恋愛という言葉を討議する
「ねえ、恋愛ってなんだと思う?」
この体育倉庫に閉じ込められた状態で彼女は突然そう切り出した。
「え、恋愛?」
当たり前の反応だからか彼女は深く溜め息を吐いた。
「好きな人がいればそれが恋愛だって下らない事は言わないでね」
不覚にもそれしか思い付かない。
「なんで? 現に対象がいなければそれは恋愛にはならないと思うけど?」
「じゃあ、空想の産物と言われる二次元のそれには恋愛はできないと言うのかい?」
「いや、そんなことは言ってないよ。あくまでも対象だ。二次元という対象が恋愛に結び付く」
彼女は積み重なったマットに座り疲れたのか五段の跳び箱に移った。ボクもそれに合わせて体の向きを変えると不意に彼女のスカートが風でひらっとなった。見えた気がして、しかし気がしただけだった。
「しかし人にはフェチと言うものがある。うなじだったりくびれだったりくるぶしだったり」
「なぜマニアックな所しか言わない」
「いいじゃないか」
「もしかして、……君、くるぶしフェ……」
「うるさい。好きなんだ」
外の雀の囀りが聞こえるほどの沈黙。それを咳払いして話を続ける彼女。
「でだ、見た目のフェチや声・性格などの感覚的なフェチ、二次元では全く違う人が担う場合がある。それじゃあ、二次元に恋愛感情を持つのであればそれはどれに向けられれば良いものになるのだ?」
そんなこと考えても見なかった。確かに声優が好きだからそのキャラを好きになったり、絵師が好きだからそのキャラを好きになったり、物語が面白いからそのキャラを好きになったりする。そのキャラを好きになることの裏には複数人の内の誰かを好きになったりしているのかも知れない。
だがしかし、逆に言うとそれはそのキャラを好きになると言うこと、つまり恋愛感情を持つことは、他の、声優や絵師、原作者を好きになったことと言い換えられるのではないか?
「つまりだ。二次元に恋愛すると言うのは二次元と言う対象のさらにその成分である部分を好きになるって言いたいのか?」
「そう。だから私はないと思うわ。それと同じく物でも一緒のことが言えるわ」
「創作者がいる……。作られなければそれはできない……か」
「例えそれが自然現象であっても同じこと」
「なあそれって人間同士でも同じことが言えるだろ」
「そうなの。自然現象的に化学的に結びあった化学原子が成した生合成のなれの果てとも言える生命体も物質であることには違いない。でもね、恋愛って言葉はあるの。非常に空想的な感情なのだろうけど、そもそも感情が生命体である固有のもの」
「声優や絵師とかも所謂感情のなれの果てって言うのかい?」
「声はコミュニケーション能力向上のために、絵は文字の退化とも言える代物、全く同じじゃないかしら」
「結局、君にとっての恋愛ってなんなんだよ」
彼女は跳び箱から降りボクに近づいてこう告げた。
「感情の不安定が故の個性」
そう言って彼女の唇がボクの唇を奪った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。澁谷一希です。
なんとなく、思い付くままに書いてみました。恋愛って結局のところ好きなことといいたいがために回りくどく討議してしまう彼女でしたが、あなたは恋愛とはなんだと思いますか?
人それぞれ考えはあるとおもいますが、今回はこの辺で。




