194:ちゃんと説明するポね
「今話すとは言ってないポ。カービィちゃんがまた余計な事をしたら、その時は、皆さんにバラすポよ?」
釘をさすような目で、カービィをジロリと睨むノリリア。
「う、ぐ……。き、肝に銘じておきまする……」
小さくなるカービィ。
カービィがこんな風に縮こまるのを見るのも面白いけど、そんなに隠したい惚れ薬事件とやらの内容を、是非とも俺は聞きたかったのだが……
ノリリアは今は話す気はないらしいので、機を待つことにしよう。
「そんな事よりも、探索プロジェクトの事を皆さんに話しておきたいポよ」
お、そうだね、そっちの方が重要だね。
「その、探索って……。私たち、今から行くピタラス諸島の事は何も知らなくて。カービィから少しだけ、島の歴史とかは聞いたんだけど……」
「ポポ、カービィちゃんの事だから、どうせいい加減な説明しかしてないポね?」
「……おいらはちゃんと、知っている事は伝えました」
唇を尖らせて、小さな抵抗を試みるカービィ。
そんなカービィを見て、ノリリアはふーんと鼻を鳴らした。
「皆さん、この後のご予定はいかがポ? 長居すると店の迷惑になるポね。あたちが宿泊しているホテルでいろいろと説明したいポが……、時間はあるポ??」
「この後は特に用事はないわ。ね、モッモ?」
「うん、そうだね。僕も、ノリリアさんからちゃんと話を聞きたい」
「ポポ、ありがとポ♪ じゃあ、全部食べ終わったら、ホテルに向かうポよ~」
よし、やっと本題に入れるぞ!
どんな島かも分からないまま上陸するなんて、危険極まりないからな!!
ザサークが出港後に説明するとか言っていたけど、俺には予め、心構えというもが必要なのである……
度々忘れそうになるが、俺は世界最弱の種族、絶滅したとされているピグモルなのである。
ちゃんと危険を把握しておかないと、今度は拉致なんかじゃ済まないぞ!
ノリリアはしっかり者だし、きちんと丁寧に説明してくれそうだし……
さっさと全部食べちゃって、ホテルへ移動だぁっ!
「げふっ……、腹一杯だぁ~」
「我も……。なかなかに美味であったが為に、少々食べ過ぎた……」
高級ホテルの一室で、大きなソファーにぐで~っともたれかかるカービィとギンロ。
そりゃ君達、肉とケーキを食べ過ぎですよ。
奢ってもらえるからって次々に注文して……
何そのお腹? 何が入ってそうなってるの??
カービィはともかく、ギンロまでポッコリさせちゃってまぁ……
全く、だらしが無いったら無いねこりゃ。
「……あいつらは放っておいて、お話を聞かせてもらえるかしら?」
「勿論だポ♪ あっちのテーブルへどうぞポ♪」
ノリリアに連れられてやって来たのは、先日食事をした、最上階に展望レストランがある、北大通の高級ホテルだった。
どうやら、魔法王国フーガの王立ギルド、白薔薇の騎士団の皆さんもここに泊まっているらしく、お揃いの白いローブを身に付けた団員数名と廊下ですれ違ったのだが……
みんな一様にカービィを敬ってて、深々とお辞儀をして挨拶していた。
「カービィちゃんも、元々はこの白薔薇の騎士団に所属していたポね。かなり無茶苦茶していたようだポけど、実績は多々残っているポ。カービィちゃんに憧れてここに入って来た子も少なくないポよ」
と、ノリリアは言っていたが……
「おうおう、今回はよろしくな~、げふっ……」
前に突き出たお腹をさすりながら、ゲップをしながらの応対には、さすがに団員達もちょっぴり引いてたな。
ノリリアは三人部屋を一人で借りているらしく、ベッドが三つと、大きなソファーと、窓辺にテーブルと椅子が四脚もある、かなり贅沢な部屋に俺たちは案内された。
家具もかなりお高そうだし、床に敷かれているカーペットも、これ踏んでいいんですか? ってくらいに綺麗なものだ。
天井から吊るされてるのは小さいけれどシャンデリアだし、ベッドは馬鹿みたいに大きくてシーツがピカピカ。
なるほど、これが一流というやつか……
タロチキさんの宿屋、隠れ家オディロンのなんと質素な事……
しかし、こうも全てが高級感に溢れ返っていると、いささか落ち着かないものである。
俺は、自分がお泊まりをするなら、こじんまりとした、かなり庶民的なあの隠れ家オディロンの方が、気が楽でいいや。
そんな事を考えつつ、ソファーに埋もれているカービィとギンロを無視して、俺とグレコは窓辺のテーブルへとついた。
ノリリアは、旅行鞄であろう大きな四角い革鞄から、本を数冊と地図を持ち出してきた。
「まず最初に、島の地図を見せるポね~」
テーブルの上に広げられたのは、ピタラス諸島のみが描かれた地図だ。
五つの大きな島と、その周りを囲むように無数の小さな島が点在している。
「キッズ船長の説明にもあったように、ピタラス諸島は五つの大きな島と小さな沢山の島で形成されてるポ。あたちたちが向かうのは、その五つの大きな島ポね。まず最初に向かうのが、ここ。名前をイゲンザ島という、有尾人の暮らす島ポ」
ほう? 有尾人とな??
「何? その、ゆうびじんって??」
「体格や顔つき、毛のない肌なんかは、人間とそう変わらない種族ポ。ただ、お尻の割れ目の上辺りから、細長くて、毛の生えた尻尾を有しているポね。人間と違って木に登るのがとても上手で、運動能力もかなり高い種族ポ」
ほほう? つまり、猿人間、って事かな??
「彼らはその……、外から来た者に対して、友好的なのかしら?」
……グレコ、心配しなくていいと思うぞ。
見ず知らずのひ弱なピグモルに、弓矢を突き付けるブラッドエルフに比べれば、他の種族は優しいと思いますよ。
……けっ、ハネスめ、嫌な奴を思い出しちまったぜっ!
「カービィちゃんから、諸島の歴史を少し聞いたと言っていたポね。五種族の話は聞いてるポ?」
「あ、うん、なんか……。ずっと昔に、好戦的な五種族の争いが元で、大魔導師ピタラスさんが島を分けたって、聞いているわ」
「……ポポ、本当にザックリした説明しかしてないポね」
ソファーに座ったままのカービィを、横目でギロリと睨むノリリア。
嫌に静かだなと思っていたら、どうやらギンロとカービィは食後の昼寝タイムらしい。
スースーと、呑気な寝息が聞こえて来た。
「はぁ~……。まぁいいポ。魔法馬鹿と筋肉馬鹿は放っておいて、モッモちゃんとグレコちゃんには、あたちがちゃんと説明するポね」
カービィはともかく、ギンロの事を体力馬鹿って……
可愛らしい見た目に似合わずノリリアは、なかなかにお口が達者ですな。
「遥か昔、大魔導師アーレイク・ピタラスは、五種族の争いを止める為に、それぞれの種族の砦があった場所毎に大陸を分けたポ。そうして生まれたのがピタラス諸島。そして、その五種族のうちの一つが、イゲンザ島に住まう有尾人なんだポ」
あ~、なるほど、やっぱりね。
……ん? でもそうなると??
「もしかして……、その、イゲンザ島の有尾人っていう種族は、他種族に対してかなり好戦的な種族って事なのかしら?」
グレコが恐る恐る尋ねる。
「ご名答ポ。有尾人は、他種族の者を襲い、喰らって、頭蓋骨を収集する習慣がある種族ポね。見た目こそ人間に近いポから、一見すると大人しく思えるポが、かなりの他種族嫌いのはずポ。魔力こそ持っていないポけど、運動能力がかなり高いポから、怒らせると厄介な相手ポね。ここ十数年は被害報告もないポし、商船が行き来できるくらいには、他種族にも友好的になってきたと言えるポが……。元々は、相手がどんな種族であれ襲って肉を喰らう、とてつもなく野蛮な種族なのポよ」
……オーマイガー。
マジかよ、なんだよそれ。
襲って肉を喰らうだぁ?
原始的過ぎるだろそいつらぁっ!?
……え!? てか俺、今からそいつらの住む島に行くわけっ!??
嘘だろ、おいおい。
……えぇ~、嫌だわぁ~。




