魔王様と猫かぶりな王女
蝉の大音量な鳴き声が響く中姫は部屋で一人ため息をついている。
明日で夏休みが終わる、それはこの楽しく刺激的な日常の終わりを意味する。
決して家族との仲が悪いわけではない、ただ家にいると両親の言いつけに従う良い子を演じなければならない、度々家出を繰り返してみたが今回初めて成功したと言えるだろう、それは姫にとって狭い鳥籠から逃げ出した鳥のように自由で清々しい気持ちにさせてくれた。
しかし明後日から学校が始まりこれ以上親に心配をかけるわけにはいかないというのもわかっている、頭ではわかっているが帰ると長く外泊してたことを説教されることを考えるとため息がでてしまう。
「姫様、御尊父様から電話がきています」
マリエッタが静かに部屋に入ってきて伝える。
「おや、なぜ御尊父様が姫様がここにいることを知りここの電話番号を知ってるのか驚いた顔をしていらっしゃいますね」
マリエッタはわかっててわざと言う、先日の一件以来マリエッタは姫のことをからかったり毒づいたりしてくるようになった。
「答えは簡単です、馬鹿を競う競技があればヒーローインタビューはおろかベストナインさえ総なめする程のバカのMVPである魔王様が先日ご実家の方へ披露宴の招待状をお送りになられたからです」
姫は驚きから怒りの顔に変貌した、阿修羅も裸足で逃げ出しそうな形相で部屋から出ていった。
「御尊父様には不在だと伝えておきますか」
残されたマリエッタは一人呟いた。
赤い絨毯が敷かれた薄暗い廊下に魔王はいた、ご機嫌な表情で手になにか持っている。
「おお、姫よちょうどいいところにこれを知っておるか、ポケモンスナップというゲームらしいぞ、なんとソフトをローソンに持って行けばゲームで撮った写真を現像してくれるらしい、さぁいっしょにミュウを探しにイボラァ」
話途中で姫の前蹴りが魔王の鳩尾に直撃した。
「てめぇなにしてくれてんだっ」
土下座のような形になって悶絶している魔王に姫は問いかけるが魔王はコヒューコヒューと口から空気が漏れ出る音しかしない。
「なに親にここにいること言ってんだよ、あと披露宴ってなんだよてめぇ」
怒号が廊下に響きわたる、よろよろと立ち上がり壁にもたれ掛かる魔王。
「明日で姫は一旦帰るのだろう、その前に一度披露宴をやっておこうと思ってな別に今すぐ結婚するわけではない楽しい思い出作りのレクリエーションだ」
「なにがレクリエーションだ、ふざけんな」
姫は魔王に殴りかかる、しかし姫の渾身の右ストレートを魔王はあっさりと手で受け止める、今まで何度も魔王を殴ったが受け止められたのは初めてだ。
「姫よ正直になれ、ここの生活が心地良いのだろう、いつでも帰れたのになぜ帰らなかった」
核心をつかれ姫はたじろぐ、自分でもわかっていたしかしそれを認めてしまうと結婚の話がすすんでしまうだから隠していたつもりだったのに
「てめぇになにがわかるんだよ」
姫はまた魔王に殴りかかる。
「待ちなさい」
マリエッタが止めに入りすんでのところで拳が止まる、魔王は避ける素振りも見せずに立っていた。
「ここで言い争っても何の解決にもなりません、一度部屋に戻ってどうするか決めるべきです」
姫は唇をワナワナと震わせながら踵を返す。
「あのような言い方、魔王様なにを焦っているのですか」
「なに、少し我のワイルドさが溢れ出ただけのことよ」
「おや、魔王様はワイルドな方だとは存じ上げておりませんでした、それでしたら今日の夕食時にはニンニクを丸かじりしていただきますね」
部屋に戻り姫は身支度をする、ここはたしかに居心地がいいが家族、友人、生活を捨てることはできない。
魔族のみんなとの思い出が無意識に頭の中で再生され涙が溢れてくる。
なにやら外が騒がしい、姫は窓から顔を出して覗いてみると次々と魔族が館から外に出て行くのが見える、いつも騒がしい彼等だがどこか様子がおかしい。
自分も外に出ようとすると麒麟が部屋の前を通り過ぎたのが見えた。
「おじいちゃんなにがあったの」
「おおう姫様、実は陰陽師が森に入ってきたらしくてな、みんなそれで慌てとるんじゃしかし陰陽師と魔族の邂逅なんていつ以来かのぅ」
姫は麒麟と一緒に足早で外にでる、もし姫の想像通りならば魔族は殺されてしまう。
「姫様、こっちきちゃ危ない」
雪女の雪華が止める、隣にはルーガルーもいるこの二人未だ仲良くやっているみたいだ。
「こっちにいるんだろ、私が止めてやる」
雪華の制止も虚しく姫は突っ走っていく。
「うひゃー、姫様はえー」
ルーガルーは一人陽気に笑っている、まだ事の重大さがわかっていないらしい。
呪文のようななにかが聞こえ目的地が近いことを察し姫は速度を上げる、行く先々で魔族のみんなが倒れているあの呪文でやられているらしい。
少し開けた所に白装束の男が立っていた。
「……飛鳥」
男は驚いた表情で姫を見つめる。
「お父さん」
姫もまた驚いた表情で見つめる。
「魔族の悪戯だと思いたかったが」
姫の父である男は苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「お父さん……陰陽師ってどういうことですか」
姫はまだ驚きを隠せずにいる、問われた男は一瞬困った表情をし下を向く。
「お前が成人を迎えるまでは隠しておくつもりだったんだがな、うちは先祖代々受け継がれてきた陰陽師なのだ」
男はどこか申し訳無さそうな顔をしている。
「このことは帰ってゆっくり話そう」
呪文が途切れたため周りの魔族がモソモソと立ち上がる。
「姫様、陰陽師の一族なんですか」
「……姫、まさかお前は本当に魔族と結婚するつもりなのか」
睨みつけるように男は姫に問いかける。
「いえ、私は」
父親のプレッシャーから姫は否定も肯定もできずにたじろいでしまう。
「そうだ、姫は我と結婚するのだ」
後ろから魔王がゆっくりと歩いてくる、元凶のくせに。
「貴様が魔族の王か、なぜ吸血鬼が昼間に外に出られる」
魔王がでてきたことにより男は身構える。
「ふむ、貴様の先祖と我の先祖が争いをおこし和平協定を結びお互い干渉しないことを決めたことを我は知っておる、しかしとんだ勘違いをしておるようだな」
いつものアホな魔王とは別人のようだ、姫はおろかほかの魔族も呆気にとられている。
「しかし見聞録には吸血鬼は太陽の光に弱いと」
男は昼間だから吸血鬼はでてこないと思っていたのだろう、明らかに動揺している。
「半分正解だな、だがそれは先祖のドラキュラ・オルロックだけだがな、奴は紫外線アレルギーだったからな」
「なっ、しかし貴様も魔族これならどうだ」
男は再び呪文を唱え始める、魔族たちは苦しみ悲鳴をあげ膝から崩れ落ちていく。
魔王を除いて。
「我は魔王ぞ、そのようなもので地に足つけぬわ」
「散々姫様に殴られ地に足つけてらしてましたけどね」
マリエッタが茶々を入れる、魔王は男に詰め寄り喉につかみかかる。
「こうすれば声はだせまい、次はどうする映画のようにド派手なアクションを披露するか」
「やめて」
姫は魔王に割ってはいる、男はゲホゲホと噎せながら魔王から距離をとる。
「姫よ、決められたレールの上を窮屈に生きていくかここで我と暮らすか自分自身で決めよ」
「飛鳥、お前は結婚して陰陽師を引き継ぐ使命があるのだ」
二人は意見は違うが一緒になって問いつめる。
「お父さん、魔王、ごめんなさい私結婚はできません」
姫は目に涙を浮かべ自分の思いを吐き出していく。
「私、私ずっとお父さんに、いえ誰にも明かしてない隠し事があるんです」
ダムが決壊したように溜まっていた涙が零れ出す。
「私レズビアンなんです」
時が止まったかのようにみなが呆気にとられた、虚しく鳴り響く蝉の声が時間が停止していないことの証明になっている。
「だから私どちらの願いにも応えられません」
姫は座り込み声をだして泣く、周りはただただキョロキョロする。
「あ、飛鳥すまないお前の気持ちも考えずに」
「姫よ、我はレズビアンだとしても姫のことを愛しておるぞ」
「貴様、今飛鳥はレズビアンだと言われて振られただろう、飛鳥は家に帰るんだ」
「姫がレズビアンだとしても我の想いは変わらぬ、愛というものは一方通行なんだ」
「そんなにレズビアンレズビアンって何回も言わないで」
言い合う二人を真っ赤な顔で止める姫、自分の性癖を親と魔族の王に連呼されているのだから恥ずかしさ人一倍だろう。
「たしかに私や雪華など女性に話しかけることが多かったですね」
マリエッタが場をまとめるように入ってきた。
「先ほどからお二人の意見を聞いていたのですが姫はご実家に帰られて休日などにここに遊びにこられてはいかがでしょうか」
「「「あ」」」
姫と父と魔王が声を揃えて言う。
「お二人いえ姫も入れてお三方ですね、なぜ二者択一だと思いなのでしょうか、結婚や家柄から少し離れて考えてみては」
皆が驚いた表情の中マリエッタは涼しげな顔で言う。
「しかし陰陽師と魔族が仲良くなんて」
父親は怒られた子供のように目線を合わせず言い訳している。
「かつて人と魔族は争いそして避けあうようになりました、これからお互い歩み寄る関係になれば素敵ではございませんか」
「お父さん私からもお願いします」
姫が父親に向かって頭を下げる、父親はなんとも困ったように指で頬を掻いている。
「うむ、飛鳥もまだ学生だしな、とりあえず成人するまでは保留にしよう」
周りの魔族が喜びの歓声をあげる。
「どうやら飛鳥はここのやつらに好かれているみたいだからな、だがお前だけは結婚相手として認めないからな」
父は魔王を指さし威嚇する、魔王は指で自分の口を横に引っ張り舌をだしている。
「飛鳥、みんなに挨拶もあるだろうから明日帰ってきなさい」
父は踵を返し森の外へと歩いていく。
翌日披露宴は送別会に変わり昼間から盛大なパーティーが開かれた。
ここで出会ったみんなにこれまでのお礼とこれからの約束をして姫は外に出た。
外には誘拐時に使われた車が止まっている、運転席には同じくフランケンシュタインが座っているが体格と車のサイズが明らかにあってなくキチキチに詰まっている。
「姫よ、我自ら見送りしよう」
馬鹿なやつだと常々思っていたが別れとなると寂しさがこみ上げてくる。
「また嫌なことがあればここに来るがよい、人間は様々なしがらみがあるらしいが現実逃避もここなら逃げきれるぞ」
まさかの優しい言葉に姫は少し泣きそうになる。
「我は姫のためならいつでも性転換するからな」
姫は間髪いれずに右ストレートを叩き込む、感動からの怒りを通り越して笑いが出てきた。
「台無しですね」
マリエッタはヤレヤレと行った感じにため息をついた。
好きなポケモンはシャンデラの西東上下です。
ポケモンは完全に見た目でパーティー組むので毎度タイプ偏りまくりで四天王に苦戦してます。
最初にポケモンくれる博士が実は黒幕だったらおもしろくない?と友人に言ったら厨二病すぎると笑われました。
関係ない話はこのへんでやめて「魔王様と猫かぶりな王女」は今回で完結です。
初めての連載で反省点だらけですが特に更新頻度が遅いのがクソやなと自分で思ってます。
何個か構想考えてる話があるんでそれを書くときはあらかじめ数話書いて第1話をあげたいなと思いました。
長くなりましたが最初から読んでくださった方最後だけ読んでくださった方ありがとうございました。
感想やレビュー書いてくれると嬉しいな。




