思考停止
皆さんこんにちは。僕は普通の中学生、日椎和真です。本当に普通なんですよ。あの事件が起こるまでは、普通の中学生だったんです。
あ、ごめんなさい。今は普通じゃないです。訂正しますね。まあ、それはどうでもいいことなんですが。
聞いてください。僕に起こったあの事件の話を。いや、事故ですね。一行でおわるので、時間は取らせません。
『僕は車にはねられました』
はい。ごめんなさい。説明足りないですよね。もっとしますか。じゃあしましょう。
『二台の車です。トラックです。思いっきり踏まれました。それでも、けがはしませんでした。けがをしなかった代わりに、人間の心を失いました』
そうなんです。僕にはいま、心がないんです。
笑ってください、どうぞご自由に。そんなことされても何も感じません。だって、ひとじゃないんですから。
人間に戻りたいかって? ありえません。僕はこのままがいいんです。心がないわけじゃありません。ただ、人間のように複雑に物事を捉えることができないだけです。
たとえば、皆さんはそこにお皿が逆さで置いてあったらどう思います?
あ、まだ言わないでくださいね。僕は、お皿だ、としか思えません。だってそうじゃないですか。
はい、ではここで、誰かの答えを聞きましょう。誰がいいかな。決めた。
『千里さん、答えてください』
「あ、お皿だ、何か下にあるのかなって思います」
おお。すごいですね。
僕には、ただあるな、としかわかりませんから。
はあ、もう疲れました。早く僕の話が終わればいいと思う人、手を挙げてください。
あ、何人か挙がりましたね。そうですか、あなたがたは、僕の話が終わればいいと思っているのですね。
そうですか。では、終わりますか。
はい。終わります。さようなら。
……え? さっきのはからかっただけだって? もっと聴きたい、興味深いと……。
では、もう少しだけ話しましょう。今、僕は中学生ですが、両親はいません。はい、いないんです。
なぜかって? 僕が面倒くさくなったんですって。おばさんが言っていました。あの事件が起こった後、二人は僕を捨てて、外国へ行きました。
「あなたのことは、おば様に頼んであるから。安心していいのよ、和真。私たちは、あなたが元通りになったときに、戻ってきますから」
これが、僕のお母さんの最後の言葉です。今は、フランスに行っているんだとか。
これを聴いて、皆さんはどう思いますか? また、誰かに訊いてみますか。
『義人君、お願いします』
「え、俺? ……なんで、大変なことになってる息子をおいて遠いとこに行くんだよ、ちゃんとみててやれよ……、かな」
ありがとうございます。
成程。僕自身はそれほど苦労はしていないんですが、皆さんから見ると、そうでもないんですね。
でも、両親も、理由があってこうしたんです。聞きたいですか? ……では話します。
『僕に一番近い人間が、僕から一年間離れれば、この症状は治る』
から、です。なぜこんな話がでたのかって? 僕にもわかりません。なんででしょう。
まぁ、でも、寂しいとも思わないので、つらくはないです。
「大丈夫?」
何がですか。
「和真、泣いてる」
『僕は泣いていない』
「じゃあ、その頬を伝う液体は何」
これ……。汗です。
「そんな強がりはいらない。本当は、寂しいんでしょう? つらいんでしょう? 正直に言わないと、わからないよ」
違う……。違う違う違う違う!
「違わないよ。ごめんね、和真。今まで……。一年間もほうっておいて」
『……』
「俺たちのせいで……。本当にすまん。和真」
『……お父さん、お母さん』
「「和真、ただいま」」
『……寂しかった。寂しかった。あなた方に、ずっと会いたかった。大好きです。一年間は、僕の体感時間にして、一生よりも長く感じました……』
「もう、あなたを独りにしない……!」
「もう、おまえを独りにしない……!」
……っ!
『お……かえ……りっな……さぁいぃ』
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
読み辛かったと思います。文才がないので…><
解説しますね、わからないところが多々あると思いますので。
まず、和真くんは心を失ってなどいません。事故のショックで、少し精神的に不安定なだけです。
怪我もしました。とても大きな怪我でした。これは、日本の医療技術では治せないような怪我でした。
だから両親は、世界中から彼の傷を治すことのできる医者を探しました。
和真くんは、事故にあってから、自分の記憶の中をぐるぐるさまよっていました。それこそ、永遠かと思える間……。
両親は、手術が成功するように毎日祈っていました。
無事手術は成功し、彼もどんどん回復していきました。
ですが、目を覚ました彼は、視力を失っていました。
それを知った両親は、治す方法を探しました。見つかったものは完璧に、とはいかないが、見えるようにはなる。というものでした。
そこからまた、和真くんの記憶ぐるぐる旅行が始まりました。
このお話は、和真くんのおば様の家でのお話。
このとき和真くんの目は、ぼんやりと二人を見つめていた。
千里さんは、和真くんのお母さんです。
義人君は、和真くんのお父さんです。
おば様の家で、彼らは「再会」したのです。
一年もの時を超えて……。
ハイ、瑠可です。読んでくださり、本当に感謝です!
これは、和真くんの妄想です、ほぼ。本当の部分も一部あります。彼は、独りの時間がとても永かったせいで、おかしくなってしまったんです。
私も、きっと独りにされたらこんなふうにおかしくなってしまうんだろうな。と思い、ガーッと、書いてしまいました(笑)
あ、もちろん、フィクションです。
では、また会えるまで……
瑠可