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52 エルフと精霊


「こんな時間に!危ないじゃなっ……!ゲホッゲホッ」


 小さな集落の中で唯一小さな灯りが灯っていた家。アオが入っていった家の中から、女性の叱るような声が聞こえてきた。

 開いている玄関の扉から、ルシオがちょこっと顔を覗かせる。


「ごめん……でもほら!薬草とってきたよ!それに魔物から助けてくれた人たちが……」


 ベットで寝ている人影の隣に立つアオと視線が合うルシオ。


「あ!お兄ちゃん達!お母さん!この人たちだよ!」


 玄関までアオに手を引かれ、家の中へと入るルシオ達。


「お、お邪魔します……」


 急な来客に、ゆっくりと上体を起こした母親。ゆっくりとベッドの上でお辞儀をする。


「この度は……息子を助けていただきありがとうございました……」


 弱々しい声。体調が優れないのだろう。しかし、そんなことを微塵も感じさせないほど綺麗な顔立ちに、長く薄いブロンド色の髪。

 そして……先端が少し尖った細長い長い耳……


「い、いえいえ、こちらこそ急にお邪魔してしまいすみませんでした……」


 そう言い、頭を下げるルシオ。ルシオのお辞儀に合わせるかのように、フィニスたちも小さく会釈をした。


「薬草つぶしてくるね」


 そう言って帽子を外し、奥の部屋へと小走りで走っていくアオ。母親同様、アオの耳も小さいながらも細長く尖っていた。


「全然気づかなかった……」

「まぁ、帽子かぶってたからな……」


 そう小さき呟くニティアとフィニスの声が聞こえたのだろう。


「エルフを見るのは初めてですか?」


 母親は小さく笑いながら2人に尋ねた。


「あ、すみません。実際に会うのは初めてです」


 そう言い、少し申し訳なさそうに笑うニティア。フィニスも同じように応えようとした瞬間……


「美しいとは聞いていましたが……まさかエルフが本当にこんなに美しいとは思いませんでした!」


 目を輝かせながらルシオが母親の手を取った。突然の出来事に、母親も少し驚いていたようだが、素直に褒められて嬉しかったのだろう。ニコリと笑っていた。


「お上手ですね。こう見えても貴方達の10倍は生きているおばあちゃんですよ」

「全然見えないです!いやほんとお綺麗で……」


 手を離し、隣に座り込むルシオ。相変わらずの行動に若干呆れながらも、アルテアもベッドの母親に近づいた。


「あの……体調がすぐれないようですが、病気か何かですか?あ……!いえ、その……言いたくなければ大丈夫です!ただ、見えても私回復とかが得意ですので、何かお役に立てないかなと……」


 アルテアに優しく微笑む母親。


「お気遣いありがとうございます。……先日のベスオー平原での戦争がありましたよね……?」

「……はい。すぐに魔女が現れて終結しましたが……」

「その魔女が現れて以降……この森にも魔女の魔力の影響が出てしまったのでしょうね……」


 少しだけ悲しそうに視線を落とす。


「魔物も増えましたし……何より私たちにとってエネルギーの源であるマナが穢れていて……元から身体が弱かったことも相まってこのような状態になってしまったのです」

「ここを離れて……マナが綺麗なところに行ったりはできないんですか?」

「……できなくは無いです。ただ……どうしてもエルフは魔力が高い分、このように隠蔽魔法でも使わないことには、魔物や魔族に狙われがちだと言うのもありますし……」


 少しだけ言葉に詰まる母親。言葉が少し悪くてすみません。と付け加えた後、話を続けた。


「私のような弱いエルフに、子供のエルフ。変な人間に捕まってしまったら……どう言う目に遭うのかもわかりませんからね……」


 その言葉を聞き、無言になる4人。少し気まずくなった空気をなんとかしようと、母親はニコリと笑い、手のひらをかざした。


「それに、私達にはこれがありますからね」


 かざした手のひらがうっすらと光はじめ、その一点に風が集まり始める。

 そして次の瞬間……


ポン!


 光が消え、かざした手の先に突如小さな生き物が現れた。


『エレノアどうしたの?こんな時間に珍しい……』


 透明の薄い羽を羽ばたかせた、手のひらほどの大きさの小さな人。長い青い髪をフワフワと靡かせながら、エレノアと呼んだ母親の方を見ていた。


『うぇっ……相変わらずここも臭くなったわね……』


 そう言いながら周りをキョロキョロと見回したところで、ニティア達と目が合う小さな生き物。


「……喋る……虫……?!」

『え……人間…….!?』


 ニティアと小さな生き物の声が重なった次の瞬間……。


『「ギャーーーー!!!」』


 静寂に包まれた森に似合わぬ大きな叫び声が一面に響いていた。



「ゼフィリア久しぶりー!」

『あら、アオは全然成長しないわね』


 ゼフィリアと呼ばれた小さな生き物が、アオの周りをひらひらと飛び回っていた。


「驚かせてしまってすみません。あの子はゼフィリア。仲良くしてもらっている、風の精霊ですね」

「精霊か……リヴァレーみたいにどこかに住んでるんじゃなくて、こうやって呼び出せるもんなんだな」

『へぇ〜、あんたリヴァレーのこと知ってるんだ!相変わらず生意気だったでしょ!』


 話し声が聞こえていたのだろう。リヴァレーの名前を出したフィニスの周りを飛び回るゼフィリア。

 その様子を見てエレノアはベッドの上でくすくす笑っていた。


『エレノアさ、今体調悪いんでしょ?わざわざ呼ばなくたっていいのに』

「いいえ、アオを助けてもらった人達をゼフィリアにもご紹介しようかと思って」

『ふ〜ん……どうせこの事をエラリスにも伝えてくれって事でしょ』

「バレてましたか(笑)」

「エラリス?」


 2人のやり取りに首を傾げるニティア。


「エラリスは私の娘……この子の姉です」

「ぼくのお姉ちゃん強いんだよ!」

『ふん!私が契約してるんだから当然よ!』


 いろいろな情報が入り、さらに首を傾げるフィニス。


「契約……あぁ、気に入ったやつに力を貸してくれるってやつか?」

『そ、魔力が合う人に力を貸してあげてるの。エレノアもそうだし、今は旅をしてるアオの姉、エラリスも私と契約してるのよ』

「そういえばリヴァレーも言ってたな。同じ魔力の波長で増幅させられるとかなんとかって……」

『あいつちゃんと説明もできたんだ。まぁ簡単にいえばそうだね。でも、力を貸して増幅させるのが楽って言うだけであって、私達の気分次第じゃ別のことも出来るけどね。疲れるからやらないけど』

「ぼくとも早くけいやくしてよー」

『アオはもっと大きくなって、波長が私に合うようになったらって言ってるでしょ!』

「ふ〜ん」


 ニティアが話をしているエレノアに近づく。


す〜っ


 ゼフィリアがニティアから離れていく。


『まぁ、そんなわけで……親娘で契約しているもんだから。もし今エラリスに呼ばれて私がそれに応じれば、今すぐエラリスの元に転移してこの場の情報を伝えたりも出来るのよ』

「へぇ〜便利なもんだな」


 そのままフィニスの方に座るゼフィリア。


『あんた顔も悪く無いし。魔力があれば契約してあげてもよかったのに……』


 そう言いながらフィニスの頬をツンツンするゼフィリア。

 ニティアの視線がフィニスに刺さる。


「ま、まぁリヴァレーも言ってたけど、俺は魔力がないから精霊にとっては落ち着くらしいからな」

『あんな気持ち悪い魔力の女なんて置いておいて、私と一緒に遊ばない?』

「なっ!誰が気持ち悪いよ!」


バチッ


 ニティアの足元から起こりを感じ、後退りするフィニス。

 そんな様子を見てくすくすと笑っているエレノアやアオをよそに、アルテアが窓の外を眺めていた。


「どうかした?」


 それに気づいたルシオが声をかける。


「エレノアさんも美人だけど、俺にとってはアルテアちゃんが1番だから安心してくれよな!」

「……」


 スルーされたルシオが、笑顔のまま固まっていると、アルテアの表情が代わり、窓の外の一点を凝視し始めた。


「皆さん気をつけて!来ます!」

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