第十四話:ルナの「真の悪意」を暴く。〜私の怒りの告発、聖女同士の「優しさ合戦」らしい〜
植木鉢の件で、物理的な悪行もルナによって「愛の試練」へと変換され、アリアは焦燥感を募らせていた。ルナの極悪さは、アリアの性悪さを遥かに凌駕していた。
(あの女の最終目的は、きっとこの世界の支配よ。この平和ボケした世界を、手中に収めようとしている!私の悪役の座どころか、私の遊び場まで奪おうなんて、許さないわ!)
ルナは最近、王立図書館の司書を無報酬で手伝い、古い文献の整理に当たっていた。しかし、アリアはルナの行動を分析し、それが単なる「善行」ではないことを見抜いていた。
「ルナは、この世界の支配構造に関わる古代の文献を探している。そして、自分の支配権を確立するために、王家や教会の評判を巧妙に貶めている!」
実際に、ルナが関わった貴族の間に、王家の決定に対する微細な不満や、教会の教えに対する小さな疑問が、ごく自然な形で広がり始めていた。誰もルナを疑わない。なぜなら、彼女は最高の笑顔で、「もっと素晴らしい国になるはず」という希望的な言葉を囁いているだけだからだ。
アリアは、この「真の悪意」を、公の場で暴くことを決意した。
その日、王都の広場で開かれた慈善行事の壇上。ルナが人々の前で、謙虚な態度で未来の希望を語り終えた、まさにその瞬間だった。アリアは、ルナの隣に割って入った。
「ルナ。貴女は嘘つきよ!」
アリアは、手元に集めていた証拠――ルナが図書館で閲覧した古代の支配構造に関する文献の写しと、ルナが囁いた批判的な言葉の要約を、周囲に見せつけようとした。
「この文献を見なさい!貴女は、この国のシステムを破壊し、国民を支配しようとしている!ルナは悪の権化よ!」
アリアの告発は、過去最大の怒りと憎悪が込められていた。これで、ルナの計算された極悪な本性が、白日の下に晒されるはずだ。
しかし、ルナは、アリアの差し出す書類を見ることなく、その場で静かに、大粒の涙を流し始めた。
「アリア様……! そこまで私を思ってくださるなんて……!」
ルナは、涙で顔を濡らしながら、広場の全聴衆に聞こえる声で、悲痛な叫びを上げた。
「皆様! アリア様は、私が連日の慈善活動と勉学で過労の限界に達していることを見抜いておられたのです!」
ルナは、アリアの手から書類をそっと受け取ると、その紙を優しく撫でた。
「この書類は、私が無理をしてでもこの国に貢献しようと、密かに取り組んでいた『未来の国の在り方』についての構想です。ですが、アリア様は、私が体を壊すのを案じて、『支配』や『破壊』といった厳しい言葉を使い、私の活動を強引に止めさせようとしてくださっているのです!」
広場は、瞬く間に感動の渦に包まれた。
「ああ、聖女様はルナ様が心配なのだ!」
「互いを思いやりすぎて、どちらがより健気かという、優しさ合戦を繰り広げていらっしゃる!」
「アリア様は、ルナ様を休ませるために、自分の評判を落とす危険を冒してまで、あえて悪役を演じていらっしゃる!」
ルナは、観衆に向かって深々と頭を下げた。
「アリア様は、私に『体を休め、もっと賢く、効率的に国民を愛しなさい』という教えを、この怒りの告発を通して与えてくださったのです!皆様、どうか、アリア様の愛のムチを受け取ってください!」
アリアは、壇上で、ルナの極悪な演技と、国民の天然の誤解という二重の壁に阻まれ、口を開くことさえできなかった。
ルナは、最後にアリアに向かって、周囲には一切見せない、冷たい、勝利の微笑みを向けた。
(アリア。あなたの悪意は、この世界では私を讃えるための最高の踏み台よ。その健気な嫉妬、大いに利用させてもらうわ)
その日、アリアの「怒りの告発」は、「聖女同士の愛の衝突」という美談に変わり、ルナは「アリア様の教育を受けた、謙虚で賢い次世代の聖女」として、さらに国民の心を掌握した。ルナは、アリアの告発で手に入れた古代文献と、増した信頼を武器に、世界の支配という最終目的に向けて、一歩ずつ歩みを進めていくのだった。




