誰かの願いが叶うころ その6
すべてのオーディションが終わって、俺たちは食堂に集まった。
「うーん、一応枠は埋まりそうか……」
「だな! オーディションだけでも結構楽しかったぞ!」
「演者の方は一安心って感じだな。あとはステージを上手く作れるかだ……」
雑談をしながらエントリーシートを整理していると、食堂に誰かが入ってきた。
「あの土佐君」
「あ、ナギちゃ……」
ナギちゃんの背後には、軽音部の後輩……木下のバンドでドラムをやっている真鍋もいた。
「どこにいるか教えてほしいって聞かれたから、連れてきたんだけど……」
「……ああ、うん」
「よし、作業は私に任せておけ」
ナユタは机の上の書類をまとめて立ち上がると、
「ナギ、今読んでる本でちょっとわからない表現があるんだが――」
ナギちゃんを連れて食堂を出ていってしまった。
「……お久しぶりっす」
「……ああ。座ったら?」
「あ、いや。一言言いたかっただけなんで。……色々と、すいませんでした」
そう言って、真鍋は頭を下げた。
「いや、お前が謝ることじゃ……むしろ巻き込んだのは俺の方だから」
「まぁその、自分だけじゃなくて軽音部全体を代表してというか……勝手になんですけど」
「代表して?」
真鍋は静かに頷く。
「木下先輩も、悪いとは思ってるはずなんです。まさか学校を辞めるほど先輩を追い詰めてたとは思わなくて……。だけど木下先輩ああいう性格だから、上げた拳を下ろせずにいるというか……」
「いや、悪いのは俺だよ……自分のことしか考えてなかった」
「じゃあ、この件はお互い様ってことですかね……」
「ああ、そういうことにしよう。木下にもまたちゃんと謝るよ」
俺が微笑むと、真鍋の緊張した表情も少し緩んだ。
「木下先輩、めちゃめちゃ上手くなったと思いませんか」
「……ああ、思ったよ」
「土佐先輩が俺たちをバンドに誘ったあたりから、めちゃめちゃ練習したみたいです。やっぱり悔しかったんじゃないですかね。今じゃ部で一番上手いですよ」
「そっか。……俺も頑張らなきゃな」
「土佐先輩も出るんですよね、ステージ」
「まあ、一応」
「楽しみにしてますよ。それじゃ、失礼します」
真鍋は律儀に一礼して、食堂を出ていった。
「ふう……」
一息ついて、俺は鞄を手に立ち上がった。
食堂を出て歩いていこうとしたが、気配を感じて立ち止まる。
振り向くと、食堂の入口の死角にナユタとナギちゃんが縮こまっていた。
「お、おう土佐ケン。奇遇だな」
「ごめん土佐君……」
俺は足早にナユタの元へ歩いていき、
「ふわあ~やめお~」
ほっぺむにむにの刑に処した。




