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隻腕の代理王 ―腕一本で国が救えるなら、安いものだ―  作者: ryoma
【第6章:最終決戦編】

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第38話 王政の廃止、そして永遠の眠りへ

広場には数万の民衆が集まっていた。

難民、旧来の民、兵士、貴族。

身分の垣根を越え、一つの国の「民」として。


若き王はバルコニーに立った。

禍々しくも美しい黒い義手。無数の傷跡。

しかし瞳には、一点の曇りもない意志。


「レムリアの民よ。我らは、勝った」


張り詰めた緊張が弾け、歓声が上がる。

若き王は静かに左手を上げて制した。


「だが、まだ終わりではない」


静かに、重く響く声。


「教皇国は制御不能な呪いを解き放った。北の国境は崩壊の淵にある。それを止めるために……俺は、人柱になる」


民衆の間に動揺が走る。悲鳴に近い声。


「案ずるな。俺が人柱となっている間、この国はお前たちの手で守られる」


眼下の海のような民衆を見渡す。


「今日をもって、レムリア公国の王政は廃止される」


雷鳴よりも衝撃的な宣言。


「これからは、民が中心の国を作るのだ。お前たちが自らを選び、支え、自らの足で立つ国を」


声が熱を帯びる。


「俺は、最後の王としていしずえとなる。お前たちは、その礎の上に新しい国を築いてくれ。……できるな?」


言葉を失う民衆。

沈黙を破ったのは、一人の老兵の震える声だった。


「……陛下、万歳」


声が連鎖し、波となり、轟音となる。


「陛下万歳!!」

「レムリア万歳!!」

「我らが最後の王に、永遠の栄光を!!」


万雷の歓声。悲しみと感謝、未来を背負う決意の叫び。

若き王は全身で受け止め、満足げに目を閉じた。

これが、王として聞く最後の音だった。


◇ ◇ ◇


国境の地。

「空間の回廊」から溢れ出す黒いタール。

腐臭と邪悪な魔力。


若き王は立った。傍らには側近たち。

涙を滲ませながらも、誰も止めようとはしない。


「……行くぞ」


異形の義手を高く掲げる。

禁忌の術式、【共鳴する墓標】が起動した。


ドクンッ!!


漆黒の光が体を包む。

大陸中の「負の感情」と「痛み」が濁流となって流れ込む。

全身の骨が軋み、血液が沸騰する。

魂が摩耗する苦痛。


若き王は叫ばなかった。

歯を食いしばり、静かに微笑む。

この痛みが、民が感じるはずだった痛みならば。


「……これで、いい」


声が風に溶ける。


「この大陸の泥を、すべて俺が背負う。お前たちは……平穏に、笑って生きてくれ」


光が凝縮し、体を完全に包み込んだ。

「回廊」が閉じ、黒いタールが吸い込まれ、亡者たちが塵となる。

残ったのは、突き抜けるような青空と静寂だけだった。


◇ ◇ ◇


国境の丘に鎮座する、巨大な黒い結晶。

その透明な闇の中で、若き王は眠っていた。

心臓は微かに、力強く脈打っている。

生きている。

永遠に近い眠りの中で、大陸を守り続けている。


アラリックが跪き、額を結晶に押し当てた。


「……陛下。あなたの遺志は必ず継ぎます。この大陸を、我が命に代えても必ず守ります」


ヴァインが杖をついて歩み寄る。


「……陛下。あなたが夢見た、民が中心の国を、この老骨が砕けようとも必ず作りますぞ」


カイルがスキットルを掲げる。


「……陛下。退屈な平和な世界になりそうだが、あんたの勝ち分を守るためなら悪くない賭けだ。……乾杯」


リオラとエリンが祈るように手を組む。


「……私たちは、あなたの影であり続けます」

「……おやすみなさい、私の王様」


その瞳には、新しい時代を切り拓く決意が宿っていた。


◇ ◇ ◇


長い年月が流れた。

レムリア公国は「共和制」へと生まれ変わり、繁栄を極めた。


ヴァインは制度構築に生涯を捧げ、満足げに逝った。

アラリックは国の守護者として、民から慕われ続けた。

カイルは姿を消したが、危機のたびに影から国を救った伝説となった。

リオラとエリンは「双対の華」として、国の繁栄を支え続けた。


かつての激戦の地には「杭の聖堂」が建てられた。

人々は勝利の日に祈りを捧げる。

「最後の王よ、安らかに眠りたまえ」


◇ ◇ ◇


ある晴れた日の午後。

杖をつきながら聖堂を歩く、一人の老人。

老いたアラリックだった。


黒い結晶の前で跪く。


「……陛下。もう何十年も経ちました」


結晶の奥で眠る、若き日のままの主君を見つめる。


「この国は、あなたが夢見た通りの国になりました。王がいなくとも民が自ら考え、支え合う国に」


皺だらけの顔で微かに笑う。


「ヴァインは数年前に天寿を全うしました。最期まであなたの遺志を継ぐことだけを考えていました」

「カイルは相変わらず博打を打っているようです。リオラとエリンは、今も国を守っています」


深く息を吸う。


「私も、もう長くはありません。しかし……あなたの遺志は、次の世代に確かに継がれています」


震える手で結晶に触れる。

かつて握りしめた手の温もり。


「陛下……いえ、我が友よ」


熱い涙が頬を伝う。


「あなたの最後の王命を、私は守りました。働くのもほどほどに、長生きしました。……幸せな、人生でした」


涙の中で笑う。


「だから……どうか安心して、眠り続けてください。この大陸は、もう大丈夫です」


アラリックはゆっくりと立ち上がり、誇り高く背筋を伸ばした。

最後の敬礼のように深く一礼をし、聖堂を後にする。


扉が閉まる音が響く。

黒い結晶の中で、若き王は眠り続けていた。

その顔には、満ち足りた笑みが浮かんでいた。

それは永遠に続く、幸せな夢の始まりだった。


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