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悪事を働くたび、私は聖女に祭り上げられる。〜性悪だった私が転生したのは、悪の概念がない「優しい世界」でした〜  作者: かわうそくん


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第五話:誰にもバレないように「嫌がらせの魔法」を使ったら、「世界を救う秘儀」と解釈されました。〜私の陰湿な呪詛、優しい世界では「目立たぬ献身」らしい〜

言葉、行動、無関心、強奪。あらゆる手段が、この優しい世界では「聖女の健気な献身」として勘違いされてしまった。アリアは、自室のベッドで苛立ちのあまり枕を叩きつけていた。


(直接的な悪意がダメなら、非物質的な悪意を使うしかない。誰も傷つけない、誰も気づかない、陰湿な、呪いにも似た嫌がらせならどうよ!)


アリアは転生時に、前の世界では存在しなかった微弱な魔力を得ていた。だが、この平和な世界では、魔力は生活を豊かにする「便利ツール」としてしか使われていない。


ターゲットは、王都の郊外で慈善活動を行っている、善良で有名な神官、シスター・ロゼッタ。彼女は誰に対しても優しく、貧しい者たちのために尽くす、まさに「善行の塊」のような存在だ。


(あいつの善行を邪魔してやる。慈善事業が失敗するように、陰湿な呪詛をかけてやるわ!)


その日、アリアは屋敷の庭の隅で、誰にも見られないように隠れ、魔力を練り上げた。


彼女が編み出したのは、『微弱な運気低下の呪詛(仮)』。対象者が取り組んでいる物事の成功率を、ごくわずかではあるが、確実に低下させるという、非常に陰湿で地味な嫌がらせ魔法だ。


「さあ、シスター・ロゼッタ。あんたの慈善活動は、小さな失敗で少しずつ崩れていくがいいわ!」


アリアはロゼッタがいる方向に向けて、魔力を込めた黒いもやを飛ばした。その靄はすぐに空気に溶け、ロゼッタの元へと向かう。


(誰も気づかない。誰も傷つかない。でも、確実にロゼッタは些細な失敗に悩まされる。これなら悪意が通じたと言えるでしょう!)


数日後、シスター・ロゼッタが王都の慈善教会で開いた「孤児のための炊き出し会」に、アリアは令嬢として視察に訪れることになった。


アリアは内心、ワクワクしていた。きっと、パンが焦げ付く、材料が少し足りなくなる、雨が降って人が集まらない、といった小さな災難が起こっているはずだ。


だが、会場の様子は、活気にあふれていた。孤児たちは笑顔で温かいスープを飲み、ロゼッタはいつも通りの優しい笑顔で皆を労っている。


(失敗してない……だと!?)


アリアはロゼッタに近づき、嫌味と悪意を込めた笑顔で話しかけた。


「シスター。あなたの慈善活動、順調そうで残念ですわね。何か、トラブルはありませんでしたか?」


ロゼッタは不思議そうな顔で、優しく首を傾げた。


「アリア様? トラブル、ですか? ああ、そういえば、少しだけ……」


ロゼッタはスープ鍋を指さした。


「実は、今日のスープの味が、いつもより少しだけ塩気が強かったんです。ほんのわずか、微かに……。誰にも気づかれないくらいの、小さな失敗です」


(やった! 私の呪詛が効いたのね!)アリアの心の中で歓喜が湧き上がる。


しかし、ロゼッタは続けた。


「ですが、そのおかげで、かえって良かったのです。いつもなら、孤児たちはスープを飲み終わるとすぐに遊びに行ってしまうのですが、今日は皆、『塩気が強いから、パンを多めに食べなきゃ』と言って、普段よりパンをたくさん食べたんです」


「え……?」


「その結果、皆、いつもより満腹になり、午後はとても穏やかに過ごせました。皆、『今日のスープも美味しかった!』と、普段以上に感謝してくれましたよ」


ロゼッタは、アリアの手を優しく握り、感極まった表情になった。


「アリア様……! これも、アリア様のお心遣いですね! 私たちの目には見えないところで、世界を救う秘儀を使ってくださったのですね!」


(秘儀!? 運気低下の呪詛が、孤児を腹いっぱいにさせる魔法に変換されただと!?)


「実はですね、私にはわかっていたのです。アリア様は、ご自分の存在が目立つことを良しとしない、健気な方。だから、誰も気づかないように微細な力を使って、私たちを陰から支えてくださっている!」


ロゼッタは涙声でアリアを称賛する。


「この塩気のわずかな変化は、『シスターよ、小さな失敗を恐れるな。その失敗すらも、愛に変えられるのだ』という、アリア様の目立たぬ献身からのメッセージだと受け取りました! ありがとうございます、アリア様! 私の聖女様!」


ロゼッタは、アリアの小さな身体を抱きしめた。


アリアは、ロゼッタの温かい抱擁の中で、完全に思考が停止していた。


(陰湿な嫌がらせが、なぜ世界を救う秘儀になり、目立たぬ献身になるのよ!? もう、どうしたらこの人たちを傷つけられるの!?)


自分の悪意が、目に見えない次元にまで昇華され、究極の善意として返ってくる。もはや、自分が何のために悪事を働こうとしているのかすら、わからなくなりつつあった。


その日、アリアは自室に戻り、一人、鏡を見つめた。鏡の中の可愛らしい幼女は、疲労と困惑で、瞳の奥が潤んでいるように見えた。


(悪役の道は……遠いわ。でも、絶対に、私は負けない……! 次こそは、誰もが驚く大悪事を働いて、この世界の欺瞞を暴いてやるんだから!)


その夜、アリアは、善行を積み重ねる者だけが流すという『慈愛の涙』を流していると、屋敷中で囁かれることになる。そして、呪詛のために使った魔力が、実はロゼッタの慈善活動の成功率を微細に『補強』する結果になっていたことを、彼女はまだ知らない。

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