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序章 彼らの独白、昔の話。

 これから、ちょっとした昔話をしようか。

 ああ、別にそれほど時間はとらせないよ。大した話でもないし。時間にして精々……五、六〇〇年前といったところかな。数字にするとそこそこ大きく感じるかもしれないが、気のせいだ。


 昔、地球と呼ばれていた場所があったんだ。

 魔法はなく、科学技術が――つまり、魔法のようなものを使わず、観測によって得た知識、経験などを用いた小手先と機械仕掛けのみによって発展した世界で、けれどまだ、民間の旅行会社が月やらに旅行を企画するような時代ではなかったよ。

 まあ、それは大して意味のある情報じゃあない。重要なのは――その地球という星に、一つの大きな存在が生まれたということだ。

 その大きな存在とは……ある一つの『ゲーム』さ。

 勿論、ただのゲームではない、いわゆるバーチャルリアリティ。作り物の世界の中に化身(アバター)を投じて、現実のように虚構の世界を体感できるというものだ。

 それまで、ヘッドマウントディスプレイなどを使えば視界だけそれらしくすることは出来たが、完全に五感を投影する技術は開発されていなくてね。とてもとても、画期的なものだったんだよ。

 え? 意味のわからない単語ばかりだって?

 ふふ、そうだね、ごめんごめん。まあ、わからない部分は適当に聞き流せばいいよ。空気だけ感じ取ってくれれば充分だ。

 さて、ええと……そうそう、『ゲーム』が登場したところまで話したんだよね。

 それはね、地球の全員を収容してなお余りある容量を持った、超巨大なサーバー上に造られたMMORPGだった。システム類はなく、代わりにその世界の法則がそこにあった。魔法の世界の法則さ。

 当然だが、どんな遊び(ゲーム)も、システムとデータ、そしてルールにとらわれるものだ。そのデータは存在していない、そのシステムはない、ルールがそれを許さない、だからこの行動はできない――という、ね。まあ、無ければその分犯罪も増えるし、あって困るものでもないけれど。

 しかし『ゲーム』には、その制限が技術的な意味で存在しなかった。当然、その世界の法則がそうなのだから、自然に反することは原則出来ない――というものはあるが(まあそれも、方向性の未だ定まっていない魔法の設定があったおかげで、限りなく少なかったが)、しかしそれは意味合いが違う。大抵のゲームに存在するシステムというのは、『今の技術ではそれを詳しく再現しにくいから、そういう制限をつけてお茶を濁す』という程度のものだ。

 もはや『ゲーム』はゲームにあらず、電脳の世界に一つの完全な異世界を形成していたんだ。

 世界中の人々が、その『ゲーム』に魅了された。世界は地球のあらゆる場所に対応していて、世界中の全員が同じ異世界の中で遊べた。

 言語? ああ、確かに地球には無数の言語があったが、異世界においては意図的にしゃべる言葉を変えない分にはデフォルトで一つの共通語に変換されていたよ。だから言語の壁もない。

 だからこそ、全員が行くことができたんだよ。MMORPGとは言っても、必要なのはパソコンやネット環境ではなく、非常に安価な専用端末一つだけだったしね。

 まさに、夢のような娯楽さ。そんなだから、誰もが見てみぬ振りしたんだ。


 ――このゲームを一体誰が、どこから生まれた超技術でどうやって造ったんだ? という疑問をね。


 私も、他のみんなも。誰もが一度は疑問に思ったが、決して無理に解き明かそうとはしなかった。だって、私たちは、第二の故郷『ゲーム』を愛していたから――

 うん、一体全体何を言いたいのかって? ……ああ、いや、安心しなよ。別に、今いるこの世界が作り物(ゲーム)だとか、そう言うつもりじゃないよ。違うのは確認済みだ。私もそれに気づいたときは愕然としたものだけれど。

 かといって、単位が同じであったり、完全に無関係でもなさそうだが……ま、その当たりは誰かがいずれ何かを見つけるんじゃないかな。

 そうだねえ、伝えたいことか。単に、私が少し過去の事を話したくなったのと……旅立つ君への餞別として、君の持つ魔法技術がどこから由来するのか、それを君の師として教授しただけだよ。『遠い場所にある第二の世界の魔法』、それが、君に授けたものだ、とね。

 ほら、やっぱりさ、若いときって、自分が何らかの流れを汲む技術を持ってみると、流派を一度は堂々名のってみたくなるじゃない? まあ、ナントカ流とかっていうような流派名は特にないから、今の話を聴いた上で、君で適当に作って名乗るといいよ。

 そんな適当なって、そもそも私が適当じゃなかったことがそうあったっけ?

 ……だよね。まあ、頑張りなさい。どうしても困ったことがあったらここに戻ってきていいから、さ。飲み物とお茶菓子、それと助言にアイテム売買くらいならしてあげよう。



 それが師匠からの、もっとも長い餞別だった。

 正直に言うと、殆ど意味はわからない。師匠の昔語りは、いつもそうだ。俺にはさっぱりわからない言葉ばかり使って、こっちからわかりやすい質問をすると、すぐはぐらかす。

 まあ、いつもの事なので、さっぱり怒りも湧いてこないが――というか、怒ったところで受け流されるし、実力行使になんて、恐ろしすぎてでられるはずもない。

 とりあえず、その辺りの情報に関しては師匠よりも幾分甘い、森の中で一人世捨て人としてくらしていた師匠になぜか仕えている召使いのお姉さんに助言をもらって、自分なりに整理しよう――

 明日は記念すべき、俺の旅立ちの日なのだから。

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