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ふたりの世界

作者: 朝雛みか

〜短編3作目〜


実は、今まで出した中で一番昔に書いた作品です


七夕の日に、織り姫と彦星のことを思って書き上げましたo(^o^)o


 ここは白くて何もない。


 君と僕だけの世界。



 ふたりはいつも遊んでいた。

カレンダーも時計も太陽もない、真っ白な世界で、ふたりは今が何時かも何日かさえもわからずに遊んでいる。


 おなかもすかない、のども渇かない。それに、ここには何もないから、食べるものもない。

 ただ忠彦タダヒコには香織カオリが、香織には忠彦がいた。

だから、いつもふたりで遊んでいて、いつだって楽しかった。ふたりはそれだけでよかった。それだけで生きていけたんだ。



 僕が遊びを考えると、君は笑いながら

「面白そうだね」

って言った。そして一緒に遊ぶんだ。

それが普通なんだよ。

ここは真っ白で何もないけど、君だけはいるから。

それで十分なんだ、一人じゃないだけで十分なんだ。



 あなたが考えた遊びはいつも面白くて楽しい。

この前は「じゃんけん」?っていうのをやった。私は負けてばっかりだったけど、それでも楽しいと思えたの。だって、あなたがいたから。

 この前、あなたも私も引き出しを作れることに気がついた。

引き出しを作って、それを開けると欲しいものが手に入った。缶蹴りに使う缶とか、お絵かきに使う紙とクレヨンとか、遊びに使う道具をいっぱい出せた。

引き出しが私達の遊びの幅を広げてくれた。


白い世界に色んなものが増えた。


 すると君は

「いっぱいの水の中で泳いでみたい」

って言った。

僕も面白そうって思った。だから、僕は引き出しを作って水を出したんだ。でも、白い世界はこれだけいっぱいの水でさえものみこんでしまった。引き出しから出てくる水は、そこから出てすぐになくなってしまう。

それを見て君も引き出しを作って、水を出した。



 それでも足りなかった。全然溜まらなかったの。だから、あなたと私で協力して、今までで一番大きな引き出しを作った。

それはそれは大きな、とっても大きな引き出しを作ったの。だけど、そこから出てきた水はやっぱり溜まらないで勢いよく流れていった。

そして、私達は気づいた。



 『水が止まらない。』


 『引き出しが閉じない。』



 ふたりのいる場所は、水の右側と左側。どんなに頑張っても、水の勢いが強すぎて反対側に行くことはできなかった。今まで、ひとときも離れることのなかったふたりがこんな形で分かれてしまった。


 そして、あまりの水の激しさに、とうとう引き出しは壊れてしまった。しかし水は、まだ出続けている。

いや、むしろ、どんどんどんどん水の出る量が増えていって、その流れる幅もどんどん広がっていく、忠彦と香織の二人の距離も広がっていく。



 「大丈夫だよ。すぐ終わるよ。私達、ずっと一緒にいるんだよね?」


香織が忠彦に向って叫ぶ。


 「あぁ、今までそうだったんだ。これからもずっと一緒さ。」


忠彦はそう答えた。



 しかし、川の幅はどんどんと広がっていって最初10歩くらいだった幅も、今ではもう50歩程の幅になっていく。

この距離でも、ふたりの顔ははっきりと見えて声も聞こえた。



 そうだよ。僕達には引き出しがあったんだ。引き出しで、橋を作れば川を渡って香織のもとに行ける。ここに線を引いて、それを引き出しだと思って、取っ手を引っ張れば欲しいものが入ってるんだ。


 「かおりーー!引き出しから橋を出せば、そっちに行けるよー!橋を作って―!」



 ふたりは一生懸命に引き出しを作ろうとした。

でも、さっき激しい水で引き出しが壊れてしまい、ふたりは、もう引き出しを作れなくなってしまっていたのだった。



 「どうして引き出しが開かないの?なんでなの?」


 「どうして引き出しが開かないんだ、なんでなんだ。」



 川の幅はとうとう広がらなくなった。しかしふたりの距離は300歩。

顔はもううっすらとしか見えなくて、声はかろうじて聞こえる。でも大声で叫ばないと何も聞こえない。

 何もなかったはずのふたりの真っ白な世界には川ができた。白い世界に流れる川は、白く()きとおっていた。

激しく流れているはずなのに音もない。

ふたりに待っていたのは孤独だった。


 すると、香織の耳に音が聞こえてきた。



 「かおりー!かおりー!香織。かおりー!」


それは、精一杯叫ぶ忠彦の声。そして香織も叫ぶことにした。


 「ただひこー!ただひこー!」


そして、忠彦は叫んだ。


 「君は、ひとりじゃない。僕がここにいる。僕達はずっと一緒にいるんだ。こんな水、すぐになくなるよ。今は少し遠いけど、すぐに近くまで来れるさ。ここは、ふたりしかいない世界。ふたりだけの世界なんだ!」





 それからふたりはいつもいつもお互いの名前を叫んでいた、疲れることも知らずに。なんどもなんども声がかれても叫んだ。



 僕は、どうしてこんなに香織の近くに行きたいんだ。この気持ちはなに?何がこんなに僕を動かすんだ。それでも、名前を呼ぼう。僕のいつも隣にいる香織の。僕の、、大好きな香織の名前を。


 そうか、僕は香織が好きなんだ。



 そしてある時、忠彦は別のことばを叫んだ。


 「かおりー!好きだよ。好きで好きでしょうがない。早く君に近づきたいよ。」


すると、香織も答える。

 「わたしもー!」


 それから、いつもと変わらず名前を叫ぶように戻った。





 もう何年が過ぎただろうか。あれからもふたりは変わらず名前を叫びあっている。

ただ変わったことといえば、ふたりの声が男らしく、また女らしくなったこと。


そして、ふたりの距離だった。止まっていたと思っていた川の幅は、日々、刻々とゆっくりゆっくり変わっていたのだ。そのことに気づかずに、ふたりはただ叫んでいた。



 そして、川の幅があと10歩のところでふたりは、川が小さくなっていることに気付いた。それから二人は息を飲み、微笑んだ。



 やっと、やっとなんだね。やっと、君のそばにいられるようになるんだ。やっぱり、水は無くなるんだ。

ちゃんと見えなかった君の顔も体もやっと見えるようになったよ。もう、こんなに大きくなったんだ。僕も、少しは大きくなってるのかな。




 叫ばないと聞こえなかった声も、もう普通の声で聞こえる。

やっとあなたの顔がはっきり見える。あなたの声がはっきり聞こえる。昔よりも体が大きくて、顔も男らしくなってる。

あの時から、どれだけ経ったんだろう。もう今は、あなたを見ているだけで、あなたの声をこんなにしっかり聞けるだけで嬉しい。



 「香織。やっとここまで来れたね。」


 「うん。忠彦大きくなったね。」


 「香織も大きくなってるよ。」


 「そうかなぁ。自分じゃわかんないや。」



 ふたりは笑い合うが、その距離はまだ9歩あった。まだ触れられない。そんな近くて遠い距離。 そして名前を呼ぶのが再開すると、川の幅は8歩、7歩と縮んでいった。


 あと6歩。

 あと5歩。

 あと4歩。

 あと3歩。

 あと2歩。


そして、手が触れる。


 あと1歩。


指が絡まる。


 もう、川はなくなっている。

唇が重なる。そして、唇が離れふたりのおでこがぶつかる。

 そこにはふたりの笑い顔と壊れた引き出しだけがあった。





 ここは、白くて何もない。

君と僕だけの世界だった。ふたりの、ふたりだけの白い世界だった。

そして今、ここにはもう一人、君と僕のほかにもう一人、僕と君の大切な子が増えた。


 「パーパ?マーマ?」


今は、相変わらず白くて何もない。けど、三人がいる世界。おなかもすかない、のども渇かない。そんな世界。だけど、ここにはちゃんと愛が生まれた。

 愛がある、白いしろい世界

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