雪女の真っ直ぐな想い
「ルー……くん?」
初めて聞く固有名詞に呆気にとられる姫、好きな食べ物や趣味などを聞いたつもりが恐らく知人の名前を出すとは微塵にも思っていなかった。
雪華は両手を頬に当てて恥ずかしそうに首を軽く揺らしている、真っ白な肌もほんのりと朱を帯びている。
「えっと……ルー君ってだれ?」
自分から話題を振った以上膨らませないといけない、野蛮な所もあるがやはり育ちがいいのだろう根は気遣いのできる人間だ。
「姫様、会ったことある」
「私が?ってことはあのPS時代のポリゴンみたいな体型のやつかモヒカンでチャラそうなやつのこと?」
フランケンシュタインと狼男のことだろう、どちらもいい印象は持たれていないようだ。
「チャラそうとか言わないで」
少しムッとした表情で雪華が言う、どうやらルー君とは狼男のことのようだ、姫はチャラそうと言ったことと雪華の前でルーをボコボコにしたことで愛想笑いでしか返せないでいる。
「魔王様が姫様にアタックしているのを見て私も勇気を出して伝えたい」
最小限の言葉ながらその眼にははっきりと強い意志が感じる、姫もその意志を感じ取った。
「よくぞ言った雪華よ、この我もサポートしようぞ」
「いきなりなんだてめぇは」
タイミングを見計らったように部屋に入ってきた魔王を姫の体重を乗せた右ストレートが出迎える、魔王は顔面でその右ストレートを受け止め部屋の外まで転がるがゆっくりと立ち上がりよろつく様子もなくまた部屋へと入ってくる、出たり入ったり忙しいやつだ。
「なにも邪魔しようというわけではない、我はこの館の主だからな、従者の思いに答えたいのだ、雪華よ、一人より二人、二人より三人のほうができることは増えるぞ」
「うん、三人がいい」
雪華の二つ返事にげんなりとした表情を浮かべる姫、そのげんなりとした表情を静かに胸ポケットに入れたペン型カメラで撮影する魔王、非常に奇妙な光景である。
「まぁ馬鹿はほっといて雪華は狼男のどこが好きなの?誘拐した時も一瞬で気絶してたから私あの人のことまったく知らないんだよね」
誘拐決行時、狼男は姫の一撃で早々に気絶していたのである、オロオロしている雪華は頼りにならずフランケンシュタインが必死の抵抗でなんとかこの館まで連れてきたのだ。
「ルー君はね、やさしいの」
それだけ言ってまた両手を頬に当て照れる雪華、姫がため息を我慢しつつ目で魔王に喋るように促す
「ふむ、ルーガルーはちょっとヤンチャなとこもあるが人当たりもよく一緒にいて楽しいやつだぞ、この館でも一番若いから優良物件というやつだな」
魔王の説明に雪華がなぜか照れている。
しかしルーガルーの人柄は良さそうだ、姫からしてみれば魔族とはやはりおぞましいものだと思っていたが魔王、雪華と話して自分が偏見の目で見ていたのだと思った
「なんとなく人物像は出来たけど雪華はなんでルーガルーのことが好きになったの?」
聞かれた雪華は顔を真っ赤にしながらクネクネしている、魔族にもこんなかわいいやつがいるんだなと姫は少しほっこりする。
「話し出すまで時間がかかりそうだな、姫よ我とインディアンポーカーでもして待とうではないか」
「黙れよ」
魔族にもこんな馬鹿がいる上にそいつが頂点だと思うと姫は変なやるせなさに包まれた。
「あのね、私喋るの得意じゃないの」
クネクネした動きを止め雪華が語り出す、姫は知ってるよと心の中でツッコミ次の言葉を待つ。
「だから友達いなくていっつも一人で遊んでたの、でもルー君はそんな私にも話しかけてきてくれて遊んでくれたの」
「ふむ、恋は唐突なものだからな、我も人間が肝試しに森に入ってきたと聞いて脅かしてやろうとしたところ姫を見つけ20分は見とれていたからな」
友人に誘われ嫌々行った肝試しがまさかこんな大惨事になるなんて、姫はあの時の自分を鎖に繋いででも阻止したいと思った。
「まぁ実際見とれていたのは5分程度だがな、その隙にマリエッタが我の半径1メートル程にニンニクを敷き詰めていたので動けなかったのだ」
「クソどうでもいいよ、雪華の話が薄れただろ」
魔王に対しては語気が荒くなる姫だがこの魔王に対しては仕方ないだろう。
「それで雪華はルーガルーにどうやって思いを伝えるの?」
「魔王様みたいにハッキリと言いたい」
姫は思いを伝えられることは多かったが自分から伝えたことはない、いやそういった思いについてよく知らないと言った方が正しいのだろう、それでも思いを伝えにきた者に断る時は胸が痛くなった、例え相手が自分のよく知らない人間だとしてもだ、だからこそ今目の前で思いを伝えることを決心した雪華を全力で応援したいと思った。
「ならば善は急げだ、マリエッタよ」
魔王が両手を二回叩く、すると銀の髪、褐色の肌、フレンチメイド服といういつもの格好をしたマリエッタがゆっくりと部屋に入ってきた。
「ルーガルーは今どこにいる?」
「あの子は夜行性ですからいつものごとく外で遊んでいると思われます、夜ですので皆様コートを用意しました」
マリエッタは手早く三人にコートを渡す、姫と雪華は礼を言い羽織るが魔王はコートを着た瞬間脱ぎ地面に叩きつける。
「マリエッタよ、このコート背中に十字架の刺繍があるではないか」
マリエッタが魔王に渡したコートには背中にデカデカと銀の十字架の刺繍が施されていた。
「魔王様に少しでも若々しい格好をしていただきたくてご用意したのにそれを無下にするのですね、情緒不安定な主のせいで私の精神はボロボロです、これがスポーツ選手ならイップスに陥り引退しているところです、しかし私はスポーツ選手ではありません感謝してください」
結局魔王はコートを着らずに外へ行った、十字架のコートはマリエッタが着ることになったがブカブカで手も覆われるほどである。
外に出た一行、8月の下旬とはいえ遮蔽物のない森の中の夜は少し冷える
「ルー君、いた」
雪華が遠くにいるルーガルーを見つける、真っ白なモヒカンだが横は黒髪で真っ白なシャツに黒いハーフベスト、膝が見え隠れする迷彩柄の短パン、尖った耳にはピアスをしている、たしかに姫の言ったように少しチャラく見える。
少し空けた場所で一人で遊んでいるようだ。
「あいつは一人でなにしてるんだ?」
離れた草むらに隠れた姫が怪訝そうな顔で言う、夜目のきく魔王もなにをしているかまではわからないようだ。
ルーガルーがピョンと草むらに飛び込む、わき目もふらず顔から突っ込んでいった。
すぐに草むらから嬉しそうな顔ででてきた
「手に何か持っておるな、狩りをしていたのか」
魔王がルーガルーに気づかれないため小さな声で皆に伝える。
ルーガルーはキョロキョロと周りを見渡し手を掲げて捕まえた獲物を宙ぶらりんにする、どうやら鼠を捕まえたようだ。
尻尾をつままれて宙吊りになっている鼠は逃げ出そうと暴れている、ルーガルーは鼠を見つめニヤァと笑った後鼠を丸飲みした。
あまりの出来事に姫は短い悲鳴をだした、その声にルーガルーは素早く反応する。
耳のいい狼男だ、まっすぐ姫たちの方を見ている。
四人は仕方なしに草むらから出て行く、知ってる者がでてきたからかルーガルーは少し安心した表情を浮かべる。
「うっ、姫様」
姫の顔を見て少し距離を取るルーガルー、気絶させられたことが少しトラウマのようだ。
「ルーガルーよ、今宵は美しい月だな、それに加え貴様にとって素晴らしい出来事が待っておるぞ」
空気を読まずに魔王がハードルを上げる。
「ルー君、こんばんは」
雪華がおずおずと前にでて挨拶をする、かなり緊張しているようだ。
「雪華姉こんばんは」
元気に返事をするルーガルー、たしかにこの屈託のない笑顔は心動かされそうだ。
「突然だけど………私のこと……好き?」
「うん大好きだよ」
質問とほぼ同時に最良の返事が返ってきた。
嬉しさで涙を流す雪華、喜び拍手をする姫、I will always love youを歌い出す魔王、まるでこうなることを予測できてたかのような澄まし顔のマリエッタ。
「嬉しい……ありがとう」
涙ながらに言葉を紡ぎ出す雪華
「お礼なんていいよ、僕雪華姉も魔王様も館のみんなが大好きだもん」
えっ?と驚く姫、泣き続ける雪華、歌い続ける魔王、ニヒルに笑うマリエッタ。
「じゃあ私たち恋人だね」
まるでさっきの言葉を聞いていなかったように雪華が言う。
「恋人ってなに?」
無垢な表情でルーガルーが返す。
「恋人っていうのはね、好きな人同士がなる特別なものなんだよ」
「そうなんだ、じゃあ僕たち恋人だね」
なにが起こっているのかさっぱりわからない姫にマリエッタが言う。
「やっぱり彼にはまだ早かったようですね、貴女はルーガルーのことをどう聞きましたか?」
突然の問いに驚く姫
「えっと、ヤンチャで人当たりがいいって」
「それだけですか?」
「あと……なんだっけ?……そうだ、最年少って」
「そうです、ルーガルーはこの館で一番年下の今年二歳の狼男、恋や愛など知らないのです、しかし雪華はそれでも構わないようですのであとは二人に任せましょう、魔族の生命は永いですしこれからどうとでもなるでしょう」
ヘタっと座り込む姫、なんなんだろうこの感情は、もうなにもやる気がしない、何も考えず早くベッドで寝たい。
「茶番、ということですね」
マリエッタはクスリと笑みを浮かべて言う。
好きな俳優はゲイリー・オールドマンの西東上下です。
僕は読書、音楽、映画が好きなんですがどれも好きなのを何回も見たり聴いたりする傾向があります、知らず知らず台詞なんか覚えちゃう程度に。
僕の作品にもそういう人が出来たらこれ以上ない喜びだろうなぁとか妄想してニヤニヤしてる僕は最高に気持ち悪いですね、そんな気持ち悪いやつが書いてる作品ですがよければ次話や別作品も読んでください。




