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黒龍帝のファンタジア  作者: NTIO
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ボッチ脱却大作戦

 どうしよう。恭介は止まれないで走り続けている中、そんなことをずっと考え続けていた。今現在どこにいるのかは分からないが、決して森を燃やし尽くした者にいい顔をする者はいないだろう。そして、悪い方向に行けばお縄を頂戴することになるかもしれない。いや、それどころか人族側の方だった場合はさらに最悪だ。昼夜問わずに襲われ、いずれ殺されてしまう。


 恭介の頭に刷り込まれた情報の中では7つの種族が暮らしているファンタジアは地球の様に、犯人にも人権があるとかそういうのはないらしい。即奴隷だ。物によっては奴隷にはならない物もあるらしいがそれは例外。基本的に奴隷になる世界だとあるのだ。因みに文明レベルで言えば中世頃で、魔法などで地球とはまた異なった発展を遂げている。


 つまりは、今現在も森が燃え盛っているのを恭介がやったとなれば、奴隷にされるのは必至だ。


「いやいやいや。なにそれ。いやですよ? 奴隷になるなんて真っ平ごめんこうむりますからね。いや~俺だってやろうと思ってやった訳じゃないですし~ 全力で抵抗いたしますよ。」


 恭介は視界に衝撃波で吹き飛ばされる木々を写しながら、そう呟いた。だがそうは言うが、恭介が森を燃やした事は変わらない。確固たる事実だ。そしてそれが知られれば、奴隷になるというのも同じ。


 となれば恭介が取るべき行動はただ1つ。


「うん、ここは逃げるが吉だ。今回の事で出た損害額は独断と偏見を持って私が査定して、こっそりと領主の館に届けますんで、許してください。マジで。」


 恭介はそろそろ止まれそうなのを感じながら、口笛を吹く様に口を尖らせた。独断と偏見の部分を強調したのはきっとそういうことなのだろう。ど汚い奴である。腹が真っ黒だ。ここも黒龍帝と言われる所以なのかもしれない。


「ん? そろそろ森から出そうだな。 それに止まれそうだし、よし! そこでこれからのことを考えよう。先ずは金だな。それがないとなにもできん。服も買いたいし、住むとこないし、食物もな。今の制服なんて場違いにもほどがあるだろうし。中世にこんな格好してたら変な人に見られるだろうからな。」


 恭介は自分の今の格好を見て、はぁとため息を吐く。体は炎に包まれいるのにもかかわらず、何故か服は燃えていないのだが、それはともかく制服はこの世界ではダメだ。え~なにあの人やばいんですけどと後ろ指を刺されること請け合いだし、妙な連中に目をつけられるかもしれない。


 目をつけらた所で、ブッ飛ばせるだろうが、厄介ごとはなるべく避けるべきだと恭介は考えた。


「黒龍帝は強い方に入るらしいが、あのザーヴァスがなにからなにまで教えてくれているとは思えん。俺をどこに放り出したのかを教えてないし、この世界に放り出した身寄りもないこんないたいけのない高校生に金もくれんし、不親切なことを挙げれば枚挙に暇がない。絶対に他にも隠しているはずだ。あのクソガキ。」


 どこからか、アハハハ! そうかな? といらつく笑い声が聞こえないでもないが、ひとまず無視して、恭介は前に視線を戻した。鬱蒼と生い茂っていた木々はもう既に黒い炎に包まれていたが、その先に先ほどより見えていた光が強くなり、光り輝いている。


「あそこから出れば、俺の異世界、といっても故郷な訳だけど。まあとにかく異世界ライフが始まる訳だ! 母さんの復讐とかやることが色々ありそうだけど、取り敢えずは祝砲といこうじゃないか! 」


 恭介はそう言ってから足に力を込めて、ドンっと地面を蹴った。


ドガァッァァン!!


 とんでもない爆音が鳴り響くが、気にせずに恭介は笑い声を上げる。楽しくて仕方がないのだ。地球ではなんの刺激もない毎日。どこか制限された生活。灰色の日々だった。それが自分のためと気づいたが、それでも退屈だったのは変わりない。


 友達も道場が忙しくて作れず、その影響でイジメの対象になったこともあったが全てはその日のうちに力でねじ伏せた。そのせいで更に人が遠のくという事になったが、恭介はその頃には既にもう悟りを開いていた。だが、それがどうだ。今いる世界では楽しい事に溢れているという。笑わずにはいられようか。否、断じて否だ。恭介はただ笑い声を上げ続ける。


「アハハハハ!! 魔物? 7つの種族? 戦争? 上等じゃないか。やってやるさ! 全部全部見てやる! 戦ってやる! ザーヴァスお前が俺になにを望んでいるのかは知らないが! ありがとよ! 俺と父さんを救ってくれて、そしてこの楽しい世界に俺を戻してくれてな! 」


 黒く燃え盛る炎に包まれた視界が開けた。それはまるで、これまでの退屈な日常から、脱却するかの様だ。恭介は決意する。復讐もやり遂げる。だがしかし、それが終わるまでずっとひた走り周りを見ないのは実にもったいない。だから、復讐に進みながらも周りを見て楽しもうと。特に魔物と戦ってみたい。そんな怪物となんて、ゲームでしか戦うことが出来なかった。それを生身でとなると‥‥ワクワクする。


 恭介はそんな事を考えてから、徐々に減速して、ズササッーと音を立てて止まった。止まった恭介は、腰に手を当てて空を仰ぎ、息を吐く。


「あ~やっと止まった。この体のスペック、予想以上に高すぎるな。こんなの初めてだぞ。それにやっちまったよ。森焼いちゃったよ。うわ~ そういう系の団体に袋叩きにされる‥‥。」

「き、金色の目‥‥。ハハハ、どこまで最悪な方向に進めば気が済むのじゃ。最悪と思っていた黒龍が可愛く見えてくるわ。黒龍の王。黒龍帝とは、な。」


 恭介が自嘲気味に口元に笑みを浮かべていると、前方から声が聞こえてきた。それを聞いた恭介は視線を空から下す。するとそこには、武装した集団が20名ほどいた。だが、その集団は人とはかけ離れた見た目をしている。


 馬の顔そのものをしている者や、頭から角が生えている者、頭部から犬耳が生えている者など様々だ。それらが、でかいトカゲや、6本足の怪物馬に乗っているのだ。

 何処ぞの魔王軍? 逃げるかとか、俺が放火犯ってバレちゃったとか恭介は考えるが、いや待てよと考え直す。


(こいつらの見た目から獣人族と森精族に魔族だな。 そして、今の俺は翼と尻尾と角が生えている。つまりはお仲間みたいな物だ。ここは友好的に接し、交友関係を築いて、情報をえるのが得策か。それに同じ魔族なら、俺の言い訳を分かってくれるかもしれないしな。)


 そうと決めた恭介は片手を上げて、やあとばかりに声をかける。その時に相手方がビクッとなっていたが恭介は気にしたら負けだとばかりに、平常心を保つ。


「こんにちは! 僕の名前は桐谷、いやベルフォル・ドラグニア。いや~今さっきこの森から出てきたしがない黒龍なんですけど。皆さんはどうしてここに? あ、もしかして散策ですか? この時期になると瑞々しい草木が見れていいですよね~ 」


 黒龍の時点で全然しがなくないし、瑞々しい草木は現在進行形で自分が出した炎で焼き尽くしているなど、突っ込む点が多々あるが、それはともかく恭介はボッチ生活でこれなら社交的に見える! と考えていたものを披露した。


(さ、さあどうだ。俺が5年間温めてきた名付けて、ボッチ脱却大作戦のお味は。これを受けたものは妄想の中では、誰であろうと友達になるという恐ろしい技だぞ! ふははは! この魔の手から逃れられまい! )


 恭介は結構寂しい事を自分で言いながら、どうだと武装した集団へと目を向けたがどうやら無意味に終わったようだ。ルオスは手を横に振り声を荒らげる。


「総員散るのじゃ! 一箇所に固まっていては纏めてやられてしまう! そしてそことそこのお前! 今すぐ街に戻れい! 拒否は許さん! 」

「そ、そんなそれはないですよ! 」

「そうです! 俺たちにも黒龍と戦わせてください! 」


 ルオスに指差された2人の男女は私も俺も戦わせてくれというがルオスは早くしろとばかりに殺気を飛ばす。すると2人はぎゅっと悔しそうに手を握りしめてから背を向けて馬に跨った。


「ルオス様。勝ってください。私達は最後まで街で待っていますから。」

「酒も用意しておきますので、楽しみに待っていてくださいね! ハッ! 」


 2人はそう言葉を残して、去っていった。それをルオスはフッ笑みを浮かべて見送り、恭介へと向き直った。

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