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高校生カップル、2人の門出。

作者: 無力なうさぎ。
掲載日:2026/04/11

雪がチラホラ残る3月。

駅から歩いて5分ほどのたこ焼き屋の前。


階段を下りてくる音が聞こえた店主の大きな声が響く。

「よりちゃーんいってらっしゃい!」


2階から降りてきたよりこは1階の店の横を通る。

「お父さん声大きい。恥ずかしいから。」

と言いながらマフラー巻きながら道へ出てきた。


啓介はいつもの光景に笑いながら待っていた。


店主「けいちゃん、いつもありがとね!娘をもらってくれる気になったのかい?」

よりこ「ちょちょ、、、だから声が大きいし、ケイスケはそんなんじゃないから~」

啓介はそっと息を吸って

「お父さん、よりちゃんに今日は大事な話があるんです。帰ったら話を聞いてください。」

よりこ「え?なに?」

衣子の戸惑う振りをした。

啓介は「じゃあ行こうか。」と言い歩き出した。


歩いて30分ほどの海水浴場に行く予定。

歩きながらいつものように他愛もない話をしていた。

啓介「衣子って普通は依子だよね。ホントにあのお父さんが人偏を書き忘れたの?」

衣子「ん~昔、お母さんからそう聞いたよ。」

啓介「まぁあのお父さんならそんなこともあるのかな。」


海水浴場に着いた。

3月と言ってもまだまだ海は寒い。

当然、だれもいない。

釣り人すらいない。


啓介はいつものように革の鞄から取り出したカメラを三脚に取付け撮影の準備をした。

撮影のボタンをぽちっと押す。


啓介「冬の海は寒いね。よりちゃん。」

衣子「そうだね。」

啓介「今日は大事な話があるんだけど、いいかな。」

衣子「なに?」


啓介は一呼吸をした。遠くの波を見ながら落ち着いている。

衣子は結婚の話?と頭によぎりながら、体を丸めた。

高3の私たちに結婚はまだ早いよね。なんだろう。

衣子はドキドキした様子だった。


啓介は衣子の目を見て言った。

「俺たち別れよう。」

衣子は意味がわからなかった。

「え?え?なんで?」

「なんで別れるの?」

「昨日も買い物に行って、楽しかったし、え?なんで別れるの?え?意味わかんない。」


啓介「別れよう。俺は来月から東京の大学に行く。来週には引越しの予定なんだ。衣子と離れ離れになるのにこのまま関係はよくないと思うんだ。」

衣子「全然いいよ。私待つよ。」

啓介「・・・・・・。」

衣子「けいちゃんが、もし大学卒業して東京で就職するなら、私が東京に行くから。ね。だから別れようなんて言わないで、、、お願い。お願い。」


衣子は徐々に別れるという言葉の意味が頭で理解し始めたのか目から涙が溢れてきた。

啓介は優しい目で、しかし動じることもなく、衣子を見つめている。


啓介は続けた。

「いいや、俺が嫌なんだ。一人の女の子を俺のために待っていてもらうのが嫌なんだ。俺たちはまだ若いんだから、待つ時間があるなら、その時間を他の人に使ってほしい。」

衣子「意味わかんないよ。他の人だれよ。私の勝手でしょ!?私が嫌いになったの?」

啓介「・・・・・・。」

衣子「そういうことなんだね、、、」


さらに衣子は泣けてきた。

啓介は下を向いた。何か堪えてる。

衣子は首に巻いていたマフラーで顔を隠すかのように泣きじゃくっていた。


波の音と衣子が泣く音だけが聞こえている。

波の音が寂しげなBGMになっていた。


数分が経った。

啓介は鞄からA4のラミネートされた用紙を取り出した。

衣子の肩をポンポンとたたいた。

衣子は泣きながら顔を上げた。

啓介が持つラミネートが視界に入る。


衣子はラミネートに書いてある赤くはっきりとした文字を読んだ。

「ど、っ、き、り、、、ドッキリ大成功?」


啓介は少し笑いながら言った。

「ドッキリでした~。ごめんね。ホントにごめんね。こんなに泣くと思わなかった。」

啓介はホントにごめんという顔をしている。


衣子はほっとした顔をしている。

しかし寂しい気持ちが少し怒りにも変わった顔でもある。

「啓介、帰り覚えておいてね。」


啓介はカメラの撮影ストップのボタンを押した。


衣子はこの動画を編集してアップロードすると、なんと初の30万再生を達成できた。

女子高生が本気で泣いている様子は視聴者からは賛否両論、様々なコメントが書き込まれた。

しかしそれ自体は2人は気にしていなかった。


2人の家は貧しかった。

小学校から同じだったため、お互いの境遇は知っていた。

中学の頃から少しでもお金になることを探し、2人はSNSに動画をアップし始めた。

中学生カップルの私生活動画をアップしていた。

登録者が少しずつ増えてきたとき、身内に私生活を見られる恥ずかしさがあった。

周りの人の陰口を聞くこともあった。

だけど2人は気にはなっても、動画アップをやめようとは思わなかった。

高校に入る頃には視聴者登録が1万人を超え徐々にお金がもらえるようになった。

動画アップを続け、収益を貯金した。

そのお金で啓介は東京の大学に行けることになった。

衣子は地元の専門学校に通えるようになり、デザインの勉強しようと思っている。

2人とも金銭的に足りない分はあるけど奨学金とバイトで工面する予定だ。


寒さがやわらぎ、春の兆しを感じる3月末。

啓介が東京に向かう電車を衣子が撮影した動画がアップロードされた。

発車のアナウンスが流れるホーム。

「さようならよりこ。今までありがとう。体に気を付けて。」

「けいちゃんもね。がんばってね。サヨナラ。」

2人は笑顔で握手をして、啓介は電車に乗った。

動画の終わりにいつもにはない「fin.」の文字が添えられていた。


それから2人の動画チャンネルは更新されることはなかった。


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