表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/54

スタート その2

 昼休み。


 落ち込んでいても仕方ない。今日は適当にやり過ごして、明日から参考書を自分で持ってきてちゃんと勉強しよう。

 俺は昼飯用の菓子パンとコーヒーの入ったステンレスボトルを鞄から取り出した。


「土佐君」

「ん?」

「良かったらお弁当、一緒に食べない?」


 ナギちゃんがそう言って、机を横に動かし始める。


「いいですとも」


 俺も机を横にして、ナギちゃんの机とくっつけた。この癒しタイムがあるだけで謳歌学園に来た意味がある……そう考えることにする。


「あ、いいなあ。私もー」


 と、ナギちゃんの後ろの席の南雲さんも机をくっつけてきた。露骨にナギちゃんのテンションが下がる。ナギちゃんには申し訳ないけど、正直女の子に囲まれての昼食は悪くない。


「ムフーわたしも……」


 俺の横に変態紳士が加わり、一気にプラスマイナスゼロ。榊さんは一体何度俺の癒しタイムを邪魔すれば気が済むんだ。そしてこの流れだと――


「よっこらせ」


 ナユタが椅子を持ってきて、俺の机に自分の弁当箱を置いた。うん、知ってた。

 いかん。この面子でグループになってしまった気がする。こうなると事あるごとにこの五人が集結することに。


「なんだ土佐ケン、菓子パン一つとは質素だな」

「うるさいな、金が無いんだよ……」

「私の弁当を見よ!」


 そう言ってナユタが広げたのは、卵焼き、タコさんウィンナー等の定番のおかずと、梅干しが真ん中にちょんと乗せられた白米の弁当だった。


「日の丸弁当じゃねーか」

「何が悪い! これこそ日本の定番の弁当であろう!」

「……お前さ、駅での演説の時から思ってたけど、アニメで日本のこと勉強しただろ」


 ナユタが椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がる。


「な、なぜわかった……」

「なんというか、言動がアニメっぽい。その驚き方とかも」

「くっ、バレてしまっては仕方がない……。何を隠そうアニメーションは、私の第三の親と言っても過言ではない! 多忙な両親が家を空けることが多い中、私はアニメによって孤独を乗り越え、アニメによって育てられたのだ!」


 そんな拳握り締めて熱く語らなくても……。


「わかったわかった、とりあえず飯食べよう。腹減った……」


 俺は菓子パンの袋を空け、齧りつく。今日は贅沢にタルタルメンチカツドッグだ。バイトの時の昼飯、たまごドッグより四十円も高い。


「土佐君、本当にそれだけなの?」


 ナギちゃんが心配そうに聞いてくる。


「うん……学費払ってもらってる分、生活費は自分で稼がなきゃいけないから、必要最低限の食事で済まさないと……」


 俺が菓子パンから得るカロリーを噛みしめていると、ナギちゃんが弁当の裏蓋に唐揚げとトマトを載せて、俺の机に置いた。


「え?」

「それだけじゃ体に悪いよ。これ、良かったら食べて」

「え……? いいの……?」

「うん。唐揚げは冷凍のやつだけど……」


 あ、ありがてえ……!

 一人暮らしを始めて二年と少し。俺は食べ物の偉大さが身に染みてわかっていた。

 食べ物というのは冷蔵庫を開ければそこに入っているものではない。お金を出して買わなければいけないのだ。しかも買っただけではいけない。大抵のものは調理しなければ食べることすらできない。

 調理済みのものも売ってはいるが、コンビニの弁当一つ分の金でパスタと適当な具材を買えば、夕食三日分に匹敵する。それを知ってしまった以上、このギリギリの生活でコンビニ弁当ばかり食べるわけにはいかなかった。本来なら菓子パンだって避けるべき出費なのだ。

 弁当を自分で作ればいいという意見もあるだろう。ごもっとも。俺だって一人暮らし始めたての頃は慣れないながらも頑張って自炊していた。しかし一人暮らしとは怖いもので、段々自炊が面倒になってきて、最終的には「死なないくらいの栄養とカロリーを摂取できてればいいや」なんて考えに行きついてしまう。

 その結果が朝飯を抜き、一個百五十円以下の菓子パンで日中を乗り切る今の俺だった……。

 そんな俺に、ナギちゃんは唐揚げをくれるという……! そして多分栄養のことを考えてトマトまで!

 天使。ナギちゃんマジ天使。


「と、土佐君?」

「ありがどう……ありがどう……」


 俺は久々に味わう人の優しさに情けなくも涙が止まらなかった。食べ物を恵んでくれる……それは俺にとって、「もっと生きて」と言われているに等しかった……!


「なんだ、そんなに腹が減っているのなら早く言え!」


 ナユタは卵焼きをナギちゃんの弁当の裏蓋に載せた。


「お、お前……その弁当のメインディッシュの一つであろう卵焼きを……」

「気にすることはない……男の子は今が育ち盛りなんだからな!」

「ナユタ……!」


 この前のナユタの寿司は異常事態過ぎてノーカンだけど、これは素直に嬉しい……!


「わたしもハンバーグあげるー」

「な、南雲さんまで……!」

「今ダイエット中だから、食べて?」


 なんかあざとい。


「土佐君……」

「え、そんな榊さんも……」

「私のおいなりさんとそのハンバーグ、交換しな――」

「いただきまーす!」


 俺はありがたく三人の女神の施しを頂いた。

この作品はシェアード・ワールド小説企画“コロンシリーズ”の一つです。


http://colonseries.jp/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ