後日談4 英雄たちの旅立ち ~果たされた「長生き」の約束~
若き王が黒い結晶の中で眠りについてから、五十年の歳月が流れた。
かつての若者たちは老い、一人、また一人と旅立っていった。
しかし、その最期は決して寂しいものではなかった。
彼らは皆、王との約束を守り、天寿を全うしたのだ。
◇ ◇ ◇
老宰相ヴァインは、新制度構築に生涯を捧げた。
ある冬の夜。執務室で最後の法案に署名を終え、満足げに息をつく。
「……これで、土台は盤石だ」
雪化粧をした平穏な街並みを見下ろす。
瞳から光が消えゆく中、口元には安堵の笑み。
「陛下……約束を、果たしました。あなたの愛した国は、もう誰にも揺るがせません」
ヴァインは机に突っ伏し、穏やかに眠りについた。
彼の作り上げた「民が中心の国」は、今や大陸諸国のモデルとなり、争いのない世界を支える礎となっていた。
◇ ◇ ◇
アラリックは剣を置き、引退した。
晩年は「杭の聖堂」の傍らに小さな小屋を建てて過ごした。
朝な夕な、黒い結晶の前で時間を過ごす。
「陛下……今日も、平穏でした。孫が生まれましてな」
毎日、昨日のことのように王に語りかける。
ある晴れた日の午後、聖堂のベンチで静かに息を引き取った。
長年の重責から解放された、少年のような穏やかな笑み。
◇ ◇ ◇
カイルは、最後まで自由気ままに生きた。
彼が築き上げた交易路は、大陸の血管として繁栄を支え続けた。
病床の彼が、最後に見舞いの部下に残した言葉。
「……最高の博打だった。勝ち逃げさせてもらうぜ」
空のスキットルを握りしめたまま、満足げに旅立つ。
王との賭けに勝ち、国を守り抜いた男の顔だった。
◇ ◇ ◇
リオラとエリンは、共に白髪の老女となり、同じ時期に旅立った。
最後まで聖堂の守り人として、王の眠りを妨げる者を排除し続けた。
最期の時、二人は手を取り合い、聖堂の天井を見上げていた。
「陛下……私たちは、幸せでした」
影として生き、光を守り抜いた二人の顔は、かつてないほど晴れやかだった。
◇ ◇ ◇
レオンは「聖歌長」となっていた。
かつて呪いを撒いた喉は、人々の心を癒やす奇跡の歌声として称えられた。
眠りについた時、苦悩の影はなく、かつての清らかな光が戻っていた。
歌いながら、光の園へと旅立った。
◇ ◇ ◇
ベリサリウスとヴォルカスは、穏やかな死を迎えた。
数え切れないほどの若者を育て上げ、軍人の誇りを継承させた。
最後の言葉は、示し合わせたかのように同じだった。
「……最高の王に仕えられて、幸せだった。地獄の底までお供したかったが、天国で待つとしよう」
◇ ◇ ◇
ゴルガスは、退役軍人たちの親父として慕われ続けた。
彼が眠りについた時、多くの傷ついた男たちが子供のように泣いた。
彼は、傷ついた者たちの英雄だった。
◇ ◇ ◇
メフィストは最後まで研究を続けた。
遺した魔導医療技術は、多くの人々を救い続けた。
実験台の上で亡くなっていた彼の最後のメモ。
「……陛下の右腕として、最高の仕事ができました。次は、神の腕でも直してみせましょうか」
◇ ◇ ◇
そして、父王エドワード三世。
若き王が眠りについてから十年後、穏やかに眠りについた。
かつての「鉄獅子」の面影を残したまま。
「……息子よ、お前に会えて、幸せだった。自慢の息子だ」
◇ ◇ ◇
彼らは皆、同じ場所に還ってきた。
「杭の聖堂」を取り囲む、「英雄の墓地」。
若き王が眠る聖堂を守護するように、墓石が整然と並んでいる。
ヴァインにはペン、アラリックには剣、カイルにはコイン。
彼らは死してなお、若き王の傍らにいることを選んだのだ。
風が吹き抜けるたび、墓石の間を縫って優しい音が響く。
王の眠りを守りながら、昔話に花を咲かせているさざめきのように。
若き王は、一人ではない。
最強の忠臣たちが、今も、そしてこれからも、彼を守り続けているのだ。
お読みいただきありがとうございます!
もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆(投稿)の励みになります!
ブックマークもぜひポチッとお願いします。




