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悪事を働くたび、私は聖女に祭り上げられる。〜性悪だった私が転生したのは、悪の概念がない「優しい世界」でした〜  作者: かわうそくん


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第四話:人のものを「奪い取る」はずが、「無償の愛の継承」とされました。〜私の強奪、優しい世界では「次世代への贈与」らしい〜

悪意ある言動も、無関心も通用しない。この世界の人々は、私の行動の裏に、勝手に美徳を見出す天才だ。


(こうなったら、物理的に、誰かの大切なものを強引に奪うしかないわ! 言葉の裏読みができない、明白な強奪こそが、彼らに悪意を認識させる唯一の手段よ!)


ターゲットは、街の商人の中でも、特に素朴で気の良い、雑貨商の老婦人マーサと、彼女の愛用している「幸運を呼ぶブローチ」だ。


マーサのブローチは、彼女の亡き夫が贈ったもので、古びているが彼女にとって何より大切な宝物だと聞いている。これを奪い、彼女を絶望させる。これぞ、完璧な悪役の行動だ。


マーサが店で商品を広げているのを見計らい、私は優雅さを装いつつ近づいた。


「マーサ。あなたの胸に付けている、その安っぽいガラクタ」


私はブローチを指さし、嫌悪感を込めた声を出した。マーサは驚いた様子で、ブローチに手をやる。


「ああ、アリア様。これは亡き夫が……」


「言い訳は要らないわ。そのガラクタ、私にちょうだい」


私はあえて『奪う』という言葉を使わず、命令の形を取った。ブローチは、私という令嬢には到底似合わない、古ぼけたすず細工だ。これで、私の「強欲」と「無慈悲」は明白になるはず。


マーサは一瞬、戸惑いの表情を浮かべた。しかし、すぐにその顔は、深い理解と感動の表情に変わった。


「アリア様……! やはり、あなた様は……!」


「何を感動しているのよ、変な人」


マーサは、私の言葉を無視するかのように、ブローチを胸から外し、私の両手にそっと乗せた。その手は温かく、優しかった。


「ああ、アリア様は、なんてお優しい……。そうですよね。このブローチは、私のような老人の手に留めておくべきものではございません」


私は混乱した。強奪の言葉を吐いたのに、なぜ感謝されている?


マーサは、ブローチを撫でながら、目を潤ませて語りだした。


「このブローチの言い伝えをご存じですか? 『このブローチを、次に最も苦難に直面する者に渡す時、幸運は最高の形で発揮される』と。私は、アリア様が、この平和な世界で誰よりも深く、人知れぬ苦難を抱えていらっしゃることに気づいておりました」


(苦難? 私が?あえていうなら、悪役になれないことが苦難だなんて、あんたたちには一生理解できないわ!)


「毎日毎日、人々のためにご自分の身を削って奉仕されるアリア様。皆様の期待に応え、常に聖女であろうとする、その健気な自己犠牲の努力こそが、このブローチを必要としている証拠……。アリア様は、ご自分の困難を明かすことなく、私から『譲り受ける』という形で、無償の愛を次世代に継承する義務を果たしてくださったのですね」


マーサは私の手を取り、まるで大切な娘に家宝を託すかのように、真剣な眼差しで訴えかけた。


「どうぞ、お納めください。私がこのブローチから受け取った幸運と、亡き夫の愛が、アリア様の健気な聖女としての道を、どうかお守りくださいますように」


「わ、私は、そんな高尚な意味なんて……!」


「おやめください、アリア様! ご自分の美徳を、そんなにも謙遜なさらないで! あなた様のお心こそが、この国の宝なのです!」


マーサは、涙でブローチが光るのを見て「ああ、夫も喜んでいる」と呟き、深々と頭を下げた。周囲にいた使用人たちも、その一部始終を見ていたようで、感動のため息が漏れていた。


(ガラクタと罵倒し、強引に奪ったはずなのに、なぜか「無償の愛の継承」と「次世代への贈与」に変換され、私がこの世界の誰よりも健気に苦難を背負っていることになった……!?)


手の中に残された、古びたブローチ。私はそれを握りしめる。奪ったはずなのに、心は鉛のように重い。


屋敷に戻った私を待っていたのは、両親と執事たちの心配そうな眼差しだった。


「アリア! あのブローチは、マーサにとってどんな意味を持っていたか知っていたのか! あえてあれを『奪い取る』という形で受け継いだ、お前の健気な覚悟に、父さんは胸を打たれたよ」


「マーサから苦難を引き受けたのね。アリア、無理はしないで」と、母親は私の頭を優しく撫でる。


(違うのよ! 私はただ、人の大切なものを奪い、その顔が絶望に染まるのを見たかっただけなのに!)


私が手に入れたのは、悪役としての充足感ではなく、マーサの無償の愛と、亡き夫の思い出という、最も重い「善行の証拠品」だった。


私はベッドにブローチを投げつけ、シーツに顔を押し付ける。


「もう嫌だ……! 次は、何なら悪意として通じるのよ! 私は、この世界に悪役が必要だってことを証明してやるんだから!」


可愛い幼女の頬に、決意の涙が伝う。その涙は、マーサのブローチの錫細工を、かすかに反射させていた。

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