106:偵察してきて!
タウの指示によって、バーバー族たちは隠していた槍を運んできた。
その数およそ二十。
長さはバーバー族たちの体が六個分ほどで、とてもじゃないが、小さなバーバー族たちが槍を使うなどということは無謀に思える。
「けれど、槍だけを盗んだのはなぜ? もっと沢山、使えそうな武器はあったでしょ??」
ふむ、確かにそうだ。
あそこには、色んな武器があった。
斬れ味の良さそうな剣、遠くから攻撃できる弓矢。
それこそ、バーバー族でも持てそうな短剣もあった。
身を守るための、盾も鎧もあったし……
まぁ、鎧はサイズが合わないからいらないだろうけど、盾くらいはあった方が心強いじゃない?
「われらのかみ、おおきい。やりでないと、とどかない。しんのぞうを、みなでねらう。われらみなで、いちどに、ねらう。でないと、かみをたおせない」
なるほど。
つまり、心臓を一突きして殺すためには、この長い槍が必要だということか。
「お主らまさか……、刺し違えるつもりでその槍を?」
ギンロの言葉に驚く俺。
刺し違えるっ!? 刺し違えるってその、自らも死を覚悟してっていうあれっ!??
「われらがしのうとも、われらのたまご、もうすぐかえる。いのちは、つづく」
くぅうぅぅ~!!!
なんて! なんて健気なんだバーバー族!!
グレコも同じ事を思ったのだろう、ちょっぴり泣きそうな顔をして、ギュッと拳を握りしめている。
「そうか……。だけど、死ぬのはやめとけ。卵から孵るったって、誰が世話するんだ? こんな森で、誰も世話する奴がいなかったら、それこそ絶滅まっしぐらだぞ??」
カービィの言葉は最もだ。
こんな、木ばかりが生い茂った森で、食べ物を探して生きていくのは俺にだって難しいだろう。
それを、産まれたばかりで何の知識もない赤ン坊バーバー族が、生き抜けるわけがない。
「しかし……、しかしそれでも、われらは、やらねばならぬ。いまやらねば、みらいは、ない。われらは、やらねばならぬ」
タウの言葉に、周りのバーバー族たちがコクコクと頷く。
なんだか凄いな~。
種の存続のために、自分たちの命を投げ打ってでも、自分たちの神様に立ち向かう、なんて……
カッコ良すぎるだろっ!!!
「わかったわ! その邪神退治、私たちが請け負うわっ!!」
おっ! グレコ!! そう言うと思ったぜ!!!
「さすればすぐ、けしかけようぞ。日は落ち始めている。夜目も強いが……、そのような輩は、さっさと地獄へ送ってやろう」
ギンロのカッコいいセリフきたぁっ!
かなりの中二病だけどぉっ!!
ギンロが言うからカッコいいっ!!!
「よし、おいらも手伝おう。さすがに槍は、綺麗なままで返してもらわにゃいかんしな。おいらたちで、蜥蜴神を倒してやろうっ!!」
カービィの魔法があれば怖いものなしだぜっ!
そんな悪~いトカゲちゃんは、魔法でスヤスヤ眠らせておくれっ!!
それで、炎生成魔法とかで、バババ! と倒しちゃっておくれっ!!!
「それじゃあ……、モッモ、とりあえず、そいつがどんな奴なのか、偵察してきて!」
……えっ!?
「ぼ、ぼ、ぼく、ぼくぼくがっ!??」
驚きすぎて、どもりすぎる俺。
「そうよ? だってほら、姿を消せるでしょ?? 敵がどんな奴なのかわからないまま挑むなんて、さすがに無謀すぎるからね」
「ふむ、それもそうだな……。モッモ、頼んだぞ」
「姿が消せるのかっ!? 魔法なら高等魔術第二級の技だぞっ!?? すげぇなモッモさん……」
「私たちはここで待っているから、今すぐ行って、見てきてちょうだい。方角は羅針盤でわかるでしょ? さぁ行って、行くのよモッモ!!」
……ひ、ひゃ、へ?
あの、それ、決定事項ですか??
誰か、一緒にとか……
ほら、一人じゃやっぱり、何かあったらさ……
しかし、誰も、ついては来てくれないようだ。
ううっ、ううううう……
誰か一緒に来てよぉおぉっ!!!
「ぐ、グレコのやつぅ……、許さない、許さないぞぉ……」
ぶつぶつと、小声で悪態をつきながら、コソコソと森を進む俺。
隠れ身のローブを纏い、ただいま絶賛透明中です。
望みの羅針盤は、真っ直ぐ東を指している。
地図を見た限りでは、黄色い光はさほど遠くなかったはず。
気を引き締めて行かないと、すぐそこに、いきなり現れそうだ。
そう思った矢先。
フニッ
俺の小さな足が、地面ではない何かを踏んづけた。
なんだろう……
とってもとっても、嫌な予感がするよ?
そっと足を退けてみると、そこにあるのは真っ青な、爬虫類のような尻尾の先っちょ。
……やばい、予感的中か?
ス~っと、後ろに下がって、辺りを見渡すと……
ひいぃっ!? いたっ!! あいつだぁっ!!?
森の木々に紛れるようにして横たわるそれは、紛れもない爬虫類の体。
大きすぎて、どこがどこだかわからないその体は、ほとんどが闇夜のような黒色に染まっていた。
あのちっちゃなバーバー族と同じ種族だとは思えないほどのその巨体からは、僅かだが黒い煙が立ち昇っており、なんとも言えない腐敗臭が辺りに漂っている。
なるほど、槍でなければ、心臓を一突きなど不可能だろうと理解できるほど、その体はでっぷりと太っている。
そして、太っていたおかげか、俺が小さく軽かったおかげかわからないが、目の前の巨大トカゲは尻尾を踏まれた事には気付かないまま、グーグーと寝息を立てていた。
よし、どんな奴なのかはわかったぞ。
サッサと戻ってグレコたちに知らせよう!
そう思い、くるりと向きを変えた、その時だった。
「そこにおるのは誰じゃあ~?」
気味の悪い、低~い声に、俺の体は固まった。
ゆっくりと、後ろを振り返ると……
ひいぃっ!? 目がっ!?? 目がぁあぁぁ!???
俺の体が二つすっぽり入ってしまうような、巨大で恐ろしい目を開けて、蜥蜴神は目覚めてしまっていた。
その神の証であるという金色をしていて、恐ろしいまでにギラギラと輝いている。
だっ!? だっ!?? 誰か助けてぇえぇぇっ!???
「匂う、匂うぞぉ。美味そうな肉の匂いじゃぁ~。もう何年も、この匂いを嗅いでいない。どこにおる? 姿を現せ! 肉ぅうぅぅっ!!」
ひょえぇぇっ!??
お、俺は食べ物じゃありません~!!!




