第二話 ごきげんよう。また、来世でお会いしましょう
遅くなりましたーーーー!
忙しくなかなか更新できず、すみませんでした。
※誤字脱字があればテキレジお願いいたします><:
真っ白な世界で彼女は髪を靡かせる。
「金糸雀……」
「留生……」
金糸雀は留生に気づき振り向いた。
そして、踊るかのようにかろやかに留生の方へ向かってきた。
遠くもなく近くもない距離まで近づいてきた金糸雀に問いかける。
「ここは?」
「死の世界です」
さらりと返答が来る。
もう一度問う。
「ここは?」
「死の世界です」
当然というばかりにさらりとまた返答が返ってくる。
留生には理解が出来なかった。
自分が死んだということ、そして彼女も死んだのだということを―――。
仮に留生たちが死んだとして、なぜ金糸雀がここの場所を知っているのだろうか?
「なぜこの場所を知っているのか」
「……!?」
「そういう顔をしてますね。顔に出てますから」
「なっ!?」
くすくすと笑う彼女に留生は何とも言えず、むすっとするばかりだ。
「んで、なんで金糸雀がここを知ってるんだ?」
「あらあら、不機嫌ですね」
「茶化すな」
「……。そうですね……そう思ったからでしょうか」
目を細め、視線を下に向ける金糸雀は淡々と告げる。
彼女は何を思ったのだろうか。何を感じたのだろうか。
昔から金糸雀は人とは違っていた。比喩的表現ではない。文字通り人とは違っていた。
性格は置いといて、勉強や運動、何をやらせてもそつなく完璧に熟す彼女は常に誰とも一線を引いていた。もともとあった雰囲気だったのだろうか人を近づけさせない触れさせない――そういうオーラがあった。
それに加え、深窓の令嬢のような儚く人とは思えないような美しい容姿も相まってかより人を近づけにくくしたのだ。
それなのに、義兄である名尋ですら彼女は一線を引いていたが、留生だけは特別だった。
なぜ留生なのかは分らなかったが、それでも彼女は――金糸雀は留生を選んだ。
留生も金糸雀を選んだ。
彼女と一緒に居ると安心した。お互い好きあってたし、まだまだこれからだったというのに―――お互い死んでしまった。
もっとも留生にはこれからというものがなかったのかもしれないが――。
それでも悔しさと情けなさで一杯で複雑な気持ちだった。
「そんな顔をしないでください、留生。ただ……私はきっと死んだらこんな世界なんでしょうと思っただけです」
金糸雀は瑠唯の方を向いて、優しく微笑む。
ここ、こそが金糸雀にとって死の世界を表現したものなのだと気付いた。
死は何もないのだと感じた。
物も思いも感情も人生も自分すらも何もかもないのだ。
嬉しさや悲しさ、苦痛すらない。そう本当に何もないただ真っ白なのだと。
いわば無。だから死の世界だと言ったのだ。
じゃあ、自分の思いは―――金糸雀への気持ちはどうなるのだろうか。
「少し歩きましょうか」
ああと、生返事をする留生。
金糸雀は留生の少し前を歩く。
辺り一面終わりのない真っ白な世界。
当てもなく歩く二人。
金糸雀が歌を口ずさむ。その歌に耳を傾ける留生。
どこまでも透明で透き通るような綺麗な声で歌う歌は、まるでこの世の全てが平和なのだと勘違いさせられる。あるいは一面の草原に穏やかに日差しを浴びながら微睡んでるかのように、彼女の性格とは正反対なくらいどこまでも優しく温かく女神に包まれた歌だった。
恋人たちが愛を語らうように甘く。
それとは正反対に留生たちは甘くない。つかず離れずの距離を保ちながら互いに平行を歩く。今のところ会話もない。
暖かな笑顔を思わせるヒマワリみたいな明るさ。
それとは正反対に金糸雀は儚い表情。
平和を願う乙女のように純粋。
それとは正反対に悪魔のような性格の残酷乙女。
そんな彼女が歌う歌は本当に反比例していた。どこからそんな歌声が出せるのだろうかと不思議に思うくらい素晴らしい歌声だった。そして、残酷だと思った。
彼女の歌声を聴きながら留生は色々なことを思い出した。
名尋たちと出会った時のこと。彼女に初めて言葉を交わしたこと。
名尋たちといろいろな場所に出掛けに行って遊んだこと。あまり学校には通えなかったけど学校のこと。保健室の匂い。
彼女と付き合ったこと。彼女との全ての会話。
そして、自分が体が弱くてあまり長くは生きれないということ。
なんて自分は弱いのだろうか。強くなりたい―――生きたい。死にたくなんてなかった。
そう思うと留生は涙が零れそうだった。
涙を金糸雀には見せまいとしていると、急に歌が止み、
「留生、キスしましょうか」
唐突な彼女の要求に留生は呆気にとられた。
涙がぶっ飛ぶくらいに。
「は?」
「なんですか。その気の抜けた返事は」
「いや、それは……」
「は? でも、いやでもなく。こんな可愛い彼女がキスをしましょうかと言ってるのですよ。それに対しての愛する人の返答を私は求めます」
愛する人―――この場合は留生だ。
「………………」
「したいのですか?したくないのですか?」
本音はしたい。だけどなんで急にそんなことを言い出したのか。
留生は思い切って聞いてみる。
「したい。だけどなんで急に?」
「私には留生と言う彼氏がいます。他にはいません」
「他に居たら困るよ!」
ほかに彼氏が居たら浮気だろう。
「私たちは恋人同士です」
「そうだね」
「一緒に色々と遊びに行きました。まぁ、留生の体調が良かった時だけですが」「うん……」
責められてるような感覚がして胃がきりきりするのは、なぜなのだろうか。
気のせいだと思っておく。
「水族館でデートしたり、動物園にも行きました。夏には名尋の別荘で遊びにも行きました」
そんなこともあったかと留生は思い出す。
名尋の父親は医者で、幼い頃母を亡くし、三年前に金糸雀の母親と再婚した。そして、名尋と金糸雀は義兄妹になった。
金糸雀は名尋のことを兄とは呼ばず、呼び捨てだ。
名尋曰く『あいつにお兄ちゃんって呼ばれると寒気がする』とのこと。
留生と名尋は小学校からの付き合いでよく言えば腐れ縁の幼馴染。悪く言えば悪友だ。
そんな友の経由で金糸雀と知り合った。当初は留生を警戒していた彼女は言葉を介していくうちに打ち解け、お互い好きになり付き合うには時間もかからなかった。
だけど、彼女との付き合いを名尋には言っていなかった。
というよりも名尋は知らないだろう。
表向きは彼女らはお互い興味なくて挨拶すら交わさない。他人行儀な感じだった。名尋には金糸雀と留生は犬猿の仲。それ以下に思われていたに違いない。
とはいえ、死んだ今では名尋のことを気にすることもないだろう。
「お部屋デートもしました」
主に留生の部屋。体調が良い時以外は寝たきりの生活を殆ど繰り返してた留生は家から出ることを許されていなかった。
両親は留生が体調が良い時ですら外に出ることを良しとせず、ずっと部屋に居させた。すぐに体調を崩してしまう体は外に適応されず、碌に学校にも行けなかった。
当然、留生は学校に馴染めるはずもなく、学校に行けば半分以上の授業時間は保健室だった。だが、幸いなことに留生は名尋と知り合い、友達にもなれた。
金糸雀が家に来た時、色々な本をたくさん持ってきてくれたり、歌ってくれたり、踊ってくれたり、その日の出来事の話や柚凪、名尋に対しての愚痴等、色々なことを話してくれた。
留生にとってはそんな些細なことが幸せに思えた。
自分の体のことは自分が一番よく知っていたからだ。
「そうだな……」
としか言いようがなかった。
「それでも、キスという世間一般的な恋人がする睦言はできませんでしたから」「名尋がいたからね」
「ええ、ですからこの機会に……キスしましょうか。誰もここにはいません。勿論、名尋も。ここには私と留生だけ……」
そう彼女は言って、手を留生の頬にそっと添える。
彼女の触れたところから熱が帯びる。
「……か、かなりあ……」
「留生……」
お互いの唇がだんだんと近づく。重なり合わさろうとした時、金糸雀の唇がぴたりと止まった。
「やっぱりやめておきます」
「かなりあ……」
「もしかしたら、神様が見てるかもしれませんから」
そう照れて微笑む金糸雀は誰よりも綺麗で可愛いと思った。
結局死んでも留生たちはキスが出来なかったのだ。
「真っ白な世界というのも味なものですが、初めて同士なんですから、やっぱり場所にもこだわりたいです」
「……そうだなぁ」
「留生には考えがありますか?」
「えぇ!? い、いきなり言われても……金糸雀には考えがあるのか?」
それに死んだ身だから今更かんがえてもなぁ……。
「そうですね~。飛び切りのことを思いつきました」
拙い文章で申し訳ありません。
のろのろ更新ですが、引き続き頑張りますので応援よろしくお願いいたします。