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可笑しくって涙が出そう



     (2)



南三局・七三の親番。


早い巡目からの迷いのない親リーに、オイラも髭面も戦々恐々となった。



コイツ…女は飛ばさないんじゃなかったのかよ?


2000点しかない女に対し、彼は4000オールでもギリギリの2着にしかならない。


そうすると、恐らくインパチ(18000点=親の跳満)はあるのだろう。



数巡後、やはり彼の手はタンピン・三色・ドラ1の跳ね満が確定していた。


飛び込んだのは髭面だった。



「やぁ~参ったなぁ」



髭面が一層甲高い声をあげて身をよじらせた。



髭面:34000

オイラ:11000

七三:53000

女:2000



「すごぉーい。さっきまでアタシと同じ点数だったのにねぇ!」



「いや、たまたまです」



女の言葉に照れ笑いしながら、またしてもその顔をオイラに向けてくる。




なんでこっちにまでニヤケた面を見せやがるんだ?


どーせ次は喜んで女を飛ばすんだろーが?



「でもお願い。アタシの親番は残しといてね?」



「ええと…困ったな…ハハ」



ほら見ろ、言われてやがる。




  ★  ★  ★




次局の一本場は、珍しく女の一人テンパイで流局となった。



「もぉ~、出してよ、みんな点棒持ってるくせにぃ。でもこれで最後の親番出来るか。頑張ろ!」



せいぜい頑張ってくれ…。




オーラス・女の親番。



髭面:33000

オイラ:10000

七三:52000

女:5000



もはや逆転どころか、女に捲られかねない点数になってしまった。


それこそ役満でも入らなければ…と思っているところへ、三元牌(白・發・中)のスリーペアが配牌で入った。



大三元を上がる場合、最低1種は暗刻にしたい。


さらにあまり早く鳴きを入れて、残りの種類が河にないとなると、明らかに警戒を集めてしまう。


頻度の高さとバレやすさでは、国士に次ぐ役満とも言えるのが大三元だ。



しかしこの状況で、余裕を持った二鳴き(1枚目をスルーして2枚目をポンすること)など出来るものではない。


ほんの数巡で「ポン!」「ポン!」を連発し、白と中を晒した。



②④一一二發發

(白白白)(中中中)



当然 場に緊張感が走り、中巡を過ぎても見えない發に、その度合いはいよいよ高まっていく。


もう誰も發は切らない…。




大三元と大四喜(ダイスーシー)四槓子(スーカンツ)などの役満にだけある特殊ルール、それが(パオ)である。


役を確定させる牌を鳴かせた場合、つまりこの場合の發を鳴かせてしまうと、他の誰かが振り込んだ場合は半分を、ツモ上がられた時にはその全てを〝責任払い〟しなくてはならない。



チョンボの場合、子は8000点・親なら12000点の罰符を払わされるが、見え見えの役満を確定させる(パオ)には、それ以上に重いペナルティが科せられるのである。



従って發だけは自分でツモるしかない。



オイラの手牌は全く変わらず。


3人とも淡々と手を進めているようだが、發を抱えて上がりを諦めている雰囲気は誰からも感じられない。


或いは残りの2枚を対子にしている奴がいるかも知れない…





そう考えていると……





發をツモった!!!!!




右手のスピードを変えずに一萬を切った……つもりである。





②④二二發發發

(白白白)(中中中)



気付かれないように、もう一度点数表示をチラ見した。



髭面:33000

オイラ:10000

七三:52000

女:5000



髭面か女から上がっても七三を捲ることは出来ない。


ツモなら…



髭面:24800

オイラ:42600

七三:43800

女:-11200

(※二本場の600点を含む)



なんてこった……役満ツモっても届かねーや…。


七三から間③筒を直取りしない限り、オイラの捲りはないのである。



その七三は、すでに終盤に差し掛かった今、殆どオイラの現物しか切らなくなっている。




とその時、彼のツモ指が一瞬止まったように感じた。気のせいだろうか?




すぐに何事もなかったように安全牌を出してきたが、次の牌をツモった女が小考している間に、七三がさっきのツモ牌を大事そうに左端に移動したのを、オイラは見逃さなかった。




「ええい、リーチィィィ!!」



対面の女が叫んだ。


役満が見える場で、背水の親番だからこそ出来るリーチだった。



それを見て七三の顔が少し曇った。




  ★  ★  ★




女からの親リーを受けての最初のツモで、⑤筒を引いた。



②④⑤二二發發發

(白白白)(中中中)



②筒にかかった指先を、思い直して一旦止めた。

今一度〝1~2秒の違和感〟に賭けてみるか?




なるべく無表情に、静かに捨てたつもりだったが、逆に3人から安堵の笑いと溜め息が洩れて、卓がざわついた。



「きゃあ、やっぱ持ってたんだぁ!」



「やぁ~こわ!」



年甲斐もなく甘えたような女の声と髭面のオカマ声が、オイラの切った發をはやし立てる。



同じく「ふぅっ」と息を洩らした七三が、親リーの一発を避ける現物に飛びつくように、即座に手牌から發を切り出した。



「お願い、いてちょーだい!」



そう言ってツモ山に手を伸ばす女を遮って、オイラは声をあげた。




「ポン!」



一瞬にして場が凍りつき、七三の顔から血の気が引いた。



發2枚を晒して②筒を切り、しばらく動けないでいる七三の河から發を拾った。





④⑤二二

(白白白)(中中中)(發發發)



「いやぁ…それは考えなかったです…」



そう言って彼が弱々しく②筒をツモ切った後、女が「やめてぇ!」と熱い鍋の蓋でも開けるような仕草で放った⑥筒に、静かに「ロン」の声を投げかけた。




髭面:33000

オイラ:43600

七三:35700

女:-12300



女はどうも(パオ)の内容をよく把握していないようだったが、彼女の場合は箱下(点数がマイナスになること)なので、半分でも全払いでも精算に影響はない(箱下精算のないルール)。


彼女に包のルールを説明しながら言ってやった。



「レディが飛ぶならお兄さんが付き合ってくれるんだとさ。良かったな」



「あらぁ~、愛を感じちゃう!」



苦笑いする七三に、オイラは満面の笑みを返してやった。




      完




※後書きも読んでネ♪





後書きまで覗いてくれたアナタに感謝します。


他の作品同様、実際のエピソードにアレンジを加えて書いていますが、この話も別々にあった場面を繋ぎ合わせたものです。


これ以外にも、ツモり四暗刻を単騎待ちに受け変えてトップからの直取りを狙ったこともありますが、その時は不発に終わりました。


いずれも低レートだからこそ出来ることで、役満云々よりもトップ穫りが優先される場面での話ですが、50円程度の麻雀ならこんな楽しい展開が実際珍しくありません。


経験のあるなし、またはその是非について、ご意見ご感想、お待ちしております。



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