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127:何それ物騒っ!??

「エルフにしちゃあ珍しい姿だなぁ? それに、そっちのちっこいのも、見た事がねぇ種族だぁ」


長い顔に巨大な口、そこから覗く無数の牙。

爬虫類特有のギロリとした目が、俺とグレコを舐め回すように見ている。

バーバー族も爬虫類だけど、それとは比べものにならないほど、目の前のワニ顔人間は恐ろしい。

あの、巨大トカゲと化した蜥蜴神とよく似た威圧感を、俺は感じていた。


「何よあなたっ!? いきなり声掛けてきて、私たちに何か用なのっ!??」


果敢に立ち向かうグレコ。

しかし、俺の中にある危険察知センサーは、先程からピーピー! と警告音を鳴らし続けている。


グレコ! こいつは危険だ!! 逃げようっ!!!


そう言いたいのだが、怖くてちびりそうで声すら出せない。

グレコの服の裾をツンツンと引っ張るのが精一杯な俺。


「何の用も何も、おめぇらが俺様の船の前で立ち止まってやがるから、荷物が運び込めねぇんだよ」


ワニ顔人間の言葉に周りを見ると、同じような顔をしたワニ顔人間たちが、重そうな荷物を持ったままの状態で立往生している。

どうやら、俺とグレコが立ち止まっていた場所が、彼らの船へと続く導線だったらしい。

早くそこを退いてくれ、荷物が重いんだよ……と、ワニ顔人間たちの表情が訴えていた。


「あ、えっと……、それは、ごめんなさい」


おずおずと謝りながら、道を譲る俺とグレコ。

その横を、ぶつぶつと文句を言いながら通り、荷物運びを再開させるワニ顔人間たち。


「俺様の名はザサーク・キッズ。このタイニック号の船長さ。おめぇら、こんなとこでウロチョロしてちゃあ、積み荷の邪魔になるぜぇ?」


最初に声を掛けてきたワニ顔人間がそう言った。


……ツッコミどころ満載な自己紹介だな。

ザサーク・キッズ? どこがキッズなんだよ?? どこをどう見てもアダルトだろうが、全身黒光りマンめ。


それに、タイニック号って……、もはや沈みそうな気しかしないな、一文字抜けたぶん早く沈みそうだわ。

ていうか、こんなワニ顔人間だらけの船とか、絶対乗りたくないわ、航海中に謎の死を遂げちゃいそう。


「すみません、作業の邪魔をしていたとは知らずに」


自分に非があったと認めたグレコは、素直に謝罪する。

俺はなんていうか、怪訝な顔でザサークを見つめる事しかできない。


こいつ……、他にも目的があって俺たちに声掛けたんじゃないだろうなぁ?

そういう疑念が頭の中に渦巻いているのだ。


「ほら、モッモも謝って!」


「あうっ!? ご、す、すみませんでした~」


グレコに無理矢理頭を押さえられて、謝る俺。


「ギャッハッハッ! わかりゃあ良いってことよ!! しかしまぁなんだ、あれだな……。生き残りがいたとはなぁ~」


……えっ? 何その言い方??


動揺する俺とグレコ。


生き残りって、俺のこと? それとも、グレコのこと??


すると、背後からピョンピョンという複数の足音が聞こえて……


「おやおや、何かお困り事ですかな?」


振り返るとそこには、年老いたおじいさんラビー族が、三人の護衛を引き連れて立っていた。

おじいさんラビー族はどうやら貴族のようだ、お高そうな洋服を身にまとい、手に持った杖には宝石まで埋め込まれている。

護衛の三人は、これまたラビー族なのだけれど、体が大きく顔つきが厳つい。

三人は一様に緑色の制服に身を包んでおり、街中で見た警備員とか警察っぽい者とは全然別なようで、専属のSPって雰囲気。


「おやぁ? こりゃ珍しい。どうしなすった、貴族様よぉ。ここは下俗の働く商船前ですぜ? そちらこそ、何かお困り事で??」


明らかに、挑戦的な態度と言葉を発するザサーク。


「いやいや、わしは困っておらんよ。そちらのお嬢さん方が困っておられるのかと思ってな。こんな下卑た所に迷い込まれて、危うく賊に攫われでもしたら、モントリア公国の名に傷が付く。さぁ、わかったらその方たちを解放なさい」


こちらも、かなり好戦的な言葉を発するおじいさんラビー族。

下卑た場所って……、そんな言い方しなくてもいいんじゃなぁい?


「ふん、まぁいいさ。しかし爺さんよ、覚えておきな。てめぇが言うその下卑た場所があるからこそ、てめぇらはのうのうと飯を食い、生活が出来るんだ。あんまり商船を馬鹿にするんじゃあねぇ……」


キレて喧嘩がおっぱじまるのでは!? と身構えていた俺だったが、予想外にも、ザサークはあっさりと引き下がった。

それほどに、貴族であるラビー族の権力がこの国では大きいのか、それとも……


ザサークが去って行くと、おじいさんラビー族は俺たちを連れて、商船の並ぶ港から離れた。

そして、貴族が乗るような豪華客船が多数停泊している場所まで歩いて行き、こう言った。


「ここならもう大丈夫。お嬢さん方、危ない所でしたな。近頃このジャネスコでは、人攫いなどという恐ろしい事件が頻発しております故。旅のお方、出歩く際には充分にご用心を」


わぉ、人攫いっ!? 何それ物騒っ!??


「そうでしたか。助けて頂いてありがとうございました」


深々と頭を下げて、ぼやっとしている俺の頭をむんずと掴み、強引に下げさせるグレコ。


「ふぉっふぉっ。わしはこの町の北大通りに屋敷を構えるブーゼ伯爵という者。もし何かお困りの際は、遠慮なく尋ねて来なさい。では……」


そう言って、三人の護衛を従えたブーゼ伯爵は、俺たちの元を去って行った。


ふぅ~、なんだか、都会にいるのも楽じゃねぇなぁ~。

なんて思っていると、俺のお腹がキュ~っと鳴った。

先ほどのレストランで、食べようと思っていたロブスターを半分以上みんなに(ほとんどカービィに)取られちゃったから、もうお腹が空いてきたんだ。

ギンロと同じパンケーキを頼んで食べたけど、あれはかなり量が少なかったし……

ギンロも、あれだと絶対足りてないはず。


「……ねぇグレコ、とりあえず、蒸しパン買いに行かない?」


「えっ!? このタイミングで何言ってるのよ!??」


あからさまに怒った顔になるグレコ。

……まぁ、自分でも、このタイミングで言うのはおかしいかなって、ちょっと思ったけどさ。


「でもグレコ、今、宿屋に帰ろうって思ってたでしょ?」


「……うん。だって、二人だと危なそうだしね、ウロチョロしてると」


「そうだよね。でもほら、ギンロ、蒸しパン食べたがってたでしょ? 表通りなら危なくなさそうだしさ、パン屋だけでも寄って行こうよ??」


俺の提案に、グレコは少々悩んだようだが……


「そうね、大通りなら人通りも多いし、さっきみたいな怖い奴らも通りにはいなかったしね。行こっか?」


よっし! おやつの時間だぁっ!!


「うん♪ 僕ねぇ、メロンパン食べたい♪」


「めろんぱん? 何それ??」


……そうか、グレコにはメロンパンも通じないんだな、うん。


俺とグレコは港を背に、町の中心部である商店街へと歩いて行った。


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