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隻腕の代理王 ―腕一本で国が救えるなら、安いものだ―  作者: ryoma
【第3章:帝都強行編】

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第17話 狂気の志願者たち ~マッドサイエンティストと老将軍~

降りしきる雨。

新王としての宣言を終えた若者は、濡れたマントを翻して側近たちに向き直った。

瞳には、冷徹で静かな理性が戻っていた。


「それでは、遠征の準備を始める。しばし待たれよ」


千人長に告げ、自らの懐刀たちへと視線を巡らせる。

老宰相ヴァインが一歩前へ。


「ヴァイン。隠居を決め込む暇もなく、忙しくなった。城を頼む」

「……御意。この老骨、粉になるまで」

「リオラの調査も問題ない一次通過者は、帝国への道のりで確認するから護衛隊に組み込め。……先ほどの演説と、この右腕。命知らずな志願者が来るかもしれん。頼んだぞ」

「承知いたしました」

「貴族の手綱もだ。裏切り者の炙り出しと、日和見主義者への釘刺しを」

「……甘い汁を吸った代償は、高くつくと教え込みましょう」


若者は影のリオラを見る。


「リオラ、ヴァインとともに城を頼んだぞ。教皇国の動きには特に目を光らせろ」

「承知いたしました。影より目を凝らします」

「すぐにエリンを寄こす。手足のように扱え」


リオラの目が微かに見開かれる。


「厳しくしていい。私の、そしてこの国の『右腕』に育て上げろ」


隻腕の王の、切実な命令。


「……畏まりました。必ずや」


若者はアラリックに向き直る。


「アラリック、同行を頼む。お前の武威がなければ、帝国の狐たちはすぐに牙を剥く」

「御意! この命、殿下の盾となりましょう」

「あと、謝らねばいけないことがある。出発前に、限られた者たちだけで話をしたい」


アラリックの表情が一瞬強張る。

何かを察し、苦渋に満ちた顔で頷いた。


最後に、カイル。

皮肉屋は、濡れた髪をかき上げてニヤリと笑っている。


「カイル、無茶な旅になるが、不可欠だ。引き続き頼んだぞ」

「……俺を『側近以上』ですか。酒場のゴミから出世したもんだ。まあ、この博打が終わるまでは付き合いますよ。沈むにしても最前席で見届けてやる」


◇ ◇ ◇


出発前の、束の間の静寂。

雨音が反響し、冷たい空気が澱む城内の一室。


若者、アラリック、カイル、そして憔悴したエリン。

簡易的な寝台には、廃人のようになったレオンが横たわっている。

唇は微かに動き続け、呼吸音が異界の韻律を奏でている。

手足の黒い泥の痕は、決して消えない。


アラリックが若者の前に進み出る。

重い音を立てて膝をついた。

鉄の籠手を外し、床に置く。武装解除。絶対的な恭順と悔恨。


「陛下……いえ、殿下」


声が震える。


「レオンのことは……エリンから聞きました。私の右腕である奴を救うために、陛下自らがその身を……あのような呪いに晒されたこと」


素手の拳を床に叩きつける。ドン。


「将として、これほどの不徳はありません。部下の不始末で主君の御体を損なうなど……万死に値します」


沈黙。

若者は、包帯で隠された右腕を左手で静かに撫でる。


「謝らせてくれ」


三人がハッとして顔を上げた。


「お前たちに、無茶をさせた。私の策のために、レオンをあんな状態にしてしまった。ウーゴは助けられなかった」


王としての威厳ではない。

血の通った、一人の人間としての苦悩。


「アラリック。大事なお前の右腕を、こんな状態にしてすまない」


王が、部下に頭を下げる。

あり得ない光景。


しかし。

その言葉こそが、彼らの魂を真の意味で王に縛り付けた。

恐怖でも利益でもない。「同志」としての結合。


カイルが短剣を鞘に収め、不敵に笑う。


「……謝罪なんて、王様が口にするもんじゃありませんよ。安っぽくなる」


窓の外、帝国軍を見やる。


「だが、あんたがそういう『規格外』だからこそ、俺はこの博打を降りられねぇんだ。普通の王なら、とっくに逃げ出してる」


真っ直ぐに見つめ返す。


「……帝国までの道中、帳簿の『毒』をどう使うか、たっぷりと練り上げさせてもらいますよ。あんたの右腕の代償、高く支払ってもらいましょう」


エリンは、右腕を一瞬だけ見つめた。

そして、寝台のレオンへ。


「……レオンは、私が必ず元に戻す方法を見つける」


小さな、だが鋼のような決意。


「だから陛下も、勝手に死なないで。リオラ様のところで、死ぬ気で『陛下の手足』になってくるから。……帰ってきたら、こき使っていいから」


深く頭を下げ、涙を隠すように部屋を出ていく。


アラリックが顔を上げた。

迷いはない。鬼神の闘志のみ。


「……殿下。この命、レオンの分まで使い果たしてみせます。地獄の果てまで、御供いたします」


若者は頷き、立ち上がった。

雨は止みつつある。

だが、これから向かう先には、より激しい嵐が待っている。


「行くぞ。帝国の喉元へ」


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