第十三話:ライバルに「命の危険」を与えろ。〜私の破壊工作、ルナへの「愛の献身」らしい〜
ルナの登場は、アリアの悪役としての魂に、再び火をつけた。彼女の憎悪は、世界全体の平和への敵意から、「自分より優秀な偽善者」への邪な嫉妬へとシフトしていた。
(あの女、私と同じくらい可愛らしい外見で、私より完璧に聖女を演じている!しかも、私の悪口すら「教育的指導」として利用する!許せないわ、あの極悪な模倣犯!)
アリアは、ルナの評判を貶めるのは不可能だと悟った。ならば、直接ルナに危害を加え、物理的な「悪意」を叩きつけるしかない。
その日、ルナは侯爵家のテラスで、アリアのメイドであるエルナと共に、庭師のローレンに頼まれた花の手入れを手伝っていた。これは、ルナが「謙虚な献身」を示すための、計算された行動だとアリアは確信していた。
アリアは、テラスの奥から、ルナが座っている椅子の真上に設置された、重い植木鉢に魔力を集中させた。
(ごめんね、ローレンの育てた植木。でも、これでルナの愛らしい顔を潰してやるわ!流血沙汰になれば、さすがに「聖女の悪意」だと認めるしかないでしょう!)
アリアは魔力を解放し、植木鉢の金具を緩め、ルナの頭上めがけて落下させた。
ガシャン!
植木鉢は、凄まじい音を立てて落下した。しかし、ルナの頭を直撃したわけではなかった。ルナは、植木鉢が落ちてくる直前、まるで「不意の出来事を予知していた」かのように、僅かに身をかがめ、植木鉢は椅子のすぐ横のテーブルに激突し、花と土を盛大にまき散らした。
ルナは、少し驚いたような顔をしたが、すぐにエルナとローレンに向かって、安心させるような、しかし計算された笑顔を見せた。
「あら、ごめんなさい、アリア様! 私の不注意で、植木鉢が倒れてしまいましたわ!」
「え?」
アリアは、隠れた場所で絶句した。ルナは、自分の命を狙った行為を、「自分の不注意」として処理したのだ。
エルナが慌てて駆け寄る。「ルナ様! 大丈夫ですか!? 誰かが、紐を切り損ねたのでは……!」
ルナは、優しくエルナの手を取った。
「いいえ、エルナ。誰かのせいではありません。これは、アリア様の究極の愛です」
ルナは、植木鉢の破片と、泥まみれになったテーブルを指さした。
「アリア様は、私がこの庭の美しさに心を奪われすぎて、目の前の危険に無頓着になっていることを見抜いておられた。そして、私自身の命を守るため、自らの罪悪感を負ってでも、この植木鉢を犠牲にして、私に『常に周囲に注意を払え』という、愛の試練を与えてくださったのです!」
ローレンは、泥まみれになった植木を見て涙ぐんだ。
「ああ、アリア様! 私の植木を犠牲にしてまで、ルナ様を教育してくださるなんて……! なんて健気な自己犠牲の愛でしょう!」
そして、ルナは、わざと破片で切れた自分の指先を見せながら、さらに深く頭を下げた。
「アリア様は、私がこの傷を負うことで、『命の尊さ』と『油断の危険性』を身体で覚えるように仕向けてくださったのですね。この痛みは、アリア様の愛の証として、大切にします」
(なによ、あの女! 完全に予知していたくせに、あえて軽く負傷して、私の悪意を『愛の試練』に変換し、私を「命を懸けた教育者」として祭り上げやがった!)
アリアの破壊工作は、ルナによって「命がけの教育的指導」、「献身的な試練」、そして「愛の証」へと変換され、ルナの評判を揺るぎないものにした。
その日の夜、アリアは自室で、ルナの邪悪な笑顔を思い出し、枕を噛みしめた。
「あの極悪女め! 私の純粋な悪意が、あいつの計算された極悪さに利用されるなんて……!」
アリアは、ルナを倒す唯一の方法は、「誰にも真似できない、聖女アリアだけの悪行」を見つけることだと確信した。
(待ってなさい、ルナ。あんたの偽善なんかで崩れない、本物の絶望を、この世界に突きつけてやるんだから!)
アリアの邪な嫉妬心は、次のより大規模な悪行へと、彼女を駆り立てるのだった。




