表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻腕の代理王 ―腕一本で国が救えるなら、安いものだ―  作者: ryoma
【第5章:聖戦前夜編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/43

第32話 目覚めの朝 ~影に差す光、民との約束~

翌朝。

雨は上がり、空には鮮やかな青空が覗いている。

若き王は、少しだけ軽くなった心で、今日という日を迎える覚悟を決めた。


◇ ◇ ◇


四人の側近たちは、見違えるほど顔色が良くなっていた。

ヴァインの瞳に、知恵者としての鋭くも温かい光が蘇っている。


「陛下……昨夜の『荒療治』には参りました。ですが、おかげで夢も見ぬほど深く眠れました」


アラリックの掌には真新しい包帯。

悲壮な鋭さは消えていた。


「これからは、自らを大切にすることも、陛下を守るための務めの一つと心得ます」


リオラとエリンは並んで跪いている。

「明日をも知れぬ」切迫感は消え、戦士としての静かな鋭さだけが残る。


「影もまた、光がなければ存在できません。陛下が望むなら……時には陽の下で息をすることを許してください」


エリンが微かに笑う。年相応の、あどけない笑顔。


「……昨夜は、穏やかな夢を見ました」


彼らはもはや自分を殺すような働き方はしていない。

若き王の「一部」として機能することに、誇りと余裕を持ち始めている。


「……よし。では、始めるぞ」


◇ ◇ ◇


王が部下に頭を下げたという噂は、一夜にして広がった。

爆発的な忠誠心。だが盲目的な狂信ではない。

互いの弱さを認め合った、強固な信頼関係。

兵士たちは、若き王を共に戦う「仲間」の頂点として敬っていた。


内政も安定し始めている。

父王エドワード三世が事務を代行し、混乱は最小限だ。

難民キャンプは「王立工区」として承認され、城壁の強化が進む。

ロザリンからの「南の備蓄確保」の連絡により、食糧問題も一時の猶予を得た。


◇ ◇ ◇


メフィストの工房。

レオンが「言葉」を取り戻していた。


「……陛下」


複数の声が重なったような、不思議な残響。

だが瞳には、確かにレオン自身の意志が宿っていた。


「教皇国の軍勢は、もう国境の川を渡っています。彼らの『聖櫃』の中に……私と同じ、穴の向こうの声が聞こえます」


若き王は肩に手を置く。


「よく戻ってきた、レオン。……お前の力が必要だ」

「……御意、陛下」


◇ ◇ ◇


メフィストが「それ」を差し出す。

黒い金属と、「蔓」の生体組織が絡み合った魔導義手。

「神喰いの右腕」。

静かにドクン、ドクンと脈打っている。


「装着なさいますか、陛下」

「……ああ」


義手を右肩の切断面に当てる。

冷たい金属が、熱い神経と繋がる。


ズガンッ!!


情報の奔流が脳を駆け抜ける。

再び響き始める「合唱」。

だが、若き王には今、それを支える「鋼の心」と「四人の側近」がいた。


黒い義手の拳を握りしめる。

指が動く。滑らかに、力強く。


「……いいぞ、メフィスト。よくやった」

「ケケケ……光栄でございます、陛下」


◇ ◇ ◇


黒い煤が混じった雨上がり。

広場には、不安を抱えた民と難民が集まっていた。

若き王はバルコニーに立つ。

右肩には、マントの下で脈打つ魔導義手。


「アラリック。合図とともに、その心強さを民に示せ」

「……御意」


若き王は声を張り上げた。

命令ではなく、切実な「願い」として。


「レムリアの民よ。そして、救いを求めて辿り着いた友よ」


難民たちが顔を上げる。「友」という響き。


「情勢が落ち着かず、不安だと思う。どうか一時的に配給が不足しても、難民を責めないでほしい」


旧来の民に動揺が走る。


「彼らはきっと、この国を豊かにする助けとなる。同じ民として、平等に接してほしい」


一拍置く。


「ただ、こんな時期だからこそ……私が完璧でないため、側近ほど狂信的なまでに働いてしまう」


静かなざわめき。王が弱さを認めている。


「その影響で、その部下たちも視野が狭くなっているかもしれない」


欠損した右肩を晒すようにマントを動かす。


「……私は完璧な王ではない。見ての通り、右腕一本すら守れなかった男だ」


息を呑む民衆。


「ただ、国は王ではない。民あっての国だ」


声が力強くなる。


「行き過ぎた雰囲気があれば……民の方から、部下の目を覚まさせてほしい。心が折れかけていたら、責めずに支えてほしい。官民一体にならないと、乗り越えられない争いが迫っている」


深く頭を下げる。


「どうか、よろしく頼む」


広場が凍りつく。

王が頭を下げ、側近の心を救ってくれと願っている。

その謙虚さが心の「壁」を溶かした。

敬意、信頼、そして共に生きる決意。


◇ ◇ ◇


若き王は顔を上げた。


「ただ、安心してほしい」


声が鋭くなる。


「お前たちが互いを支える間、敵を阻む『盾』は私が用意した」


黒い義手を晒す。

異形の腕。だが、若き王はそれを誇りとして掲げた。


「この腕は、私を蝕んだ呪いから生まれた。しかし今、それは私の剣となり、お前たちを守る盾となる」


アラリックを見る。


「アラリックよ! その証拠を、民たちに示せ!」


合図とともに、重装歩兵たちが動く。


「——レムリアに栄光をッ!!」


アラリックの咆哮。

旧レムリア軍、元帝国軍、ベリサリウスの老兵たち。

一糸乱れぬ動作で盾を打ち鳴らす。


ガシンッ! ガシンッ!!


地響きのようなリズム。完璧な同調。

圧倒的な威圧感が、「守られている」という実感を民の魂に刻み込む。


歓声が上がる。

恐怖からの解放ではない。共に戦う決意の表明。


「レムリア万歳!」

「新王陛下万歳!」


難民も、旧来の民も、同じ声で叫んでいた。

もはや壁はない。

一つの国の、一つの民として、そこに立っていた。


お読みいただきありがとうございます!

もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆(投稿)の励みになります!

ブックマークもぜひポチッとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ