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隻腕の代理王 ―腕一本で国が救えるなら、安いものだ―  作者: ryoma
【後日談:幸福な夢編】

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後日談1 新生レムリアの日常 ~それぞれの「その後」~

一年が経った。

レムリアは、季節が巡るように、しかし確実に変革の只中にあった。


◇ ◇ ◇


老宰相ヴァインは、新制度構築に没頭していた。

だが、以前のような「死に急ぐ」働き方ではない。


「ヴァイン様、夜も更けました」


若い書記官が茶を差し出す。

ヴァインはペンを置き、微かに笑った。


「……そうだな。陛下の最後の王命だ」


窓から見える、真新しい「民会議場」。

若き王が夢見た国が、形になりつつあった。


「陛下……あなたの夢は、必ず実現させます。盤石な礎を築いてみせましょう」


穏やかに目を閉じる。

久しぶりに、悪い夢も見ず、ぐっすりと眠ることができた。


◇ ◇ ◇


アラリックは「国防長官」となっていた。

役目は、剣を振るうことだけではない。


「アラリック様! 今日の訓練、ありがとうございました!」


若い兵士たちを見送り、誇らしげに笑う。

王が作り上げた「絆」と「誇り」を、次世代へ継承するために。


「レオン、調子はどうだ?」


傍らの男に声をかける。

異界の歌を歌い続けていた男は、今、信頼厚い右腕として働いていた。

声に微かな響きは残るが、瞳には清らかな光と静けさが戻っている。


「……はい。今日も、穏やかな一日でした」


レオンは北の空を見上げる。


「あの方が守ってくださっている平穏を、肌で感じます。黒い声は、もう聞こえません」

「ああ。だから俺たちは、この平穏を守り続ける」


二人は北の空を見つめた。

若き王が、今も世界を支えて眠る場所を。


◇ ◇ ◇


カイルは相変わらず自由気ままに生きていた。

だが「賭け」の対象は、もはや自分の命ではない。


「カイル様! まさかあの強欲な商人どもを黙らせるとは!」


自由都市連合の商人が頭を下げる。

カイルはスキットルを煽り、不敵に笑う。


「当然だ。俺が負ける賭けは、もう一生分使い果たしたんでな」


「新たな交易圏の確立」。王との約束を、誰よりも誠実に実現しようとしていた。

彼なりの弔いであり、誓い。


「……陛下。あんたの勝ち分は、きっちり守って増やしてやるよ」


夜空を見上げ、スキットルを掲げる。


「乾杯だ。最高の博打を見せてくれた、俺の最高の王に」


◇ ◇ ◇


リオラとエリンは「内務省」を率いていた。

「銀の鴉」は正式な情報機関となっていた。


「リオラ様、今日の報告書です」


リオラは受け取り、柔らかく笑う。


「ご苦労。……今日も、平穏だな」


窓の外。平和な街並み。

影ではなく、表舞台で堂々と国を守っている。


「リオラ様」


大人びたエリンが傍らに立つ。


「今日、杭の聖堂に行きませんか? 新しい花が咲いたんです」

「そうだな。……陛下に、報告しよう」


二人は夕暮れの中を聖堂へ向かう。

足取りは、かつてないほど軽やかだった。


◇ ◇ ◇


ベリサリウスとヴォルカスは「名誉教官」となっていた。

レムリアの若い世代に、「守るための心構え」を伝えている。


「おい、若造ども! もっと腰を入れろ!」


ベリサリウスの雷のような大声。


「俺たちは、あの王のために戦った兵士だ! その誇りを継がせてやる!」

「相変わらず元気だな、老将軍」


ヴォルカスが苦笑する。

豪快に笑い合う二人。殺伐とした緊張はない。

居場所があることへの、穏やかな日々への感謝。


「……陛下のおかげだな」

「ああ。だから俺たちは、あの方の遺志を継ぐ。……最後の兵が倒れるまで守り続ける」


◇ ◇ ◇


ゴルガスは「退役軍人支援局」の長となっていた。

傷ついた兵士たちの社会復帰を支援している。


「ゴルガス殿、今日も酒を持ってきてくださったんですか!」


片腕を失った兵士が笑う。

ゴルガスは悪びれず掲げた。


「当然だ。酒は心の薬だからな」


かつて腐りきっていた自分を、王が拾ってくれた。

戦う意味と「名誉」を取り戻させてくれた。


「……陛下は、俺に『名誉』をくれた」


杯に酒を注ぐ。


「だから俺は、お前たちに『希望』をやる。……生きろ。五体満足じゃなくても、幸せになれる権利があるんだ」


◇ ◇ ◇


メフィストは「魔導技術研究所」の長となっていた。

狂気は鳴りを潜め、研究対象は変わっていた。


「ケケケ……これで、また一人救えますな」


完成したのは、生活を支えるための精巧な義肢。


「メフィスト殿、ありがとうございます! これで畑仕事ができます!」


涙を流す農夫。

メフィストは照れくさそうに笑う。


「……陛下の残してくださった技術は、人を救うために使うのが正しい」


窓の外、「杭の聖堂」を見つめる。


「陛下……あなたの右腕の技術は、今も形を変えて、多くの人を救い続けていますよ」


◇ ◇ ◇


父王エドワード三世は、静かな余生を送っていた。

黒い蔓の侵食は、王が人柱となった瞬間に止まっていた。


「……お前は、私を超えたな」


北の空を見つめ、独りごちる。


「私は小国を守ることで精一杯だった。しかし、お前は……命を賭して、この大陸すべてを守った」


目に滲むのは、父親としての誇りの涙。


「……よくやった、息子よ。お前は、レムリアが誇る最高の王だった。……ゆっくりと、お休み」


風が吹き抜け、新しい時代の香りを運んできた。

若き王が蒔いた種は、確実に芽吹き、花を咲かせようとしていた。


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