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黒龍帝のファンタジア  作者: NTIO
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烈火の剣

 私ことイリーナ・ハンスは今、仲間達と冒険者ギルドで昼食を食べながら、手の上で今日の成果である魔玉を転がしていた。魔玉は私の魔族を含めた5種族が持っている魔力の源だが、別に私達だけが持っているというわけではない。


 ーーー魔物。この生物は私達と同じく体内に、魔玉を宿している。そして、魔法を使うのだ。雷を纏ったり、風を纏ったり、炎を吐いてきたりと様々だが、厄介極まりない害獣として見つけ次第討伐されている。


 この魔物は一体いつから現れたのかは、学者の間では人生を捧げてでも解きたい謎の1つとされているらしい。だが、そんなことは私達冒険者には興味がないことだ。興味があるのはただ1つ。それは金だ。魔玉は生活には欠かせないエネルギーとして使われているので、魔物の素材の中で1番高く売れる。桁が違うと言ってもいいかもしれない。


 冒険者はその魔物を狩ったり、ハゲザル(人間)やそれにくっついている羽虫共(龍人族、天人族)、土に潜っている芋虫(土精族)を踏み潰したりする職業な訳だが、危険が多い分報酬が高い。ハイリスク、ハイリターンという奴だ。死亡率が極めて高い職業だが、とても人気が高い職業として知られている。まあ、私達魔族と、それと仲間関係にある獣人族、森精族が比較的好戦的ということもあるんでしょうけどね。


 因みに、冒険者になる奴の目的は大抵冒険か、金かに分かれる。


 私は金だ。金があれば贅沢な暮らしもできるし、欲しい魔道書も買える。魔道書は高いので冒険者は持ってこいな職業だ。それにハゲザル共に復讐するために必要な力を身につけることができる。一石二鳥だ。


 それだというのに最近と来たら、この街の周辺から魔物がメッキリ姿を消した。そのせいで魔物討伐の依頼はなくなり、依頼ボードにはハゲザル、羽虫、芋虫の討伐依頼ばっかりだ。私達の様なゴールドならばなんら問題はないだろうが、シルバー未満の奴らにはちょっとキツイだろう。仮にも魔国に侵入してくるのだ。それがただのカスな訳がない。巷ではなにかの不吉な前兆だ、なんだと騒がれているがどうだろうか。


(まあ、どうでもいいわ。そういうことはお偉いさんが考えることだし。それに何かあってもこの街にはブラッディプリンセスのルオス様がいるわ。第4階位なら滅多なことがない限り、大丈夫でしょう。それにそれほどの事件が起きたのなら、私達、烈火の剣のいいアピールチャンスだわ。そこで上手くいけば‥‥)


 私はそこまで考えて、首を横に振る。


(ううん。 そんな上手いこといかないわよね。今は地道にコツコツと積み重ねていくときよ。だというのにはぁ~ )


「最近はしけているわね~ いい依頼がないんですもの。」

「全くであるな。某の剣技を披露するに足る敵が欲しいのである。」


 私は転がしていた魔玉をパシッとにぎりしめてから、ぼやくとそれに対して、仲間の内の1人がそう返してきた。ガウウェン・ソードバーツだ。


 この男は首がない甲冑姿をしている。魔族のデュラハンと言われる一族だ。剣技に優れ、その豊富な剣技に身体強化や、魔剣士としての戦い方が加わって敵に回すと厄介と言われている。実際その剣技は幾度も危ない場面を救ってくれたので、噂に違わない実力と言えるだろう。


 私のチームは合計で私を合わせて、4名いるが、ガウウェンはその中でも1、2位を争う実力者だ。ガウウェンを紹介したので、他の2名を紹介しよう。今もガウウェンの言った言葉にポカーンとマヌケズラを晒しているのが、獣人族のジオ・ライオネル。銀狼という一族らしく、普通の獣人族よりも数段優れている、らしい。自称なのでその真偽は定かではない。


 まあ、遊撃としてしっかりと仕事こなしているし、冒険者では上位に位置するゴールドでもあるので、本当なのかもしれないが。


 そして、そのジオを冷ややかな目で見つめているのが、森精族のエフィア・シチィラーゼ。いつも何を考えているのか分からない無表情で、森精族の整った容姿も相まって、まるで氷の様な美貌だ。


 そんなエフィアには度々男性がアプローチをかけるが、その度にエフィアは『近寄るなブタが』と一蹴している。だが、それがまた良いと人が増えているのだが、それを本人は気にしている様だ。モテるっていいわねと、褒めると八つ裂きにするぞと本気で怒るで、私は極力触れない様にしている。


 それはともかく、魔族のガウウェンと、獣人族のジオ、森精族のエフィア、そして魔族の中で魔人と言われる頭部にヤギの様なツノが生えた一族の私。この4人で烈火の剣だ。この街ではちょっとした有名人だ、と思う。多分。



「ハッ! 何言ってやがる。ガウウェン、お前の剣技っていうとあれか? 振るうたびにとんでもねぇ~風が起きるやつ。あれを披露とか、ケッ! 俺たちを殺す気かって~の。」

「その通りだ。ガウウェン、貴様の剣圧で陣形がズタズタになっては敵わん。一対一ではいいが、チームプレーをするときは控えてくれ。」


 私が自信なさげに頬を掻いていると、マヌケズラを晒していたジオは復帰してそう言った。それにエフィリアも続き、突っ込む。確かに、ガウウェンの攻撃はとんでもない剣圧を引き起こすので、いつもは盾役に回ってもらっている。それをガウウェンも分かっているので、残念という表情を顔に滲ませながらも、頷く。


「むむむ、そうであるか。残念である。」

「分かってくれりゃ~いいんだ。俺たちがお前の剣技に耐えられる様になったら頼むぜ。しかし、アバズレエルフ。珍しく意見があったじゃねぇか。どうだ今夜やるか? 相手をしてやってもいいぜ? 」

「黙れ犬。その薄汚い耳が千切られないうちに口を閉じろ。どぶの様な臭いがして耐えれん。」

「なんだとコラッ! 」

「やんのか。犬。」


 ジオとエフィリアはバチバチと火花を散らしながら睨み合う。いつもの事だ。ジオがエフィリアにちょっかいを出し、エフィリアがそれに見ているこっちが肝が冷える様な言葉で返す。最近になって私は、ジオは実はエフィリアが好きなんじゃないかと思い始めている。


 男の子は好きな女の子には意地悪したくなるというし、そうでなければこんないちいち、ちょっかいを出さないだろう。私はジオとエフィリアをボケーっと眺めながらため息を吐いた。


「はぁ~ あ~、暇ね~ 何か事件でも起きないかしらね~。とびっきりヤバい奴。」


 ーーーゴーーン! ゴーーン! ゴーーン!


 するとその言葉が引き金になったのか知らないが、冒険者ギルド、いやそれだけではない。街全体にけたましい鐘の音が鳴り響く。この音は‥‥


『緊急警報! 緊急警報! クァルシンスの森に第3階位以上の魔力、龍気を感知! クァルシンスの森に第3階位以上の魔力、龍気を感知! 龍人族と何者かが戦闘を行っていると思われます! これにより特一級警報を発令します! 冒険者、傭兵のシルバー以上の皆さんは正門の前に集まってください! 繰り返します! ‥‥』


「き、いたか? 」

「第3階位って‥‥」

「きゃぁぁっああ!! 」


 ウエイトレスの1人が、手に持っていたグラスを落としたのを皮切りに、特一級警報が発令された事実が、まるで波紋が広がる様に冒険者ギルド内に浸透していく。


「う、嘘だろ!? 伯爵アール以上って、この街はおしまいだぁぁ!! 」

「特一級警報が発令された! シルバー以上のものは直ちに正門へ! それ以外のものは市民の避難の誘導を手伝うんだ! 」

「クソ! 明日娘の結婚だって時にっ! ふざけやがってぶっ殺してやる! 」


 冒険者ギルドから慌てて逃げ出していくもの、この緊急事態に即座に対応するもの、目を血走らせ殺意を露わにするものと様々だが、私はこの中には当てはならない。いや、私達か。


 ジオは舌舐めずりをし、エフィリアは自慢のロッドを撫でながら、見たものを凍りつかせる様な笑みを浮かべている。ガウウェンは顔がないのでよくわからないが、体から溢れ出している好戦的な魔力を見れば、おのずとどの様な事を考えているのか、が分かる。


 そして私も、他のみんなから見たら凶悪な笑みを浮かべている事だろう。


「きた、とびっきりヤバい奴。」


 私の呟いた一言は、喧騒に支配された冒険者ギルド内でも、確かに仲間に伝わった事だろう。何故ならーー


 ーーみんな笑みを深めたのだから。

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