姫様と優しい老人
姫は誘拐されてからというもの魔族の館を探検することを好んだ。
ここでは普段押し殺していた素の自分をだすことができ、日常では関わり合うことのない魔族と交流を深めることができる。
今は夏休みで学校もない、友人に口裏を合わせてもらい家族には泊まり込みで勉強をしていると連絡した。
母親は携帯電話を持たない姫を心配していたが押し切って館での新鮮さと刺激を満喫することにした。
いつも森の中の川をバタフライ泳法で泳ぐゴーグルをつけた河童、皮膚が弱く持っているヤツデの葉のせいでいつもかゆみに襲われている天狗、自分の力を恐れる心優しいフランケンシュタインと個性豊かなメンツばかりだがその中でも一際姫には気になる者がいる。
皆から爺と呼ばれ館の雑用をこなす長い髭をたくわえ額に一本角が生えた白い武術服を着た老人、口調もゆったりとし皆に色んな雑用をおしつけられても嫌な顔一つせずいつも皆を後ろから見守っている。
太陽がてっぺんまできたこの時間なら恐らく外で洗濯物を干しているはずと思い姫は爺を探しに外へでる。
「おや、姫ではありませんか、今日は天気もよく気持ちがいいですな」
予想通り爺は洗濯物を干している最中だった。
「そうだね、爺ちゃんよかったら時間ある?たまには家事じゃなくていっしょに遊ぼうぜ」
「ありがたい申し出じゃが今日は洗濯が終わったら広間の掃除をしようと思っての」
「じゃ、じゃあさ一緒にやろうぜ、二人でやったら早く終わるし」
「姫様に雑用などさせるわけにはいかんよ」
姫はいーからいーからと言い強引に手伝い始める、爺は少し困った表情をしたがすぐにいつもの優しい笑顔に戻り作業を再開した。
「でもなんでいつも爺が家事をしてるんだ?マリエッタとかメイド服着てるけど家事してるの見たことないし」
「マリエッタは魔王様にのみ忠誠を誓っているんじゃ、館や魔族の世話はせんよ、ほかの皆はこの館が好きでここにいる気ままなやつらじゃ魔族とはそういうものじゃよ」
忠誠を誓っててあの暴言っぷりなのかと姫は思ったが口には出さない、爺は見た目通りこの館でもかなりの古株らしく魔王が生まれる前からこの館にいるらしい、つい昨日のことのように先代の魔王のことや魔王が生まれた日のことを語ってくれた。
「おお、もう終わったのう」
気がつけば大量にあった洗濯物を全て干してあった。
「じゃあ広間の掃除に行こうぜ」
爺は姫に手伝いを拒否しても着いてくるだろうと思い一緒に館の中へと行く。
「おお、姫捜したぞ、今日は巨大な綿菓子を作ろうと思ってな、我と一緒に東京ドームサイズの綿菓子を作ろう」
広間へ向かう途中廊下で魔王と出会う、姫はうるせぇと一喝し通り過ぎるが後ろから声だけが届く。
「姫よ、綿菓子が完成したら見せに行くからな、爺よ、姫を丁重にもてなすのだぞ、お前は館一恐いからな」
広間へ着き魔王の言葉が気になり姫は爺に問いかける。
「爺ちゃん怒ったりするの?」
「ほっほ、あれはまだ魔王様が小さい頃じゃったからなトラウマになっておるのじゃろう」
笑いながら話す爺はやはり怒ったりするようには見えない、いつもの魔王の戯れ言だと思い姫と爺は広間の掃除を始める。
掃除を始めしばらく経ったときに魔王が巨大な綿菓子持って広間にやってきた。
「姫よ、見よこの巨大な綿菓子を、糖尿病の人間が見たら裸足で逃げ出すぞ」
姫に早く渡したいのか小走りでやってくる魔王、しかしそこは今掃除をし磨き上げた広間である。
魔王はヘッドスライディングのようにダイナミックに転けてしまう。
手に持っていた巨大な綿菓子は放物線を描き爺の顔面に直撃する。
「てめぇなにやってんだ!!」
姫はすかさず魔王の胸ぐらを掴み殴りかかろうとするが爺が止めに入る。
「アッハッハッ、爺髭に綿菓子がこびりついておるぞ」
魔王は爺を指さし笑い転げる、それに対し姫はまた激怒するが爺が間に入って止める。
「姫様よ、魔王様を怒らないでやってくれんか?」
「でも」
「優しい姫様はわしのために怒ってくれてるんじゃろ?でもわしは怒ってないからの、だから魔王様を怒らないでやってくれ」
姫は渋々納得し振り上げた拳を静かに下ろす。
「しかし綿菓子がダメになってしまったな、姫よまた作ってくるからしばし待っておれ」
広間から姿を消す魔王、掃除を再開する姫と爺。
「ふー、終わったな」
魔王が去ってからは和やかに作業は進んだ、しかし気がつけば時刻は19時になろうとしていた。
「姫様、本当にありがとうな、おかげで夕飯前に終わったよ、なにかお礼をさせてもらえんか?」
「え、いいよお礼なんか、あーやっぱり一つあるな、なんか見返りみたいで悪いけど爺ってなんの魔族なんだ?」
「なんじゃそんなことか、そうじゃのう口で説明するより姿を見て貰うほうがわかりやすいかのう、姫様よければ外に行きましょう」
狼男のルーガルーが人間の姿と狼の姿に変われるように爺も本来の姿があるのだろう、姫は返事をし爺の後をついて行く。
外にでて姫はワクワクとドキドキで少し興奮している。
「姫よ、さっきのより巨大なやつができたぞ」
魔王がまたも巨大な綿菓子を持ってきた、その後ろにはゾロゾロと魔族たちがついてきている。
「これほど巨大な綿菓子を作れるのは我だけだぞ、それを食べれるとは幸せ者だな姫よ」
魔王がなにか言ってるがほかの魔族が爺にいろいろな頼みごとをしていて聞き取れない。
「貴様等、静かにせい!」
魔王が周りの者に注意していると一匹の虫が綿菓子にとまる、甘い匂いに誘われたのだろう。
「ああ、せっかくの姫への綿菓子が、これでは食べられないではないか、貴様などこうしてくれる」
魔王は虫を掴みそのまま潰してしまう。
「喝ッ!!!!」
突然爺が怒鳴る、すると大気が震える感覚に襲われ爺はみるみる姿を変えていく。
龍のような頭に巨大な鹿のような体、逞しい角がギラギラと輝いている。
「ヴァンよ、無益な殺生はするなと教えたはずだ」
さきほど迄の温厚な様子が微塵も感じられずその力強い言葉に魔王たちは震えている。
「姫様すみませぬ、お礼としてだったのにこんな形になってしまって」
雷のような説教が終わり爺はもとの姿にもとの温厚な口調に戻っている、魔王たちはまだ土下座している。
「いいよ、爺ちゃんが怒ってなかったら私が怒ってたし、ところで結局爺ちゃんってなんの魔族なんだ?見てもよくわからなかったよ」
「麒麟ですよ」
さっきまでいなかったマリエッタが横から入ってきた、恐らく一部始終を見ていたのだろう。
「麒麟はとても縁起のよい生き物とされてます、現に私は麒麟の姿を見たことで魔王様の虫けらのようなプライドをかなぐり捨てた土下座を見ることができ非常にハッピーであります」
姫はマリエッタが本当に忠誠を誓ってるのか疑問に思いながらも爺のことが知れて嬉しく思う、この気持ちは麒麟を見れたからなのかもしれない。
「珍しいね、爺ちゃんが日向ぼっこしてるなんて」
外で切り株に座っている爺を見つけ姫が声をかける。
「なぜか皆が自分で家事をするって言い出してな、時間を持て余しとるんじゃ」
爺の説教が余程効いたのだろう。
「だったらさ、最初のお願い覚えてる?」
姫が笑顔で問いかける。
「はて、姫様からお願いなんてされたかのぅ」
「いっしょに遊ぼうぜ」
好きな方言は広島弁の西東上下です。
実は別シリーズの作品の構想が天から降ってきてそれを書くか迷ってます。
書くことを迷っているというか書くタイミングで迷ってます、今書いている「魔王様と猫かぶりな女王」と並行して書くか完結して書くか……悩ましい。
というかシリーズ物で書きたい構想が割とある。
がんばって書いてくしかないですね。




