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テトラ・ワールド  作者: シンG
第1章 建国~砂漠の国~
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第2話 アイリ王国の実情 その1

砂漠。

(ひとえ)に言っても、砂漠には色々と種類がある。

基本どこも乾燥地域ということには変わりないが、砂・土・石・岩石など、様々な砂漠の成分が地域によって存在する。そういった環境は気候等に左右されるのだろう。

ここアイリ王国は世界の4分の1を埋める広大な砂漠に面した珍しい国である。

非常に空気が乾燥しており、また一週間に一度はフールと呼ばれる砂嵐に見舞われるため、この砂漠地帯の成分は当然「砂」だった。乾燥と嵐に削られ、もはや手のひら大の石すら見つけるのが容易でないほど、固形物は粉々に砕かれていた。


アイリ王国。

言ってしまえば、この国はすでに国としての機能を失いつつある。

もう失う結果は決まっていて、そこに向かう道中が今、といっても過言ではないかもしれない。


では、この国の実情を少し整理してみよう。



************************************



まず一番の問題は環境。

一応の二層の防壁で国を囲っているため、砂漠に住む大型魔獣から身を守ることはできる。

が、あくまでそれだけで、この気候に防壁は何の力も発揮しない。せいぜい国土に入り込む砂の量を軽減できるぐらいだろうか。


この環境は人という種が住むには、あまりに適さない環境である。

1日2日程度ならば問題はさほどないだろう。それがこの地に住む、という話になれば別だ。

常に脱水の危険性にさらされながら生きていくというのは、それこそ大きなストレスになる。

また、その環境に耐えてきた結果、蓄積した疲労などにより徐々に体調に異常を来たし、「乾燥肌」などの慢性的疾患の発症という形で姿を現す。乾燥肌はほぼ国民全員が抱える症状だが、そこから免疫力が低下した者は重度の内臓疾患や皮膚疾患などを罹患(りかん)し、最後には死に至る。

この国の平均寿命は他各国に比べると、10歳ほど短い。そして年々、その傾向は悪化し続けている。

これは連国連盟という、この大陸の20ヵ国が加盟する組織で集計された統計情報の一つだ。

国のイメージがどう考えてもマイナスにしかならない情報を、アイリ国王がどんな心境で出したのか。心中お察しする限りである。もっともこのような環境下でまだ国を存続させようと考え、その結果、多くの民が苦しんでいる惨状を考慮すると、とても国王を擁護しようとは思えないというのも1つの真実である。


環境の問題は国民の健康状態にとどまるものではない。

乾燥地域による風化と、砂嵐による破壊。

それは人から労働意欲を消し去るに十分なものだった。

外に出れば、砂の(つぶて)が襲い掛かり、

乾燥による体力の消費は、甘く見れるものではない。

そういった生活を繰り返すうちに、国民は心身共に疲弊していき、体の故障などを訴えて、自宅に引きこもる国民は少なくない。

王室もその現状はよく把握しているうえで、現状打つ手がないため、何もできない。

下手にモノを言えば、燻っている国民の心に火をつける結果になりかねない。弱っている国民にその元気があるとも思えないが、王室はどちらがリスクが高いかを秤にかけた結果がそれである。

まさに負のサイクルが絶好調に回転しているのが、この国の現状であった。



次の問題は食糧。

これも環境問題に負けず劣らず絶望的である。


まず生きる上で必需品となる「水」がない。

かろうじて国領地の内部に砂漠以外の川があり、基本はそこから水を補給することで何とか水不足を凌いでいる状態だ。凌いでいる、というのはあくまで国の建前で、実際は川の水程度で全国民に配給できるほどの水を確保できるわけもなく、本来の国民一人が使用する水の量の5%にも満たないのが実情だ。

その唯一の水源であるセーレンス川の上流と下流は他国の領地のため、川すべてを自由にしていいわけではない。セーレンス川は緩やかなカーブを描くような全様になっており、そのカーブ地点がちょうどアイリ王国の領地に入っている。つまり川に対して何かしらの動きをする際は、上流と下流に国家間レベルで気を遣わなくてはならない、ということだ。

そういった国家間の問題も足かせとなっている。

本音を言えば『川の水、全部ほしい』だが、それを強行した際は、上流と下流を領土とする国に侵攻され、国の寿命が早めに終わる結果となるのだろう。


また、川の位置もアイリ王国にとっては辛いものがあった。

国を挟んで、砂漠と逆方向に位置するのだが、その距離がなんとも遠い。

遠い、というのは平面地図上での距離ではなく、実際に人がそこにたどり着くまでの時間を想定した言い回しである。

その理由は山、だった。

この国に住む者は皆言うだろう。(実際に愚痴の一つとして言われている)


「なぜこんな立地に国を建てたのか」


と。

砂漠と山に囲まれたアイリ王国。

そして唯一の水源へと至る道は、その山を越えることだけであった。

さらにその山は緑生い茂る山ではなく、度重なるフールに削られ、風化した死の山と化していた。

当然、道らしい道は遥か昔に砂嵐の猛威の前に姿を消し、食用となる動植物もいなくなった。

ただただ邪魔なだけの山岳地帯。

そこを超えて、ようやくセーレンス川の中流にたどり着ける。

往路だけでも長い旅になるのに、さらに復路では水を貯蔵したタンクを()きながら戻ってこなくてはならない。今のところ、道中に問題が起きなければ一週間程度で往復できている。その道中の問題がかなりの高確率で起こっているのだが、それはまた別の機会に語ることになるだろう。

アイリ王国では、この役割を果たす役人のことを『水牽き役』と呼ぶ。国のライフラインを支える重要な役目であり、本来であれば国民として誇り高く思うべきなのかもしれないが・・・水牽き役の者らは、例外なく死んだ魚のような目をしていて、喜々として職務を全うしている者はいないそうだ。

水牽きの道中がいかなるものか、彼らは身を挺して国民に知らせているのかもしれない。


そして人の滋養の源となる、肉と野菜。

人が自給自足が可能となる生活圏の中に、それがあるか言えば、

まったく、無い。

これっぽちも、無い。

採れない、ではなく、無い。

無いのである。

有るのは、鉄製の剣でも傷をつけるのが億劫なほど強固なゴム質の体皮で身を包んだ、砂漠魔獣のワームという巨大芋虫ぐらいである。もっとも討伐するのに、大の大人が20人いたところで太刀打ちできない相手でもあるが。

他にもとても食用にできない節足動物ばかり。

生活圏内には、すでに人が食すことのできる生態系は存在していなかった。


もっともセーレンス川のほとりまで行けば、木々や草木が茂っているため、それなりの狩猟や採取は可能だが、水と異なる点と言えば、あまり保存が効かない、ということだった。

干し肉等に加工すればある程度の保存期間は稼げるが、果たして国民全員の最低限の食事サイクルを賄えるほどの供給が可能かと言えば、否、である。

干し肉にするならば当然干す時間は必要だ。しかし、その間、人が空腹を我慢できるかと言えば、そうもいかない。

しかし往復に一週間かかるセーレンス川間の旅路に加え、水も運んでこないといけない。その上、狩猟・採取もよろしく、となれば流石の水牽き役も目に光が宿るのではないだろうか。殺意で。

さすがの王室もその未来が見えてしまったため、水牽き役には食料調達は依頼できず、他に調達部隊を配置する(人員不足で実現したことはほぼ無い)か、他国からの支援に頼らざるを得なかった。


結局のところ、アイリ王国の食事事情を支えているのは、定期的に来る他国支援の国家配達員か、物好きな行商から保存の効く食料をまとめ買いして、何とか今を生きているのである。




問題しか存在しない国のため、すべての問題を列挙すれば留まることを知らないだろう。

そんな中で大きくグルーピングするとしたら、環境と食糧。そして次が最後の問題と言えるのかもしれない。

外交と資源。そして財政と負債。

最後といいつつ、4つの要因が混ざってしまったが、総じて「経済」といったところか。


国は広大な国土と、その土地から採取できる資源の質や量によって、大きく繁栄できるかどうかが左右されるものだ。

その2つの要素が大きくなればなるほど、他国に頼るケースも少なくなり、さらに他国との外交も有利に推し進められる。逆にその要素が小さい国ほど、外交は後手に回り、不利な条件も飲まざるをえないことも多々出てくるだろう。

もっとも技術力を外交の交渉材料とする小国もあるため、その限りではないが、アドバンテージとして最もシンプルかつ強力なものがそれらである。


国とは1つでは成り立たないものである。

他国との外交は、自国にない物資などを取り入れるほか、技術や文化の発展につながる。もちろん、場合によっては争いなどのデメリットに繋がるケースもあるが、そこは国の要職たちの力の見せどころでもある。

自国の強みは何か。

自国に必要なものは何か。

他国には何があるのか。

他国が欲しているものは何か。

それらの費用対効果はいかほどのものか。

そして、国を維持するため、豊かにするための最善のバランスはどこか。

そういった大枠から国にとって有益とは何かを考え、数多ある条件を絞り込んでいった末に外交へと臨む。

当然、理想通りに事が進むことなんて稀だ。

折り合いがつかないことだらけで、何度も外交を繰り返す。

諦めずに、辛抱強く、ただし妥協は許さず。

その先に、互いに落ち着くラインを確立させ、今の安定した国家間の関係が出来上がるわけだ。



では、アイリ王国はどうだろうか。



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