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隻腕の代理王 ―腕一本で国が救えるなら、安いものだ―  作者: ryoma
【第6章:最終決戦編】

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第33話 開戦 ~義手から放たれる黒い奔流~

数時間後。

若き王は自ら馬に跨り、国境の河川へと進んだ。

対岸には教皇国軍の先遣隊、約五千。

黄金の「聖櫃」が厳かに運ばれている。


「汚染された王が来たぞ! 浄化せよ!」


白銀の聖騎士たちが突撃を開始する。

若き王は、静かに右腕の拘束具を解いた。


「メフィスト。……出力を上げろ。加減はいらん」


義手が駆動音を立てて展開する。

カチリ、キィィン……。

黒紫色の稲妻がバチバチと放たれる。


「——道を開けろッ!!」


義手を突き出した瞬間。

数千の「漆黒の蔓」が爆発的に射出された。


ドォォォォンッ!!


水面が弾け飛ぶ。

魔法障壁を紙のように貫き、地面ごと粉砕する黒い奔流。


「な、なんだあの腕は……!?」


制御された「武器」としての呪い。


「全軍、突撃!」


アラリックの号令で黒騎士大隊が雪崩れ込む。

圧倒的な力に戦意を喪失した教皇国軍は総崩れとなった。


若き王は熱を持つ右腕を抑え、眩暈の中で呼吸を整える。

勝った。だが、脳内の「合唱」は音量を増し、理性を削り取っていく。


◇ ◇ ◇


数日間の沈黙を勝ち取った若き王は、少数の供回りと共に北へ向かった。

第一皇子が指し示した「古い図書館の跡地」。


雪と煤が降り積もる荒野に佇む、巨大な墓標のような石造りの建物。

懐の黄金の鍵が、冷たく脈打つように光る。


「……陛下、ここですか」

「ああ」


馬を降りる。

風化した扉の奥から、懐かしいような「気配」が漂ってくる。

義手の黒い蔓が、嬉しげに蠢き始めた。


◇ ◇ ◇


図書館内部は静寂そのものだった。

無限に続く埃まみれの書架。

中央広間の奥、地下へと続く重厚な鉄の扉。


義手が激しく熱を持つ。

地下から聞こえる、あの子守唄のような歌。


扉の脇の石碑。

古代文字だが、今の若き王には意味が読み取れた。


『杭を打つ者に慈悲を。扉を開く者に破滅を。……だが、真実を求める者には、三つの問いを授けよう』


その時、地下からの暗闇に人影が現れた。


◇ ◇ ◇


「……レムリアの……新王……さま……?」


枯れ木のような声。

全身を黒い蔓に侵食されながらも、理知的な瞳を宿した男。

脱走兵ウーゴ。

彼は死んでいなかった。図書館の力で変異を食い止められ、待ち続けていたのだ。


「ウーゴ……」


胸が締め付けられる。

あの日、救えなかった男。


「ウーゴよ。約束を守れず、済まなかった……」

「……謝罪など、勿体なきお言葉です」


掠れた声。


「陛下が帳簿を手にし、地獄を去ったと知った時、初めて自分の命に意味があったのだと……そう思えました」


震える手で背後の闇を指す。


「……来てくださったのですね。……ですが、ここから先は、あなたの『魂』が試されます」


闇から巨大な石造りの「本」が浮き上がる。

【真理の揺籃】。

義手と共鳴し、重々しい音を立てて開かれようとしている。


「魂の試練? 迷っている暇はない。受けさせてくれ」


◇ ◇ ◇


「この図書館は、かつて『鉄の黒死病』の『対価』と『封印の方法』を記録した場所」


ウーゴの声が響く。


「黄金の鍵を差し込み、頁を開いてください。……ただし、文字は書かれていません。書かれるのは、陛下自身の『告白』です」


若き王は鍵穴に鍵を差し込み、回した。

カチャリ。


ドクンッ!!


凄まじい拍動と共に、世界が書き換えられた。

漆黒の空間に独り、浮遊する感覚。

目の前には巨大な「白紙の頁」。


頭蓋の内側に、直接「声」が響く。


『——問う。王とは、簒奪者か、守護者か』


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