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悪事を働くたび、私は聖女に祭り上げられる。〜性悪だった私が転生したのは、悪の概念がない「優しい世界」でした〜  作者: かわうそくん


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第十二話:私を模倣する「真の悪役」の登場。〜私の邪な嫉妬、世界の危機を告げる警鐘らしい〜

創世の泉での一件以来、アリアは「愛の聖女」としての地位を揺るぎないものにしてしまった。しかし、アリアの心には、悪役としての誇りが、燻り続けている。


(もういいわ。この世界を汚すのは不可能。ならば、私はこの世界で最も嫌われる存在として、生きるしかない!)


アリアが、次なる悪役の道を模索し始めた、ある穏やかな午後。侯爵家のサロンに、一人の少女が紹介された。


「アリア様。こちらは、遠方の地から最近王都に参られた、ルナ様です。ご両親を早くに亡くされましたが、その健気で慎ましいお心は、アリア様にも引けを取りません」


執事の言葉を受けて、ルナと名乗る少女が、アリアに向かって深々と、完璧な礼をした。


ルナは、アリアと同じくらいの年齢に見える。絹のような淡い銀髪、宝石のような青い瞳。その容姿は、アリアと同じく、この世界の「純粋さ」を絵に描いたような、愛らしさの塊だった。


「アリア様……お目にかかれて光栄です。あなたの清らかな御心は、私の故郷でも讃えられています。私は、あなた様のような立派な聖女に、少しでも近づけるよう努力したいのです」


ルナは、そう言って、瞳を潤ませながら、純粋な敬愛を込めた笑顔をアリアに向けた。


ゾッ


アリアの背筋に、氷のような悪寒が走った。


(なによ、この子。この、完璧すぎる笑顔。この、計算し尽くされた敬愛の眼差しは……!)


アリアは、ルナの瞳の奥に、自分と同じ種類の、ドロドロとした「魂の濁り」をはっきりと見た。それは、この世界の誰にも、両親にさえ見えなかった、真の悪意の輝きだった。


「初めまして、ルナ。自己紹介ありがとう。でも、その嘘くさい笑顔、見ていて虫唾が走るわね」


アリアは、可能な限り冷たい声で、ルナの顔面を真正面から否定した。


ルナは、全く表情を変えなかった。彼女は、悲しそうに、そして理解したように微笑み、そっとアリアの手を取った。


「ああ、アリア様……! ありがとうございます!」


「は?」


ルナは、澄んだ声で続けた。


「私の笑顔が『嘘くさい』、と。それは、私がまだ未熟で、心の底から純粋な笑顔が作れていないことを、アリア様が優しく指摘してくださったのですね!」


周囲の大人たちも、すぐに「理解」した。


「さすがアリア様! ルナ様の謙遜の心を守るために、あえて厳しい言葉を!」

「悪意の概念がないこの世界で、ルナ様を成長させるために、嘘という概念を敢えて口にして教えてくださったのね!」


ルナは、アリアの冷たい視線を受け止めながら、感動の涙を流し、アリアへの愛を深めた。


(クソッ! こいつ、私の悪意を、まるでこの世界の住民のように、瞬時に善意に変換しやがった!)


しかし、アリアは気づいた。ルナの返答は、この世界の住人のような天然の誤解ではない。ルナは、この世界のルールを理解し、計算した上で、私を「聖女」として利用しようとしている。


その瞬間、アリアの心に、これまで感じたことのない邪な嫉妬が燃え上がった。


(私と同じ「悪役」でありながら、私よりも完璧にこの世界のルールを使いこなしている……! 私の悪役の座を、この偽善者に奪われてたまるか!)


ルナはその後、王都の貴族たちの中で、瞬く間に人気者になった。「愛の聖女アリアに認められた、健気な少女」として、ルナの評判は高まる一方だった。


アリアは、自分が聖女として祭り上げられるのは我慢できたが、自分と同じ悪意を持つ存在が、自分より上手く「偽善」を演じているのが許せなかった。


次の日の夕食時。アリアは、ルナを貶めるために、あえて口を開いた。


「ルナは、根っからの悪者よ。あの子がこの世界に来てから、ろくなことが起こっていないわ」


(これで、ルナがこの世界に災厄をもたらす、という噂を流してやる!)


執事は、優しく微笑みながら、アリアの言葉を深く解釈した。


「アリア様は、なんて健気な! ルナ様は故郷を恋しがり、夜も眠れていないと聞きます。アリア様は、『ルナ様の心の平穏を奪っているのは、自分の存在ではないか』と、罪悪感を感じておられるのですね!」


「ルナ様が来たことで、侯爵家の献身が、さらに大きなものになってしまった。その責任を、アリア様は一人で背負おうとされているのだ!」


アリアは、皿のフォークを握りしめた。


ルナの登場は、「アリアの悪意が通用しない」という問題を、「アリアの悪意を上回る、真の悪意」という、新たな次元へと引き上げた。


アリアの邪な嫉妬心は、誰にも理解されないまま、この世界の住人たちには、ルナという新たな脅威に対する「聖女の健気な警鐘」として響き渡るのだった。

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