102:幼児か君はっ!??
「はぁ……、はぁ、はぁ……、ぐはぁっ……」
しにゅ、し……、しにゅる、死ぬ……、うはぁ~。
心の声さえまともにならないほどの恐怖を、俺は味わってしまった。
風に煽られ、クルクルと回転しながら落下する中で、走馬灯のように、何度も何度もテトーンの樹の村のみんなの顔が浮かんでは消えていった。
あぁ、もう終わりだぁ……
そう、諦めた次の瞬間に、俺たちは迷いの森の、生い茂る木々の中へと突っ込んだ。
ザザザザッ!! ヒュ~、ドスンッ!??
「ピギャッ!?」
「ギュオッ!??」
カービィと俺は、それぞれ気味の悪い鳴き声を上げて、地面へと着地した。
どうやら、パラソルによる落下速度の低下と、木々の枝葉がクッションになってくれたおかげで、俺たち二人はほぼ無傷だ。
「はぁ、はぁ……、た、助かったぁ……」
未だ起き上がれず、頭上を仰ぐ俺。
なんとか呼吸を整えようと、深く、深く息をする。
「す~、は~、す~、は~」
すると、隣で同じように倒れていたはずのカービィが、むくっと起き上がって……
「いやぁ~、スリリングだったなぁ!」
ヘラヘラとそう言った。
……はぁっ!? スリリングっ!??
そんな軽い言葉で片付けられるような落下じゃなかったぞ!???
「しっかしまぁ、グレコさんとギンロさん、置いてきちまったなぁ……。ここまで二人で来られるだろうか?」
置いてきちまったなぁ……、って!?
何その、俺たちの急落下を肯定する発言っ!??
予定外なのはこっち側なんですけどぉっ!???
「そういや、おいらのパラソルどこだ? パラソル~、パラソル~、パラ、あった!? ちょっくら取ってくるわ!」
樹上に引っかかったままのパラソルを取りに、カービィは木を上り始める。
いやぁ~、さすがだわ……
あれだけの恐怖体験をしておきながら、なんら普段と変わりない御様子で……
いやぁ~、頭おかしすぎるだろ、カービィさん。
無事にパラソルを回収したカービィは、そのままパラソルを使って、ふわふわと地面へ下りてきた。
「縮小 パラソル」
カービィは何やらまた呪文を唱えて、パラソルを元の掌サイズに戻した。
魔法は、かなりの腕前なのになぁ……
けどまぁ、カービィのおかげで助かったのは事実だ。
「ありがとう、助かったよ」
「ん? あぁ~、いいってことよっ!」
掌サイズに戻したパラソルを、ローブの内側に戻すカービィ。
チラリと見えたそこには、何やら大量の内ポケットがあって、俺には知り得ない様々な物が……
「すげぇ……」
「ん? あ、これか?? いざという時のために、いろいろと縮小魔法をかけて持ち歩いてるんだ! パラソルは六色あるぞっ!!」
……いや、そこは一本でいいんじゃないかい?
「とにかくあれだな、あんまり下手に動くとかえって距離が広がりそうだし、ちょっと待ってみるか?」
「うん、そうだね。僕らが落下した場所を二人が確認してくれていたら助かるけど……」
「うん……、よし、あっちへ行ってみよう!」
……おい、こら、カービィよ。
話がおかしくないか?
今、動かずにここにいようって話したばっかりだろうが。
俺のツッコミも待たずに、テクテクと歩き出すカービィ。
「カービィ君?」
「なんだね、モッモ君!?」
「……じっとしている予定じゃなかったのかい?」
「……あ、そうだったな! はっはっはっ!!」
……笑えないし。
近くの木の根に腰掛けるカービィ。
どうやらじっとしててくれそうなので、俺も木の根に腰掛ける。
さて……、果たしてこのままここでじっとしているのが得策なのか、探しに行った方がいいだろうか?
グレコとギンロの事だ、二人とも無事に崖を下り切れるだろう。
問題はその後だな……
俺がどうしようかと考えていると、カービィがスクッと立ち上がる。
……何だ??
「やっぱり、ちょっと歩かないか?」
ニコッと笑ってみせるカービィ。
……いや、落ち着きなさすぎるだろ!?
幼児か君はっ!??
「僕の周り、半径5トール以内なら歩いていていいよ」
そういう条件をつけて、カービィの自由行動を許す俺。
カービィはというと、俺の周りをウロチョロウロチョロ、特に何をするでもなく歩き続けている。
上を見たり、下を見たり、俺を見たり……
いや、俺を見ないでくれ。
すると、どこからか声が聞こえてきた。
「モッモ! モッモ!?」
この声は……
「グレコっ!??」
急に声を出して立ち上がった俺に対し、カービィはビクッと体を震わせる。
「モッモ!! 良かった、無事なのねっ!!?」
「あ、うん、グレコどこなのっ!??」
キョロキョロと辺りを見回すも、グレコの姿はどこにもない。
グレコ独特のあの甘い匂いもしない。
「モッモさん、大丈夫か? 頭おかしくなったか??」
カービィが、恐る恐る聞いてきた。
……君に頭がおかしくなったかなんて、聞かれたくないんですけど?
「グレコさん、どこにもいないぞ? 寂しくて幻覚でも見てるのか??」
「……いやほら、今、声が聞こえたでしょ?」
「……聞こえてないよ?」
「……え??」
どうやら、カービィにはグレコの声が聞こえていないらしい。
「モッモ、私とギンロは大丈夫、無事に下に着いたから」
しかし、俺にはグレコの声が聞こえている。
……あ、そっか! これかっ!?
「グレコ、絆の耳飾り使ってるの!?」
「え? えぇそうよ。 ……モッモ、わかってなかったの??」
グレコの声は不機嫌になったが、俺はようやく事実に気付けてスッキリする。
神様アイテム、絆の耳飾り。
離れた場所にいる仲間と、意思の疎通ができるという、まるで携帯電話のようなアイテムだ!
「ねぇモッモ、リーシェを呼んで、迎えに来させてくれない? 森が深くて、とてもじゃないけど、自力であなたの所までは行けそうにないわ」
「オッケー♪ ちょっと待っててね!」
グレコとの話を一通り終えて、パッとカービィを見てみると、まるでお化けでも見たかのような、青褪めた表情で俺を見ている。
どうやらカービィは、急落下はさほど怖くないのに、自分に理解出来ないことが目の前で起こると恐怖を感じるタイプ、らしい。
「あ、えと……。後で説明するから、ね?」




