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迷子の子猫ちゃん、犬のおまわりさん その2

 そして夏休みが始まり。


「……帰ってきてしまった……」


 俺は実家の前にいた。あの時点では来るつもりなど全くなかったのだ。何か結果を出せるまで、もう実家には帰らないつもりでいたくらいだった。だけど……。


「ほー、ここが土佐の家かよ。ぼっちゃんめー」


 ソノカさんが肘で俺を小突いてくる。決して揺るがないはずだった俺の心は、引率として桜庭先生とソノカさんも付いてくるということを知った瞬間にあっさりと陥落した。

 だって普段は授業か放課後の練習くらいしか会う機会のない憧れの人と仲良くなれるかもしれないんだぞ。そう考えると、天秤は大きく傾いてしまった。


「大きい……」

「雰囲気あるねー。写メ撮っておこっと」

「噂には聞いていたが……素晴らしい」


 ナギちゃん、南雲さん、榊さんとそれぞれ感嘆の声を上げるが、実家は実家なのでどうリアクションしたらいいかわからない。

 先に旅館の中に入った桜庭先生を待っていると、見知った顔と一緒に戻ってきた。


「お待ちしておりました」

「長旅ご苦労様です」


 親父と母さんだ。旅館の従業員用の法被姿で丁寧に頭を下げる。


「それじゃ、お世話になる旅館の方へ挨拶をしましょう。よろしくお願いします」


 俺以外の面々がよろしくお願いしますと挨拶をする。なんとも居たたまれない気持ちでいると、今日は妙に大人しかったナユタが一歩前へ出た。


「おじさま、おばさま。お久しぶりです」


 え?


「おお、お嬢様。また少し大きくなられましたか」

「ふふ、成長期ですから」

「それもそうですね。お父様とは連絡を取っていますか?」

「はい。近いうちにまたお邪魔したいと言ってました」

「そうですか。是非に、とお伝えください」

「はい!」


 親父はいつも通りしっかりと対応するのだが、ナユタのやけに上品な態度が気になった。

いやそれよりも、ナユタはここに来たことがあるのか……?


「それでは、中にお入りください」


 親父に促されて、一団はぞろぞろと旅館の中に入っていく。玄関には俺と母さんが残された。


「……ただいま」


 母さんは優しく微笑む。


「ケン。あなたはあなたが稼いだお金で、ここに来たのよね」

「多少学校に負担してもらってるけど、まあ……」

「だったら、あなたも一人のお客様としてお世話させていただきます」


 そう言って、母さんは手を腰の高さで合わせ、頭を下げた。少し気恥ずかしかったけど、


「……よろしくお願いします」


 俺も頭を下げた。


    ・・


 荷物を部屋に置いた後、面々はもう一度ロビーに集められた。先にロビーに戻っていたナユタを見つけて声をかける。


「ナユタ」

「……」


 ナユタはロビーから見える中庭をぼーっと見たまま答えない。


「せい」

「いった! なんだ!」


 デコピンをしてようやく気がついた。


「お前、うちに来たことあるのか?」

「……さてな」


 ナユタは額を押さえたまま、伏し目がちに笑った。なんなんだよもう。


「よーし、みんないるかなー」


 最後に戻ってきた桜庭先生が声をかけて、俺たちは輪を作った。


「じゃ、これからの予定を話すよー。今から自由散策の時間です。周辺を見て回って、お昼ご飯を食べたりしてきてね」

「ちなみに疲れたら部屋でゆっくりしててもいいし、温泉に浸かったりしてもいいぞー。ただし、夕飯までには戻ってくること。それが終わったら練習だ。オーケー?」


 それぞれが肯定の返事を返す。


「よーし、じゃあ行動開始!」


 ソノカさんがパンと手を鳴らして、俺たち五人は旅館を出た。


「さて、どうする?」

「とりあえず、ご飯かな……」


 ナギちゃんが恥ずかしそうにお腹に手を当てる。


「あ、私もお腹空いたー。土佐君の地元だし、美味しいお店教えてよー」

「んー……。南雲さんの口に合うかはわかりませんけど、美味しいそば屋なら近くにありますよ」

「ん? そばってなんだ?」


 ナユタが首を傾げた。


「ナユタそば知らないのか」

「た、多分まだ食べたことない」

「よし。じゃあそば食べに行こう」

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