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誰かの願いが叶うころ その1

「おーい、まだか土佐ケン!」

「先行ってろってば!」

「やなこった!」

「なんでだよ……」


 俺は鞄から封筒を取り出し、ポストに投函する。それからなんの意味もないかもしれないが、一応手を合わせておいた。

 それから、少し先で待つナユタの元へ駆け寄る。


「すまん」

「なにを出したのだ?」

「秘密」

「なんだとー!」


 隣でナユタがぷんすか文句を垂れているが、無視して学校へ急ごう。休み明け初日から遅刻は良くない。

 夏休みはあっという間に終わってしまった。思い出と呼べるのは合宿くらいなもので、そのあとはすぐに高認試験があったり、バイトで忙しかったりで、青春っぽいことはあまりできなかった。

 ちなみに試験がどうだったかと言うと、思った以上に簡単で、俺もナギちゃんも無事合格できそうだ。

 とはいえ、安心はできない。本当に大事なのはここからで、大学や専門学校に行くのか、それとも就職を目指すか。そしてもう一つ選択肢を増やすべく、さっきの封筒をポストに入れたわけである。


    ・・


「おは……ええ……」


 教室がざわめき立っている。なぜか。


「おはよう」


 俺の席のうしろに、真っ黒に焼けた榊さんがいたからだ。おそらく。


「ちょ、どうしたんですか榊さん……しげるじゃないですか……」

「いやあ、社員旅行でグアムに行ってきたんだが、バッチリ焼けてしまってね」

「ひーっ、ひーっ……」


 少し視線を落とすと、笑いが止まらなくてうずくまっているナギちゃんがいた。椅子から転げ落ちるほど面白かったようだ。


「きゃー、かっこいいー」


 南雲さんが大興奮でばしゃばしゃと写メを撮っている。道理でご満悦なわけだ。


「はーい、みんな席についてー」


 と、桜庭先生が教室に入ってきた。俺はナギちゃんをなんとか椅子に座らせて、自分の席に着いた。

 ナギちゃんはなおも机に突っ伏して痙攣していたが、まあ放っておこう……。


「おはようございます。夏休みはどうだったかな?」

「楽しかったぞ!」

「それは良かった。だけど休みは終わったから、一応切り替えていこうね。今日は文化祭の話をします」


 文化祭という言葉が出て、教室に榊さんの時とは違ったざわめきが立つ。ようやく本格的に学校らしく楽しげなイベントがやってくるわけだ。


「ただ、文化祭実現のために重大な問題が発生しています」

「な、なんだと!」


 ナユタが机を叩いて立ち上がる。お前事情知ってるだろうに。


「えー、それがですね……我が校には文化祭実行委員がまだいません……」


「ああー」という声が上がる。そう、最初の委員会決めの際、結局文化祭実行委員の枠は埋まらなかったのだ。


「このままだと文化祭についての決め事が全然できないので、とりあえず文化祭実行委員を何人か決めたいと思います。誰かやりたい人はいますか?」

「はい!」

「採用」


一瞬にしてナユタの実行委員入りが決まる中、教室の面々は顔を見合わせる。やはり面倒な仕事は避けたいのだろうか。


「あの、やります」


 と声を上げたのは、俺だ。


「おお、どうした土佐ケン! 覚醒したのか!」

「文化祭実行委員に立候補した程度で覚醒って安すぎるだろ……」

「じゃあなぜ今になって立候補したんだ?」

「ちょっとやってみたいことができたんだよ」

「ほほう……」


 ナユタが目を輝かせ、立ち上がった。


「私も一枚噛ませてもらおうではないか」

「ふっ……いいだろう」


 俺も立ち上がり、ナユタと堅い握手をした。


「土佐君、キャラ変わってないー?」

「た、確かに……ぶふっ」

「愉快ですな」

「しげるには言われたくない」

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