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名前

「今更だけど来夢っていい名前だよね」

 今日は来夢が一人暮らしをしているアパートに遊びに来ていた。本当は遊園地に行く予定だったけど、超が付く程の大雨で予定を変更していた。


「音の響きはな」

「漢字は嫌なの?」

「漢字って言うよりは意味」

「来夢の夢が叶います様にって事じゃないの?」

「だったら良かったけどな」

 言いたくなさそうだけどここまで聞いたら聞かずにはいられない。


「どういう意味なの?」

「親の夢が俺で叶えられる様にって意味」

 来夢の言葉を理解するのに少し時間が掛かった。


「来夢のご両親が叶えられなかった夢を来夢に叶えてもらいたいって事?」

「そう。マジ自分勝手」

 そこそこ苛立った声で来夢は言った。そんなに怒る事かな?って自分に置き換えてみる。


 お母さんは女優に憧れた時期があったらしい。その夢を私に託されたら嫌だと思うだろうか?


 私も女優になってみたいって思うなら別に嫌じゃないけど、なりたくないのに一方的に期待されるのは嫌だなって思った。結局は自分の気持ち次第だ。


「来夢のご両親の夢ってなんだったの?」

「異世界に行く事」

「それは····」

 言葉が出て来なかった。災難だねとは言えないし、いい夢だねとも言えない。


「なんなら今も自分達が行けたらとか思ってるから。マジ痛い」

「でもさ、もしもご両親が異世界行ったら来夢は行かない運命になるんじゃない?家族全員が異世界って設定は見た事ないし」

 家族全員で異世界生活ってちょっと面白いって思ってしまった事は内緒。

「いや、逆。2人が行ったらなんとしてでも俺を引っ張ろうってする。息子が居たら魔王も倒せますとか言って」


 ご両親に会ってみたい。一緒に盛り上がれそうな気がする。そして異世界行くなら私もとかノリで言っちゃいそうだ。


「じゃあ来夢がもしも子供出来たらなんて名前付ける?ペットでもいいけど」

「とりあえずトムだけはなし」

「なんで?」

「俺の名前の候補だったから。弟居たら絶対にトムにするって言ってた。叶うに夢って書いて叶夢。ってかトムってどう考えても日本人につける名前じゃないし」

「グローバルな時代だから悪くはないと思うけど」

 

 そう答えたのは本心だったけど、もしも私が自分の子供の名前トムにするって言われたら全力で止める。


「異世界のなにがいいんだよ」

「来夢は子供の頃ヒーローに憧れたりしなかった?」

「したけど、それと異世界なんか関係ある?」

「来夢がヒーローに憧れた様にご両親は異世界に憧れたんだよ」

「子供の頃からとかだったらギリ分かるかもだけど、大人になって異世界に憧れ出したんだから話し違くない?」 


「私は大人になってからでも憧れを持つ気持ち分かるかな」

「マジ?」

「マジ。ちょっと前に流行ったワンパーってアプリあったでしょ?」

 ワンパーはワンワンパークというタイトルの略だ。やる前はこのタイトルで面白い?って疑っていたけど、大切に育てていた犬が実は犬の皮を被った他の動物だったりして、それを見破るのが楽しくてしょうがなくなっていた。


「私はワンパーやってる時はあの犬は実は猫なんじゃないかとか思ったけど、そう考えるのバカみたいって自分で思った。でもそれを本気で信じられるなら楽しくていいなって思う」

「それを子供に押し付けるのもアリ?」

「それとこれとは話しが違うよ。それにもしかしたら来夢が異世界にハマる世界線だってあったかもしれないでしょ?」


「いや、ない」

 そういう世界線もあるかもなって答えてくれる方が嬉しいんだけど。例えでも異世界に前向きになるのは嫌な様だ。


「じゃあ音楽好きな親が子供と一緒に音楽を楽しみたいって気持ちは分かる?」

「それは分かる。周りにもそういう奴いるし」

「来夢のご両親はそれの異世界バージョンなんだよ」


「分かる様な分からない様な。ってか分かりたくない。どうやっても子供に異世界に行って欲しいっておかしいだろ」

「世界に羽ばたいて欲しいの異世界バージョンって考えたら分かるよね」

 

 絶対に来夢は同意しないって分かってたけど言わずにはいられなかった。あまりにも否定されているのを聞いていたらご両親を応援したくなってきた。


「いや、世界は分かるけど異世界はどう考えてもないだろ。心優菜はなんで異世界に対して肯定的なんだよ」

「異世界に対してってよりは親の気持ちを子供に託すのは分かるかもって気持ち」

「って言うより、人の親の事悪く言えねぇって感じ?」

「それもあるけど、ご両親の気持ち分からなくないって思うから」


「マジありえねぇけどな」

 あまりにも否定ばっかりするから少しムカついてきて意地悪を言いたくなった。

「そんなに異世界嫌ってたら次に異世界に飛ばされるの来夢になるかもよ。そんなに異世界に行きたくないなら行かせてみようって」


 分かりやすくショックを受けた顔に私の怒りはおさまって悪い事言ったなって気持ちになった。

 シュンとするってこういう事を言うんだなってぐらいあからさまにうなだれる来夢を見ていたら笑いが込み上げて来てしまう。


「ゴメン」

 私からしたら来夢も悪い所があるって感じだけどさすがに言えないから素直にあやまっておく。


「いいけど」

「けど?」

「俺の事嫌いにならないで」


 可愛いって思ってしまった。しまったって言い方は悪いかもしれないけど簡単にそう思わされてしまうのはなんか悔しい。


「ならないよ」

 正しく言うならならない様にする。ご両親に対しての態度だけじゃなくて怖いものは怖いとずっと言い続けられたら私の気持ちもどうなるか分からない。


 でも今はカッコよくて面白くて可愛い来夢が異世界の恐怖とどう向き合っていくのか見守っていきたい。。

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