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修羅場 その2

 それから俺はホワイトボードを使って現状の問題点を解説し、榊さんに非常に感覚的で擬音を沢山使ったアドバイスをもらってから、その日は解散することになった。のだが。


「ねえねえ、これからみんなで遊びに行かない?」


 南雲さんがこんなことを言い出したのだ。


「え、これからですか?」

「私はちょっと……そろそろご飯の時間なので……」


 ナギちゃんが音楽室の時計を見ながら言う。


「じゃあみんなでご飯食べに行こうよ!」


 ん……?


「南雲さん、何かありました?」

「えー? なんでー?」

「いや……」


 なんか、今日はいつにも増してかまってオーラが強い気がする。その上、どこか空元気な感じもする。


「すいません、私はもうお母さんがご飯作ってくれてると思うので……」

「うちもニルスがなー」

「そっかー……」


 その時一瞬だったが、南雲さんが何かを我慢するように下唇を噛んだ。


「じゃあしょうがないね! また明日!」


 南雲さんはすぐにいつもの調子に戻ってそう言うと、自分のトートバッグを持って手を振りながら音楽室を出ていった。

 俺はナユタと顔を見合わせる。


「南雲さん、なんか変だったよな……」

「うむ……」


 ナギちゃんもそれに気づいていたようで、南雲さんが出ていった音楽室の出口を静かに見ている。


「確かに心配だ……。よし、尾行しよう」


 榊さん以外の三人が、ゆっくりと榊さんに視線を送る。冷ややかな視線を。


「……榊さん、それストーカーです」

「何を言う! 君たちとて南雲さんの元気のなさが心配だろう?」

「そりゃそうですけど、他にやり方があるでしょう……」

「ではどうするというのかね」

「直接聞けばいいのではないか?」

「そうですよ。明日聞いてみるのが一番早いですって」

「……本当にそうでしょうか?」


 突然ぞくっとするような声色でナギちゃんが言った。


「ど、どういうこと?」

「もしもですよ……人に言えないような悩みを実はずっと抱えていて、今日の帰り道でそれが爆発してしまったら……」

「し、しまったら?」

「川に身を――」

「尾行だ! 私は尾行するぞ!」


 ナギちゃんにけしかけられた榊さんを止めるのはもう無理そうだった。


    ・・


「なんでお前こんな変装キット持ってるんだよ……」


 俺たちは校内にあった衣装室(間違いなく普通の高校にはないだろう)で変装を済ませていた。


「ふっふっふ、なにかとイベントで使うかと思ってな。桃レンジャーの衣装と一緒に色々買い揃えておいたのだ」

「まあそれはいいよ。百歩譲ってな。しかしお前それ、逆に目立つんじゃないか……」

「えー、いいじゃないか別に!」


 ナユタはアニメに出てくるようなゴスロリ服を身に纏い、黒いレースの日傘を差していた(※もう日は沈んでいる)。

 本場ヨーロッパ生まれであることもあってそれはそれは似合うのだが、サブカルチャーが浸透し始めた今の日本ですら、ゴスロリが街中にいたら浮くだろう。

 ちなみに榊さんはナユタの執事という設定になっている。憎たらしいほどにそれっぽいスーツが似合うが、目立ちまくること請け合いだ。

 俺とナギちゃんは無難な服を選び、眼鏡とマスク、帽子で顔を隠した。


「よし。準備はいいね。急がないと見失ってしまう」


 南雲さんが音楽室を出てからもう三十分は経っている。すでに見失っているのではないか。


「まずは私のスーパーへ行こう」

「え、なぜです?」

「南雲さんはいつも帰りにお惣菜を買っていくのだよ」


 すでに前科持ちだった。


    ・・


「ほ、本当にいた……」


 俺たちは少し離れた棚から、トーテムポールのように顔を覗かせてお惣菜コーナーを見ていた。

 若干買い物客の視線が痛いが、榊さんの予想通り南雲さんはそこにいて、パックで売られているお惣菜を品定めしている。


「むむ、あれはなんだ?」

「うーん……ポテトサラダじゃないかな」


 よく見えるなナギちゃん。

南雲さんはポテトサラダのパックを取って、しばらくそれを見つめていた。

 そして、頬に光るものが伝うのを見た。


「ポテトサラダを見て泣いている……!?」

「ど、どういうことだ土佐ケン……!」

「うがっ。わ、わからん」


 興奮したナユタのヘッドバットを顎に喰らうが、今はツッコミを入れている場合ではない。

 あの南雲さんが泣いているだと――って、


「榊さんストップ……!」


 堂々とお惣菜コーナーに向かおうとする榊さんを引っ張って、棚の陰に連れ戻した。


「と、止めてくれるな!」

「アホなんですか! 今出てったらスト――尾行がバレちゃうでしょ!」

「尾行などもはや関係ない! 南雲さんはきっと、うちのスーパーのポテトサラダのあまりの不味さに涙を流したのだ! 社長として私が謝罪を――」

「そんなわけあるか! お惣菜コーナーの人たちは頑張って作ってるし、めちゃくちゃ美味いよ!」

「そ、そうか。ありがとう」


 いや、あなたを褒めたわけではない。


「でも、なんでポテトサラダを見て泣いてるんだろう……」


 様子を見ていたナギちゃんがもっともな疑問を口にする。どうやらまだ泣いているらしい。


「ちょっと集まって」


 俺の呼びかけで、四人は棚の陰で輪を作った。


「これはもう、本人に訊いてみるしかないんじゃないかな……」

「だな! 回りくどくてめんどくさいしな!」

「しっ、声がでかい! それに回りくどいのは悪くない。いいか、明日さりげなーく南雲さんに悩みがないか聞き出してみよう」

「どうやって聞き出すのだ?」

「それは……ま、任せる」

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