第5話 リーテシア 苦難の幕開け
後悔、という言葉がある。
大抵は事が起こってから、その言葉を噛みしめることになる。事が起こってからでは遅いというのに。
日々の生活で常に「後悔しないように考えて行動する」人などは稀なのではないだろうか。後悔しないように、そんなことを常に考えて生活をしていては、心が張り詰めすぎていて先に精神が参ってしまう人が大半だと思う。だから人は未来を想定して慎重に行動するときは、そのタイミングを無意識に見計らうことが多い。ここだ、というタイミングで「後悔しないように」行動するのだ。
私はそのタイミングを見逃した、とリーテシアは思った。
私の無意識さぼりすぎ、とも思った。
盛大に逃した「後悔しないためのタイミング」はもう戻ってこない。起こってしまったものは仕方がない。だが人間とは、起こってしまったもの、過ぎてしまった失敗を振り返るものだ。振り返り、反省し、次に同じことがあっても過去とは異なる違う道を歩めるよう改善するのだ。この改善の繰り返しを学習とし、その経験値をより多く積んだ者は、きっとそれなりの人生を歩めるのではないかと思う。
ではそれに倣って過去を振り返ってみる。
単純に振り返るのもつまらないので、ここに至る要因を要点をまとめて思い返してみる。
発端:ラミーの思いつき。
過程:ラミーの判断ミス。
結果:後悔あるのみ。
ちょっと簡潔すぎたかもしれない。
これだとラミーが全ての要因のように見えてしまう。リーテシアは彼のことをあまり好ましく思っていなかったが、それでも意味もなく陥れようとは思わない。誤解や思い込みほど、他者との人間関係を悪化させるものはないのだから。
もう一度、先より少しだけ詳細に落とし込んで思い返してみよう。
発端:ラミーのとある思いつきにより、孤児院の子供3人でとある場所へ向かうことになった。
過程:ラミーのとある判断ミスにより、リーテシアは窮地に対面することになった。
結論:色々と後悔あるのみ。
全然、誤解や思い込みなんてなかった。
結論としては、ラミーが悪い。
これはもはや不動の事実といっても過言ではない。間違いない。全財産を賭けても後悔しない。まさに学習と経験が培った答えであった。少し違う気もするが、そこは見て見ぬフリをしても損はないはずだ。
生きてこの窮地を脱することができたのであれば、文句の一つや二つ――いや、一日中文句を彼に言ってやろうと心に決める。
リーテシアは近くの隆起した岩場に身を隠し、さて、と思考を巡らせる。
嫌な汗が全身をつたり、心なしか寒気を感じる。この砂漠地帯の気候の中でも震えるような寒さが血管の中を這いずり回る感覚だ。嫌な感覚だ。できれば二度と味わいたくない。その感覚が思考を鈍らせ、際限なく「諦めろ」と言わんばかりに邪魔をしてくる。その感覚を押さえながらも、さらに考えようとすると酷い頭痛まで襲い掛かってくる。よほど、この体は現状を注視したくないと見える。もう考えるのを止めて現実逃避しようよ、とでも訴えかけてくるようだ。
冗談ではない。
彼女はこめかみを強く親指で押し込み、その痛みで頭痛を振り払った。
魔法の原理は実のところ彼女自身も良くはわかっていない。
レジンに魔法の使用を禁止させられており、魔法を実際に使って色々な確認や実験ができないのも要因の一つではあるが、図書館にある魔法関連の書籍を片っ端から見ていっても、その原理の説明はなかった。
ただ魔法に素養のある者は、あるイメージを感じ取れるらしい。
この世界で魔法を研究する様々な学者は、それを「魔素」と呼んだり「魔法回路」と呼んだりしているが、あまり共通で定着した呼び名はなかった。もしかしたら、その解明がまだ済んでいないため、世の常識としては正式に認められていないものなのかもしれない。
連国連盟が管轄する国々の人口がどれほどのものなのかは情報が公開されていないので不明だが、ある本では「世界の人口の中で魔法が使用できる数は1割程度」という記述もあった。その本自体が個人出版である上に情報元の明記もない、かつ10年前のものでもあったことから、あまり信憑性はないのだが、それを信用すると仮定すると、その学者たちが語る「イメージ」とは1割程度の人間しか味わったことのない感覚だ。確かにそんな一部の人間にしか理解できない感覚を、それを知らない9割の人たちが「理解して認める」ことは難しいのかもしれない。それが未だ、正式に認められていない要因でもあるのだろう。まあ蓋を開けてみると実は「人口の半分は魔法使いでした~」という現実があった際は、また他に何かしらの理由があるのかもしれないが。
とにもかくも、イメージだ。
そのイメージは具体的に言葉では形容しがたいもので、ただ言いやすいという理由でリーテシアもイメージ、という表現で理解している。図書館の本を読んで、魔法という概念を知ってから、そのイメージというのは誰に教わることもなく、自然と扱うことができた。これが素養、ということなのだろう。
魔法を使おうと判断する際、彼女自身の脳裏にそのイメージが自然と浮かび上がる。イメージとは光の粒のようなものだ。そしてその光の粒が魔法の元素なのだろう。最初はその光が目的もなく浮遊しているのだが、光の粒はやがて魔法師の意志により収束・拡散し、使用したいと思った魔法に因んだ光景を脳裏に映し出す。
時に髪をなびかせるほどの風であり、
時に周囲を燃やす炎であり、
時に地を隆起させる大地である。
彼女が魔法をイメージした結果、浮かび上がる情景はその3種類が主である。
風、炎、地。
そのいずれかの光景を「視た」後、行使しようとすると例の魔法陣が現実に浮かび上がる。
そして魔法陣が完成されるまで、そのイメージを切らさず思い浮かべる。
すると魔法陣が完成したとたん、それは弾け、魔法が発動するのだ。
魔法は正六角形を基本とし、その6つの辺に付随する正三角形の位置がそれぞれの属性を意味している。
上が「炎」
左上が「風」
左下が「水」
下が「雷」
右上が「地」
そして右下が――ここだけは謎とされてる。未だ誰もイメージし、実現できたことのない属性らしい。
そしてこの属性は一度に複数使用することはできないとされている。
ようは「大地を焼き尽くす炎」を連想しても、炎と地の複合した魔法は使えない。その場合はたいてい魔法は発動しないか、イメージの強かった方が発動する。
故にこの魔法陣は常に歪で、図形として不完全な形でしか生成されない。
もしこの魔法陣を六芒星として完成させて、魔法を発動させたのであれば・・・、いったいどんな魔法が姿を現すのか。想像もつかない話だ。
さて、魔法を発動させるまでのプロセスはこのようなものだが、問題はその回数である。
ローファン王国の王室魔法師が著者となっている本には、魔法に回数制限はある、とのことだ。
ただ明確なルールは解明されておらず、個人差に依るところである、との結論でしかなかった。その回数も人によっては翌日には同じ回数を放てたり、普段十数回は放てる人も翌日は1回しか放てなかったり、まちまちであるそうだ。その時の体調にも影響があるらしく、風邪をひいた魔法師に魔法を打たせてみたところ、上手くイメージができずに不発に終わったり、普段の何分の一程度にしか放てなかったり、基本悪い結果にしかならないらしい。
回数制限。
これがリーテシアには分からない。
何故なら、放てなくなるまで放った経験がないからだ。
だから計算もできない。
また放てなくなった時に脱力感があるのか、あるいは何の前触れもなく放てなくなるのか。そういった特殊な感覚があるのかどうかさえ不透明だ。
この不安要素は非常に痛い。
この間、ラミーに対し2発目の風魔法を放てそうな感覚は残っているので、おそらく2発はいける、はず。
ただその後は――?
(お腹痛い・・・)
青ざめた表情を彩るかのように、頬に汗が数滴流れ落ちていく。その汗の通り道をイラついたように手の甲で拭った。
幼い思考で考え付く現状の留意点は次のとおりだった。
・魔法は信用しすぎると危険。
・ラミーを心の底から呪詛を吐きつつ、後でしばき倒す。
・国への不安感。
国。
リーテシアは常々国に漠然と不安を抱えている。
(やっぱり・・・ダメだよ・・・)
今回のことで、その不安が少し型を成してきた気がした。
靄のような、正体がつかめない不安。図書館には当然、この国の「当然の歴史」しか綴られていない書籍しか存在しない。だから国の実態は自分の目で確かめていくしかないのだが、その見解に今日の出来事は新たな1ページを追加してくれた。
もし。
もし、生きてこの現状を打開できたのであれば。
「先ほど手に入れた情報」を一考するのもアリなのかもしれない。
そうリーテシアは岩に背を預け、深く決意した。
決意。
決意はともかく。未来への不安もともかく。
何よりも帰りたい。その願いが今は一番強い感情であった。
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話は5時間前に遡る。
今日は配給日。
他国からの支援物資が国に届き、その物資を国に住まう国民に配給する日である。
この日は国民は何をおいても配給を優先するため、基本仕事は休みなことが多い。特に店を出しているところは重要な物資の補充ということもあり、まだ日が昇らない早朝から既に国が定めた配給所の前で大型の荷車を幾つも携えて待機しているぐらいだ。配給は午後からだというのに、何とも気合の入ったことである。
基本、配給は順番性ではあるが、早い者勝ちで買い占めることができるものでもない。
当然だ。
国民すべての命にかかわっている貴重な物資なのだから。
そのため早く配給所に来たとしても、その配給量が増えるわけではない。では早く来る理由は何なのか。彼ら店を構える商人たちは、配給物をもらえば終わり、というわけではなく、店に戻ってそれらを並べたり、在庫を整理したりやることが多くある。午後になれば配給を求める国民でこの場はごった返し、遅い者であれば夜に差し掛かる場合もある。そういった時間のロスが彼ら商人にとっては替えがたい損失なのだろう。
この配給方法だが、あまりにお粗末である。
国民が自らの足で配給を受け取りに行くのだが、一週間分の食料なのだ。それなりに量がある。それを持ち運ぶには荷車が必要である。荷車は当然、場所をとる。結果的に配給所から道なりに、順番待ちの行列は長蛇の列をつくることになる。さすがに国の端である端っこ孤児院まで列が続くことはないが、それでも数キロにわたる列である。
もう長年にわたる習慣のせいか、配給所でものを受け取ったものが帰れるよう、帰り道ルートはしっかりと確保した列を作るのが国民の癖となっていた。王室含む国家機構は、アイリ王国敷地内でいう山岳側の一番奥にある王城となる。そこの玄関口付近が配給所となるのだが、そこを起点に東側が長蛇の列。西側がお帰り道ルート、という構成になっていた。
しかし、ここは砂漠の国。
頻繁にやってくるフール等の砂嵐はそんな人間の事情など知ったことではない。
当然、過去に何度かフールにより配給が中断したこともある。ここで何とも酷いのが、配給所を任されている配給役は一目散に城内に逃げ込むのに対し、荷車で身動きが取れない長蛇の列を作った国民は逃げ場が存在しない。だいたいは荷台に隠れ、荷物を覆い隠すための布で何とか難を凌ぐしか方法はないのだが、凶悪な砂嵐は荷車ごと吹き飛ばす威力を持つことも多い。言わずもがな、過去に怪我人はおろか死人を出すこともあった。それでも反乱を起こさないほど人生に疲弊してしまっている国民は、もはや悲哀を超えて、どう表現して良いかわからない。
そんな国民だが、実力行使による抗議はしないにしろ、もちろん黙ったままではいられない。
以前、ある商人が国に対して「できれば配給を国から各家に届ける方法に変えてほしい」と進言したことがある。
それに対する国の回答は「ごめん、それするための人数いないから無理(意訳)」である。
商人は「あ、そっすか・・・(意訳)」と仮初の納得を返すほかなかった。
国民も「あー、人がいないなら仕方ないよねー(棒読み)」と心有らずの言葉を端々にするほかなかった。
さすがにこの時には王城に反旗を掲げて争った国民もいたそうだが、しかしまばらな人数で体力も落ちた国民は、王城抱えの衛兵に討伐され、あえなく墓の下に行かれてしまった。
腐っても国、なのだ。
戦えば、勝てる見込みはほぼない。
これが国家間同士の戦争であれば何の手応えもなく沈むのだろうが、国内においては国民が国に対して抗う術はないといっても良い。
であれば他国に逃げ込む、などの逃げ道もありそうなものだが、それを阻むのは連国連盟が加盟国に課した1つの条例だった。
祖国終生令。
国は民のために尽力をつくす代わりに、民は祖国でその生を全うすべし。
この条例は、国がそこにある限り、そこで生まれた国民はその国で一生を過ごすべき、というものだ。端的に言ってしまえば「容易に移住は認めない」という意味である。例外としては、財政事情等により国そのものがなくなったり、天災などで国内が住める場所ではなくなったりした際は連国連盟の決議のもと、移住対応を各国と連携して行うことになっている。また国単位ではなく国民単位であったとしても、公的に見てやむを得ない事情があったとし、受け入れ側の国がそれを承諾した場合にのみ許されている。この場合に厄介なのが「上納金」である。上納金とは、移住する際に移住民が受け入れ側の国に納める金のことだ。受け入れ側の判断だけで移住を許可してしまうと、あまりに移住のハードルが低すぎる上、ちょっとしたことでも移住が横行してしまう危険性があり、これは国家間のバランスを乱す要因になると連盟側で判断し、設定した条件である。この上納金は、連盟により「その国の平均収入の50倍の額」を最低ラインとしているため、容易に飛び越えられる条件ではないのだ。お金も気力も体力もないアイリ王国の国民がそのハードルをよじ登れるわけもなく、諦めるほかないのが昨今の世事情である。
しかし、この祖国終生令。
アイリ王国とライル帝国間における子供の受け渡しに関しては、例外として容認されている。
つまりは連国連盟のさじ加減で如何様にもなる、ということを暗に指している事例でもあったのだった。
そんなこんなで今日も厳しい砂漠の国の一日が幕を開けようとしている。
例にもれず、我が端っこ孤児院も休養日。
配給を受け取りに行くのはレジンが行くことになっている。
子供たちも手伝う意志を伝えたことはあったが、レジンが頑なに許していない。過去に何度もフールによる被害が出ている配給なのだ。そんな危険な列に子供を連れていけるわけがない、というのがレジンの想いである。
そのため、子供たちには配給に使用する荷車の準備をお願いするのが通例となっている。
午後の配給の準備のため、子供たちが荷車を玄関先に移動し、車軸にオイルを塗ったりなどしている。オイル作業をしている子供は、まるで墨を滅茶苦茶にかけられたような黒ずんだ布を付け合わせたような服で全身を包んでいる。軍手などはもう白地が見えないほど汚れている。レジン特製の使い捨て用の服である。オイル作業は思いの他、服や手を汚す作業である。そして水が圧倒的に少ないこの地では風呂事情も厳しい。
端っこ孤児院では、女は週2回、男は週1回で風呂に入るようにしている。
そんな水不足の中、たかだかオイル作業のせいで風呂に入る回数は増やしたくない、という心積もりからこの使い捨て服が生まれた。全身を覆いつくすこの服は、もう遠慮なく汚していい。洗濯もしない。もうどうにもならないぐらい汚れたら新しいのを用意するが、それまではこれを使用する。それがレジンの方針である。
因みにこの服、非常に汗臭い。
その上、オイル臭いし、他にも色々なものが発酵したのか酸っぱい臭いがする。匂い、ではなく臭い、である。
その条件がそろったとき、不思議と女の子はその作業役外されていく。実に不思議なものだった。誰が言うのでもなく自然とそういう流れができるのだ。
そして今日の配給日のオイル当番は、ラミーだった。
ラミーは唯一、その男専用の仕事、という慣習に異議を唱えている猛者でもあった。
やれ不平等だの、やれ納得いかないだの。
具体的な批判内容や提案なく、抽象的な文句ばかりでるのは年相応に感じた。
そんなラミーがようやくオイル作業を終え、来ていた使い捨て服を部屋の隅に隔離された籠に乱暴に投げ捨て、ずんずんと室内を歩いていく。
向かう先はサジだった。
まあいつも通り、今日はなにして遊ぶ?といった内容を話しているのだろう、とリーテシアは窓辺の椅子に腰かけながら、その風景を横目に見て思った。さて、そんなことより一週間に一度しかない休養日だ。今日なにをするかを自分の中でスケジュールを立てるのが最優先だ。
(今日は配給日。だいたい図書館に新しい本が来るのは午後の四時ぐらいだから・・・三時ぐらいに出ようっかな)
スケジュールを立てる、といっても結局はいつも通りの選択肢に落ち着く。
シーフェも休養日はリーテシアが図書館に行くことを知っているため、午後は特に遊びに誘ってこない。その分、午前中には色々なお誘いをしてくれるのだが、今日はシーフェでなく、予想外の人物からお誘いがくるのだった。
「おい、黒髪」
「・・・・・・・・・」
本当に予想外だった。
話しかけてきたのはラミーだった。
相も変わらず、太々しい表情に感じる。
そう感じるのはリーテシアの私情も無関係ではないのだろうが、彼の場合、普段の言動や行動が荒っぽいのが一番の原因なので、そう見えるのも自業自得である。
「・・・なに?」
若干、警戒する。
何の本を見よう、どんな本が来るのだろうか、と少し浮かれていた心に水を差された気がしたので、リーテシアも少し声が低くなる。
あといい加減、黒髪、という呼び方もやめてほしいと節に願う。
「お前、今日・・・えーと・・・あれだ」
「・・・どれ?」
「だから、あれだって! お前、あーっ、わっかんねーかなぁ?」
分かるわけもない。
あまりの無茶ぶりな話にリーテシアも眉を不愉快気にひそめた。
「ラミー、悪いけど俺もそれじゃ分からんわー。リーテ、ラミーは今日、暇かってことをいーてぇーんだってさ」
サジがラミーの後ろから歩いてきて、そう言う。
どうやら先ほど二人で話していた内容に関係がありそうだ。
「あー、ごめん・・・今日は午後に図書館に行きたいから・・・」
「あー、大丈夫。それまでにはおわっから」
しまった、と思った。
「午後」という言葉を使わずに「今日一日」という言葉を使うべきだった。
「どーせ夕方ぐらいまで今日の本は増えねーだろ? つまりそれまで暇、ってことだな!」
なぜラミーに暇と決めつけられないといけないのか。
最も暇なのは間違いないのだが。
彼と休日を何かしらの形で過ごすというのであれば、微塵の迷いもなくシーフェと遊ぶ道を選ぶ。
リーテシアはふぅ、と息を吐きつつ肩にかかった黒髪を払う。
「ごめんなさい、私、午前中は他の用事があって」
「なに? なにがあんの? それって俺の話より大事なんか」
「ええ、ちょっと・・・」
「ちょっと?」
参った。
思いのほか粘って聞き返してくる。
サジはラミーに交渉役を任せているのか、ラミーが話すのを見ているだけだ。
他の子たちも何事かとこちらに視線を向けてくる。
シーフェに至っては何を応援しているのか、頑張れ、と両手を握って胸の前で揺らし、謎のエールを送ってくる。
非常に居心地が悪くなってきた。
何か良い言い訳はないか。
幾つか案は出たが、どれも言い訳としては弱い印象を感じた。
男連中の遊びなんて、決まって乱暴な遊びが多い。室内組の男子もいて、そちらはそちらで既に出来上がったコミュニティ同士で遊ぶことが多いため、どんな遊びをしているのか興味もあるし、誘われれば参加してみてもいいかな、と思う。しかし、この外出組の男子とは絶対に遊びには加わりたくない。昨日の箒チャンバラの二の舞になるのが目に見えている。
回避できる言い訳を思いつかなくては・・・。
しかし一体、どういうつもりなのだろうか。
普段なら、絶対に女子に誘いなんかかけないラミーらが、今日はやけに真剣にリーテシアに誘いをかけてきた。何か特別な事情があるのかもしれない。
そういう意味では若干、興味を惹かれる心境もあったが、間違いなくリスクの面が大きく降りかかってくるという根拠のない自信もある。ラミーは向こう見ずな性格だ。物事の良し悪しは遥か遠くに置いておいて、とにかく自分の欲求に忠実に行動する。その結果、毎度レジンの雷をうけるわけだ。考えずに行動した結果、毎度レジンの雷を受ける。つまり行動すれば悪いことが起こる。根拠のない自信、と言ったが、思いのほか根強い根拠があったものだ。
考えがどうでも良い方向に行きかけたため、リーテシアはふと思いついた言い訳を口にすることで、頭の中をリセットすることにした。
「えっと、今日ね。配給日ってこともあって他の国からの支援隊の人もくるじゃない? 前に見た本にその支援隊のことも書かれてたから、ちょっと興味が出て、実際に見てみたくて・・・それでちょっと出かけようかな~なんて?」
少しどもってしまったが、ラミーをかわすには十分な言い訳のようにも思えた。
ラミーも「んん?」と少し頭を傾げた後、「おお!」と声を上げた。彼の中でどういう情報の整理と理解があったかは分からないが、何かしらの解釈はあったらしい。
「よし! なら行くぞ!」
「へっ?」
我ながら実に間抜けな声が出た。
彼は何やら得心が行ったようだが、こちらは全く理解できなかった。
「お前、あれだ。なんだっけ? 支援なんちゃらが見たいんだろ? それだったら丁度いいぜ!」
何故、支援隊の「隊」を「なんちゃら」に変換してしまったのか。文字数的に「隊」の方が短いし、忘れるほどの言葉でもないのにだ。
そんな意味のないことを考えるほど、リーテシアは動揺している。
「なんだぁ、意外と気が合うんじゃね、俺ら!」
そんなことは絶対にない、と言葉にする前に、ラミーはサジと話を始めてしまい、いつの間にかリーテシアも一緒に行動することが決まってしまった空気になっていた。
この空気になってから断るのは中々容易ではない。
悶々とした心情はあるものの、リーテシアは諦めをため息に乗せて吐き出した。
いったい、何をするというのか。
ラミーとサジに促されるまま、端っこ孤児院の出入り口を抜けて連れ出される。
願わくば。
願わくば、レジン院長のお怒りに触れませんように。
そんな儚い願いは微塵もなく、後に粉砕されることとなる。
仕事が終わり、ようやく執筆できる土日に突入して、いざ見てみますと・・・!
なんと総合評価にポイントが!
まだまだ未熟な文章力ですが、評価をいただいたことは非常に嬉しいです!
また、平日は中々更新できず申し訳ありませんm( _ _ )m
引き続き、少しでも面白いと思っていただけるものが書ければと思います。
今後とも宜しくお願いします。