昔語り
この話はなぁ、ちょいと前、ほんの二十年ほど前にあった話や。
この近所にゃ、たいそうな船好きの少年がおってな。その船に乗るもんからしたら誇らしいくらいや。
その少年が中でも好きやったんは、ある漁船やった。お前さんらも住んでりゃわかるだろうが、
ここは港町や。ぎょーさん船がある中、たった一つや。毎日来てはその船だけを眺めて絵ぇ書いたりしとった。
ある日、いつも通りに少年は来て、その船ん所へ行った。そこで、少年はいつもと違う行動をとった。
船に触りながら、大声でゆうたんや。
「俺はお前に乗る為に漁師になる!」って。
言うた後には、満足そうにわらっとった。
あんときゃ驚いたわ。船に話しかけてるって事もやけんど、おんなじことを、おんなじ船に、言うた奴が昔にも一人おったんや。
吹き出しそうになった。隣に居ったやつが大笑いして、少年の頭ぐしゃぐしゃにしとったわ。少年は「キョトン」としとった。少年の宣言を聞いとったほかの漁師は、
「また出たで。」
「おっ!今度はあいつかぁ。」
「あいつもなるかなぁ?」
「なるだろうさ!」
そう言うて、皆で大笑いした。少年はまた、キョトンとしとった。
時は過ぎて、少年は青年になって、漁師になった。(あのことを覚えてるかは知らんがな。ココは港町やからなぁ。漁師になるやつが多い。大抵はすぐやめるがな。)
漁師になって何年かして、ようやくあの船に乗ったんや。あの船を見送ってからしばらくして、天候が変わった。大雨んなって、海は大荒れになった。(大丈夫やろか…。)
そう思いながら待っとったら、空が晴れた。遠くに船が見える。それも、大量旗かかげて、や!
青年も無事らしい。乗ってたやつ曰く、「漁が終わってから降ってきた。」らしい。(良かった……と皆で肩をおろした。)
でな、その青年は、泣いたんや。一日中、船のそばで。初めてあんな目にあったからかとも思った。みんなで笑い飛ばしに……あー慰めに行こうかともおもたけど、それは違うらしい。
「よかったなぁ。」とか、
「頑張ったなぁ。」とか、ずっと船に向かって呟いとったからや。泣いとったのは、船の無事がわかったかららしい。よほどのアホやな、あいつは。
その青年も、いまや此処の頭や。
あいつはきっと、おっさんなっても、ジジイになっても、きっと船が好きなんやろなぁ……。
ハイ!この話は終いや。散った散った!
(「え~、後ちょっとだけ聞かせてよ~。」)
えぇ……あ、そうや、そうや!そういやな
「漁師になる!」
言うて、叫んだんは、先代の此処の頭や。今は引退してはるけどな。あーようやっと思い出せた。スッキリした!…さあさあ、ホンマに終いや。他ぁ行って遊んどいで!
夏休みの宿題中に飛んできたやつ。処女作。現実逃避から生まれた。ぶっちゃけこいつが来なかったらいま書いてない。