128:隠れ家オディロン
「いやぁ~、買い過ぎましたねぇ~、グレコさん!」
「そうですね~、けど美味しそうだったから仕方ないですね~♪」
お互いに、パンが沢山入った紙袋を両手に抱えて、上機嫌な俺とグレコ。
町の中心部にある商店街には、パン屋がなんと三軒もあって、どれに入ろうか悩んだ末に、結局全部に足を運んで、知らぬ間にパン屋巡りをしてしまったのだった。
一軒目は、食パンやコッペパン、ロールパンなど、パンの味のみで勝負している店で、そこではとても柔らかな食パン一斤と、クロワッサンのようなサクッとした食感のパンを四つ購入した。
二軒目は、惣菜パンがメインのお店で、ハムや卵焼きが挟まっているものや、野菜の炒め物やアンチョビを乗せたピザっぽいものもあった。
そのお店では、コロッケのような揚げ物が挟まったパンを四つと、キノコとチーズがふんだんに盛られたピザを購入した。
三軒目は、ギンロが喜びそうな甘~いパンがずらりと並んだお店だった。
俺の目当てであるメロンパンっぽいやつもあったし、ギンロが食べたがっていた蒸しパンもあったし、生クリームや果物がたっぷりのケーキ風のパンもあった。
こちらの世界では、ロメンと呼ばれているらしいメロンパン風のパンを一つと、蒸しパンを二つ、更には大きなホールケーキのようなものを一つ購入した。
とまぁ、ちょっぴり……、いや、かなり買い過ぎたわけだが、いつもなら牽制しそうなグレコがノリノリだったので良いだろう。
誰に怒られるわけでもないしなっ!
西大通りを抜けて、裏道に入り、無事に宿屋へと辿り着いた俺たち。
すでに太陽は西へと傾き始めており、宿屋の入り口がある裏道は少しばかり暗くなっていた。
先ほどは、ギンロを早く安静にさせないとと思い、あまり注視していなかったので知らなかったのだが、宿屋の名前は《隠れ家オディロン》というそうだ。
これまたお洒落な木彫り細工の横看板が、入り口の上に掛けられていた。
あの、ヒキガエルっぽい宿屋の主人タロチキが、何故にこんなにお洒落な宿屋を造れたのか甚だ疑問である……
なんて、失礼な事を思いながら中に入ると、受付のカウンターには別の者が座っていて……
「いらっしゃいませ、お泊まりですか? ケロロン♪」
今度はアマガエルのような、黄緑色の肌をした、横長の爬虫類顔の獣人が待ち構えていた。
「あ、もう部屋は借りているんです、カービィっていう名前で」
グレコが受付のアマガエル獣人に向かって説明する。
「あらあら、それは失礼しました、ごめんなさいね。主人たら、何の説明もなく私と交代したから~。自己紹介が遅れたわね、私はリルミユ。主人であるタロチキさんと、二人でここを経営しています。夕方からはあの人、日記を書いたり晩御飯作っていたりするから、受付はだいたい私になるのよ、ケロ」
あ、なるほど、今の言い方だと、このアマガエル獣人は、宿屋の主人タロチキの奥さんなんだな。
……え、この人、てかこのアマガエル獣人、女性なのか!?
もはや、そう言われてもよくわからないな。
爬虫類の雄雌なんてそんなもんか?
……いやまぁ、斯く言うピグモルも、外見だけだとさして男女の差はないのだけれども。
それにしても、お客様情報はしっかり伝達しないと駄目だろうタロチキ。
報連相! 報告、連絡、相談!!
仕事をする上で、必要最低限のルールである!!!
「それで、えっとぉ……、あ、あったあった、カービィ様……、四名様で、三階の海側角部屋……。あとお二方はどちらに?」
「あ、二人は今部屋にいます」
「あ、あ~そういうことね、はいはい。じゃあ、えっとぉ……、お夕食はどうされますか?」
「あ、そういえば……、晩御飯の事、考えてなかったね、モッモ」
そういやそうだな、急いでいたから何も言わずに部屋に入っちゃったし。
「けど、パンがこれだけあるから、今晩はいらないんじゃない?」
「それもそうね。夕食はいりません」
「わかりましたぁ~。それで……、えっとぉ……、あ、お風呂はいかがされます? 地下に炊き風呂があるので、薪をくべればお湯に浸かれますよ??」
えっ!? お風呂があるのっ!??
キラーン! と、俺の目が光る。
実は、オーベリー村の宿屋も、イーサン村の宿屋も、お風呂とは名ばかりで、部屋についていたのは水風呂だったのだ。
あれじゃあ、テトーンの樹の村の水浴びとなんら変わらない(いや、結構違うんだけど、ほら、お風呂はお湯がいいじゃない?)
「僕! お風呂!! お風呂入りたいですっ!!!」
残念ながら、カウンターからは俺の耳しか出てないので、存在をアピールしようと大声を出して飛び跳ねる俺。
「あらあら、元気なピグモル君ね♪ じゃあ、今から行って準備してきますから、しばらくしたらまたここにいらっしゃいね、ケロロン♪」
「はいっ!!」
やったぁっ!
人生初、いや、ピグモル生初の、あったかいお湯のお風呂だぜ!!
ヒャッホーウ!!!
テンションマックスな俺は、グレコを残したまま階段を猛ダッシュして、三階まで辿り着き……、そして……
あれ? 今の会話……、何かがおかしくないか?? と、気付いた。
「ねぇモッモ、自分のこと、ピグモルだって言ったの……?」
後から階段を登ってきたグレコに問われて、ハッとする。
あのアマガエル獣人……、リルミユって言ってたっけ?
あの人、俺のこと、ピグモル君って言ったよな??
「……僕、自分がピグモルだなんて、言ってないよ?」
「そうよねぇ? おかしいなぁ。カービィが言ったのかしら」
いや、それはないだろう。
だって、カービィが身分を隠せって、ピグモルだってことは絶対ばれてはいけないって言ってたんだぞ?
……でも、じゃあなんで彼女は俺のことを、ピグモル君だなんて言ったんだろう?
ばれたとしたなら、なぜばれた??
それに……、ばれていたとして、それは大丈夫なのか???
一抹の不安を胸に抱いたまま俺は、先に廊下を歩いて行ってしまったグレコの後を、急いで追うのだった。




