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黒龍帝のファンタジア  作者: NTIO
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桐谷 恭介という男は知る

 

 恭介は今夢を見ている。本人はそれを夢と認識しているし、体が半透明な時点で夢以外に何があるのかと恭介は思う。これは明晰夢という奴なのだろう。明晰夢とは睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことらしいが、今の状況に合致している。


 では恭介は一体どんな夢を見ているのか。それは2人の男女とその内の女性に抱きかかえられた赤ん坊がボロ小屋の様な場所にいて、なにやらコソコソとしている夢だ。男と女は目深いローブを被っていて顔を見ることは出来ないが、赤ん坊は見る事ができる。その赤ん坊は黒い髪に、クリっとした可愛らしい金色の目をしていてどこか神秘的な雰囲気を感じさせるが、それ以外に目を引く所がある。


 それは角だ。人間の子供には決して生えていないであろうそれは、赤ん坊の頭から後ろに流れる様に生えている。しかもその背中には黒い翼と尻尾までもがあってこの子供は人ではない、他の何かの子供という事が伺える。


 恭介はそれを見て、頭が痛いとばかりに額に手を当てた。


「おいおい、あれってあれだよな。龍人っていう奴。ということはあの2人も龍人? いやいや、おかしいだろ。ありえない。俺も変な夢を見るな〜 疲れているのか? 」


 ないないと手を横に振り、額に手を当てて見るが気を失う直前まで見ていた少年を思い出して目の前の光景があり得ない事ではない、と思い直す。あれそのものが夢ならば今見ているものもその夢の続きということになるが、体を駆け巡った筆舌に尽くしがたい痛みが夢だったという事はあり得まい。つまりはあの屋上での出来事は現実で、そして今は黒い靄に覆われた痛みで気絶した状態なのだろう。


「‥‥嘘だろ。」


 恭介は一言そう呟く。その言葉には色々な意味が込められていた。初めて見た異形の存在に対する恐怖と興奮。初めて父以外の存在に手も足も出ずに敗北した事実への驚愕と怒り。この様に上げればきりがない程に恭介は少年に対して様々な感情を抱いていた。


 だが、1番恭介の心を占めているのはーー興奮だ。


 恭介はどこか日常生活に退屈していたのだ。毎日家に帰っては父と稽古の繰り返し、それはそれで楽しかったのだが、それでも同じ様な事をやり続ければ飽きというものが来る。だからと言って何か変わるでもないので、恭介は人生ってこんなもんだろと悟りを開いた様な事を言っていたのだが、運がいいのか悪いのか恭介には変化が訪れた。

 

 恭介はグッと拳を握り締める。


「いいね、いいじゃないか。父さん以上の絶対的な強者、ワクワクする。絶対目が覚めたら探し出して勝ってみせる! 」


 そうバトルジャンキーの様な事を言った恭介だが、握り締めた拳に何か違和感を感じた。なんというかいつもより力が漲っているのだ。それにこんなに硬い手のひらではなかった筈だと手に視線を移してみると、そこには薄っすらと黒い鱗の様なものが生えた手に、鋭く尖った爪。


「な、なんじゃこりゃぁぁ!! 」


 それを見て恭介は素っ頓狂な声を上げた。それはそうだろう。たとえ夢の中と自覚しているとはいえ、いきなり自分の手が人間とはかけ離れたものになっていたのだから。その手はまるで目の前にいる赤ん坊の手の鱗とそっくりーーー


 ーーー僕が預かっていた君の力の返還だ。


 恭介は少年が言っていた言葉を思い出して、ハッと背中を振り向く。するとそこには黒い翼に爬虫類のようなこれまた黒い尻尾。それらはどこか禍々しさを醸し出しており、屋上で出会った少年と同じ様な気配を感じる。ズッシリと重くのしかかる様な、見ているだけで息苦しくなる様なそんな感じだ。

 

 しかしと恭介は黒い翼と尻尾を見て、何か違和感を感じた。この様な翼や尻尾が突然生えていたならば恐怖してもおかしくない筈だ。なのに自分は驚きはしても、恐怖はこれっぽっちも抱いていない。むしろ、この暖かい感情はなんだ? と。この暖かい感情は言い表すならば、長年分かれていた家族との再会に喜ぶ様なそんな感じ‥‥。


「これはもしかして、あいつが言っていた力の返還に関係があるんじゃないのか? 黒龍帝とも言っていたし。ああもう! 何が何だかよく分からん! 何が『君が抱くであろうすべての疑問の答えが頭の中に入る』だ! 全く入ってないじゃないか! 詐欺か? 詐欺なのか!? あのガキいっぺん殴りてぇぇぇ!! 」


 恭介が頭を抱え、絶叫していると頭に突如頭痛が走った。


「痛っ! 今度は何だよ! 今日は俺を痛めつけるキャンペーンでもやっているんですかねっ! 」


 あまりの痛みに恭介は冗談を言ってみるが、頭痛は痛みを増すばかりだ。今では頭の中に直接、大音量の不快音を流されているかの様な初めて経験する痛みに晒されている。だが、恭介はこの頭痛に晒されながらも、別の事に意識が向き始めていた。それは頭を駆け巡る膨大な情報。


 最初は気のせいかと思うほどに小さなものだったが、それは徐々に大きくなっていき、今では視界一杯に見たことのない様なものが映し出されている。緑色をした小さい小人から、背中には純白の翼が生えた天使の様なものまで様々だ。そして、恭介は少年が言っていた事が決して嘘ではないという事示す情報が頭を過る。しかし、それは恭介にとって決して良いものではなかった。知らない方が、幸せだったかもしれない。そんな壮絶なもの。


 恭介はおそらくはこの頭痛が原因であろう目眩に晒され、意識が途絶えそうになりながらもポツリと呟く。


「か、あさん。」


 恭介は呟いたことで、力を使い切ったのか、膝から崩れ落ちて気絶してしまった。その恭介の目には薄っすらと涙が浮かんでいる。その涙はひどく悲しげで一体どの様なものを見てそうなったのかは、本人と、恭介に記憶を与えた少年こと、魔神 ザーヴァスのみぞ知る。




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