第28話 教皇国の使者へ突きつける「宣戦布告」
教皇国の不吉な使者が去った後、若き王はただちに側近たちを招集した。
カイル、ヴァイン、アラリックが集まる。
「全土で狂信的な演説が行われているなら、奴らは真っ黒だ」
玉座から身を乗り出す。
「教皇国に希望はあるか? 話の通じる相手は」
カイルが腕を組む。
「……帝国以上に厄介です。『欲』で動く帝国とは違い、教皇国は『正義』で動く。狂信的な正義は殺し合うしかない」
声が低くなる。
「ですが、裏地はあります。狂信派に弾圧されている『古儀式派』……彼らは今の暴走に絶望しています」
目が光る。
「彼らと接触できれば、内部崩壊を狙えます。リラの歌が、国境を越えて届く暗号になります」
若き王は頷く。続いてヴァイン。
「周辺諸国との外交です。戦力均衡の鍵は南の『自由都市連合』」
地図を指差す。
「彼らは新しい『物流の心臓』を求めている。レムリアの『鉄門の峡谷』の通行権をチップに、私兵と火器を借り受ける交渉が可能です」
「……金で買える武力か。いいだろう。人選を用意しろ」
◇ ◇ ◇
数刻後。
練兵場で、三人の「曲者」たちと対面する。
一人目。
元伯爵セバスチャン。神経質そうな眼鏡の男。
泥に膝をつく。
「陛下、難民は『ゴミ』ではありません。役割と食糧を与えれば、死ぬまで働く最強の『壁』であり『農夫』です」
狂気にも似た情熱。
「私に権限を。一月で生産力を倍にしてみせましょう」
「……いいだろう。後で詳しく聞く」
二人目。
マダム・ロザリン。妖艶な闇商人。
紫煙を吐き出す。
「聖戦? 結構じゃない。戦争は一番儲かる商売よ」
艶やかに笑う。
「私を南へ行かせなさい。石頭の商人に『神よりも金』を信じさせてみせる。火薬の山を運んでくるわ」
「……期待している。ただし、裏切ればその首を金貨に変えるぞ」
三人目。
イカロス。顔半分を火傷で覆った爆発物の専門家。
「陛下、私は……爆発が好きなんです」
残った片目を輝かせる。
「呪いと機械、火薬の融合……それは、きっと美しい」
「……レオンとメフィストの補助に回れ。美しい爆発を、敵のド真ん中で咲かせてみせろ」
◇ ◇ ◇
城の地下。メフィストの工房。
レオンが運び込まれている。
虚ろな目で「古い歌」を囁き続ける唇。
メフィストが「呪いの右腕」を近づけた瞬間、レオンの瞳に激しい拒絶の光が宿った。
「あ……あ、あ……!」
初めて上げた声。魂からの拒絶。
「ヒヒッ……陛下。レオン君は『穴』の向こうを覗いてしまった」
メフィストは右腕だった「モノ」を、義手の骨組みに接続する。
「彼は地獄と現世を繋ぐ『翻訳機』です。彼の歌を解析すれば、呪いを制御できる」
実験を始める手つき。
「……彼を『復活』させるのは、人間としてではなく、『魔導の騎士』としてになるでしょう。人の心を持ったままでは耐えられませんから」
若き王はレオンを見つめる。
かつての忠臣。
「……分かった。だが、彼の心は殺すな。彼が彼である限り、私は彼を待つ」
「……承知しました、陛下」
◇ ◇ ◇
私室。リオラとエリンが現れる。
「報告を聞きたい。密偵部隊の状況は」
「城下の孤児や素浪人を集め、諜報部隊『銀の鴉』を組織しました」
名を心に刻む。
「教皇国の『免罪修道士』の動向は、エリンの部下が追っています」
エリンが顔を上げる。
「動きは把握しています。次に何を仕掛けてくるか、私が、見逃しません」
「信頼できる貴族については」
リオラが続ける。
「三家ほど、先代への忠義を守っていた家名があります。彼らに難民受け入れを任せ、セバスチャンと競わせるのがよろしいかと」
「分かった。詳しく聞かせろ」
◇ ◇ ◇
その時。
扉が荒々しく開かれ、ヴァインが駆け込んできた。
「陛下! 緊急の報告です!」
声が震える。
「帝都崩壊で行方不明となっていた『第一皇子殿下』が、手負いの親衛隊と共に保護を求めているとのことです!」
若き王の目が見開かれる。
「第一皇子だと?」
「はい! 教皇国の暗殺者に追われています! 混乱に乗じ、帝国の血筋を根絶やしにしようとしている模様!」
第一皇子。
傲慢な男。
だが、彼を保護すれば「正統な継承権」という最強のカードが手に入る。
同時に、教皇国との全面衝突は避けられない。
劇薬だ。
若き王は沈黙した。
そして、決断を下した。
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