誰かの願いが叶うころ その3
第一回実行委員会が終わり、解散となった。
しかし、俺たち五人はまだ生徒会室に残っていた。
「で、榊さんにお願いがあるんですが」
「わかっているとも。出店の協力だろう」
「さ、さすが社長……。スーパーに入ってる食べ物屋さんやビアガーデンに、出店をお願いしたいんです」
「任せたまえ。ビジネスとしても歓迎だ。保健所への申請もこちらで行うよ」
普段はただの変態でも、こういう時は心強い。
「私はどうする! なにをすればいい!」
「ナユタは俺と一緒に別の仕事だ」
「なんだなんだ、なにをするのだ?」
「市にイベント開催の申請をする」
・・
翌日、俺たちは学校を休んで市役所へとやってきた。
「あの、イベント開催の申請をしたいんですが」
「あ、はあ。少々お待ちください」
職員の人は俺たちの若さに驚いたようだったが、担当の人を呼んできてくれた。
そのまま応接室へと案内される。
「あ、君は確か……えーと、なんでしたっけ。なんとか学園」
「謳歌学園です。その節はお世話になりました」
ナユタ営業モード。
「あ、そうそう。謳歌学園の届け出をした時に会ってますね。今度はなにをするんですか?」
「はい。学園の敷地を利用して、お祭りのようなものを開催しようと思っていまして」
「あー、そういうことですか。ちょっとお待ちください」
担当者さんは持っていたファイルから数枚の紙を取り出して、テーブルの上に置いた。
「こちらの書類に記入して提出してください。その上で近隣の方を招いた説明会を開き、場合によっては近隣住民との協議会を設ける必要があります。協議完了すれば、出店を許可できますよ」
「……謳歌学園設立時と同じですね。わかりました」
「あ、ありがとうございます」
俺はナユタの対応に呆気にとられつつも、なんとか挨拶だけはした。
・・
駅までの道を歩きながら、ちらっと横を見る。ナユタは若干険しい顔をしていた。
「どうした?」
「いや……協議会にはあまり良い思い出がなくてな……」
「揉めたのか?」
「ああ……それもかなりねちっこくな」
「うへえ……まあ、覚悟しておくよ」
そう言うと、ナユタは「へへへー」と笑った。へへへーって。相変わらずのアニメみたいな言動だ。
「それにしても凄いよな。大人相手にあれだけハキハキ対応できるんだから」
「んー? そうでもないぞ。ただ演技しているだけだからな」
「え、演技?」
「言っただろう、私はアニメによって育てられたと! 私の日本語のほとんどは、アニメキャラの真似なのだ。だからさっきのきちんとした喋り方も、きちんとした喋り方のアニメキャラの真似をしているだけなのだよ」
「じゃあその、やたら偉そうな口調もそうなのか?」
「そうだな! ただ気に入っているだけだ! 私本来の性格というのは、母国語でしかわかるまい」
「なるほど……」
ナユタはいつも通り活き活きと隣を歩く。
だけどまだ、俺は本当のナユタを知らないのか。
なぜか少し寂しい気がした。




