な発明だ~! とかいう謳い文句に弱いポから、すぐに買っちゃうんだポ。いつか痛い目に遭わなければいいポが……」
おそらくだけど、あのジェットエンジン付きの金属製箒も、その革新的な発明の一つって代物なんだろうな。
ノリリアが言っていたように、いつか大事故に繋がったり……、しなきゃいいんだけど……
カービィが飛んで行ったであろう東の方角の空を見上げながら、モーブから貰った珈琲をコクンと一口飲み、俺はそんな事を思っていた。




